近年、日本の企業では採用活動を行う中で、親や保護者が若手求職者の就職先について強く影響を及ぼすケースが増加しています。その結果、親の反対や意向により、せっかく内定を出したにも関わらず辞退される事例が目立つようになってきました。
こうした状況の中で注目を集めているのが「オヤカク」と呼ばれる取り組みです。
本記事では、そもそもオヤカクとは何なのか、さらに実施方法から注意点まで詳しく解説します。
目次
オヤカクとは
「オヤカク」とは、企業が内定者の親や保護者に対し、内定について同意しているか、賛成しているか確認をとったり、自社の紹介を行ったりする行為のことです。
本人が入社を希望している場合でも、親の反対が理由で内定の辞退や早期退社に繋がるケースが目立つようになったため、この言葉が注目されるようになりました。
似た言葉で「オヤオリ」がありますが、これは内定者の親や保護者に対してオリエンテーションを行い、企業理解を深めてもらうことを目的とした行為のことです。
オヤカクが必要な理由
バヅクリの実施した調査によると、近年内定辞退率は上昇傾向にあり、2024年卒は10人に6人が内定辞退をしていることが明らかになっています。
内定辞退の要素を1つでも少なくするため、企業はできる限りの策を講じる必要があります。
以下では、なぜオヤカクが必要なのか、具体的な理由をいくつかご紹介します。
内定者の親に安心感を持たせるため
学生にとって親は最も身近にいる社会人であり相談しやすいため、親は子どもの進路決定に強い影響を与えます。
また、核家族の増加に伴い、一人っ子家庭では複数子どもがいる家庭に比べて親側に時間的・精神的余裕があると同時に思い入れも強くなり、子どもの進路により真剣に向き合う親が増加しています。
さらに、ブラック企業に関する報道がSNSやメディアで報道されることが増えている昨今、親は自分の子どもの内定先をより心配するようになっているでしょう。
親が就職先に疑問や懸念を抱いている場合、内定者は進路変更を促されることもあります。オヤカクを実施することで、親に直接会社のビジョンや価値観を伝え、親子間の意見の不一致を解消することができます。
内定者の安心感の向上
親が内定企業に賛同してくれることは、内定者本人にとっても安心材料となります。
就職活動は多くの若者にとって人生の大きな岐路であり、その中で企業から内定を受けることは喜ばしい反面、将来に対する不安やプレッシャーも伴います。このような状況下で、親が内定先に好意的であること、さらに積極的に賛同してくれることは、内定者にとって非常に心強い要素となります。
企業イメージの向上
オヤカクは、企業の採用活動において重要な役割を果たすだけでなく、企業イメージの向上にも大きく寄与します。
特に新卒採用において、親は単なる家族としての存在にとどまらず、企業の姿勢や文化を外部に広める潜在的な担い手ともなります。内定者の親との関係を丁寧に築くことで、企業は「家族思いの会社」としてのポジティブなイメージを社会に浸透させることができます。
また、内定者の親が企業の誠実な対応や魅力を周囲に伝えることで、自然と企業の評判が広がり、長期的には採用力や市場での競争力を向上させる効果が期待できます。
中小企業におけるオヤカクの重要性
株式会社マイナビが実施した調査によると、親が子どもの就職先に求めるポイントとして最も多かったのが「経営が安定している」(48.6%)であり、これは親が企業の安定性を非常に重視していることを示しています。
参考:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240213_69413/#i-7
一方で、中小企業は一般的に大企業や公務員と比較して、安定性や知名度の面で劣ると見られることが多く、親が子どもの中小企業への就職に不安を抱くケースが少なくありません。
親の不安を軽減し、子どもの内定辞退を防ぐためには、中小企業がオヤカクを積極的に取り入れることが重要です。オヤカクを通じて、親に対して企業の魅力や信頼性をアピールすることで、親の理解を深めると同時に企業のイメージアップを図ることができます。
具体的には、以下の観点からのアプローチが挙げられます。
経営の安定性
親が特に重視する「経営の安定性」に関しては、具体的なデータや実績を示し、安心感を与えることが重要です。例えば、企業の創業年数や財務状況、業界内でのポジション、過去の成長率や今後の展望などを丁寧に説明することで、親が感じるリスクを減らすことができます。
福利厚生や労働環境の充実
中小企業は大企業に比べてアットホームな社風や柔軟な働き方を提供していることが多く、これを親に理解してもらうことで、企業の魅力を効果的に伝えることができます。具体的には、社員の声や働きやすさに関する制度を紹介することが有効です。
キャリア形成の可能性
「中小企業だからこそできる成長」があることを伝えることも重要です。例えば、大企業では経験しにくい多様な業務に早期から携われることや、社員の意見が経営に反映されやすい環境であることを説明することで、親が抱える「成長機会への不安」を払拭できます。
効果的なオヤカクの方法
以下では、それぞれの方法について、具体的な内容や期待される効果、さらに効果的に実施するためのポイントを詳しく解説します。
書面でのアプローチ
書面を活用したアプローチは、親が企業の情報をじっくり確認できるため、信頼感を得やすい方法です。
具体的には、内定通知書に会社案内や事業内容、福利厚生の詳細が書かれたパンフレットを同封するほか、内定者の保護者へ手紙を送ることで、企業の理念や入社後のサポート体制について丁寧に説明すると良いでしょう。
また、文章だけでなく、写真や図表を活用してビジュアル的に訴える工夫をすると、親にとって読みやすい内容となります。
電話でのアプローチ
企業担当者が内定者本人から事前に許可を得たうえで、親に直接電話をかける方法です。このアプローチでは、親に対して内定内容や会社の情報を直接伝え、疑問や不安点に丁寧に対応することが目的です。
電話の際には、内定者の親が疑問に感じやすい項目をリストアップしておき、事前に回答を要することでスムーズに対応できます。
また、トーンや話し方に十分注意し、内定者の親に「信頼できる会社である」という印象を与えることが重要です。
内定者の親向け説明会
内定者の親を対象とした説明会を開催する方法は、企業のビジョンや事業内容、福利厚生、内定者へのサポート体制などを直接伝える場として非常に効果的です。
説明会では、経営者や採用担当者だけでなく、実際に働いている若手社員や内定者の先輩社員を登壇させると、リアリティのある声が親に伝わり、信頼感が増します。
また、遠方に住む親が参加できるように、ZoomやTeamsなどのオンラインツールを活用した説明会を実施するのも効果的です。
説明会では、以下の内容を取り上げると良いでしょう。
- 事業内容と将来性・今後の展望の説明
どのような事業を行っており、業界内でどのようなポジションにいるか、さらに今後の成長戦略について具体的に説明します。成功事例や業界内での評価を盛り込むと説得力が増します。
- 職場環境や働きやすさの紹介
職場の雰囲気や社員の声、働きやすさを示すデータ(離職率や育児支援制度の利用状況など)を提示することで、親が抱える漠然とした不安を解消します。
- 内定者へのサポート内容
新人研修やメンター制度など、入社後の成長支援プログラムについて説明することで、「この会社なら安心できる」と思わせることができます。
内定者の親専用の窓口の設置
オヤカクでは、一方的な情報発信にとどまらず、内定者の親が気軽に相談・質問ができる窓口を設けることも重要です。
専用の電話番号やメールアドレスを用意し、親が感じる疑問や不安に個別に対応する体制を整えることで、親の信頼を得られるようになります。
親が抱える疑問に対しては、誠実かつ具体的に回答することが重要です。また、親が安心できるよう、過去の実績や具体例を交えて説明することを心がけましょう。
窓口の設置は、企業の誠実な姿勢をアピールする絶好の機会となります。
オヤカクを実施する際の注意点
以下では、オヤカクを実施する際に特に注意すべきポイントについて詳しく解説します。
内定者本人の同意を得る
オヤカクを行う前には、内定者本人の意思を必ず確認し、同意を得ることが重要です。
政府は、「採用・就職活動日程に関する考え方」(2027年春入社対象)において、オヤカクを「内定辞退の防止を目的として、内定を承諾することについて、保護者の同意を強要すること」と定義し、オヤカクの防止を新たに追加することが決まっています。
親に同意を求める行為が強制とみなされると、企業の採用活動の透明性が疑われ、企業イメージの悪化を招くことがあります。
企業側は、親との接触の目的や内容を内定者に具体的に説明し、不安を与えないように配慮するとともに、過度な介入や強制的なアプローチは避けるようにしましょう。
参考:https://news.yahoo.co.jp/articles/061bb095990fce7331cccd177a1b7c468d5c1fae
プライバシーの保護
内定者やその親の個人情報は慎重に取り扱う必要があります。親との会話や書面でのやり取りにおいて、プライベートな話題に踏み込みすぎないように注意しましょう。
具体的には、内定者やその親の個人情報は採用活動の目的以外には使用しないようにし、親に対してプライベートな情報を尋ねる行為は控えます。
あくまで採用活動と関連性があり、具体的な内容の話題に限定するようにしましょう。
専門用語を避け、わかりやすく説明する
親が企業について詳しい情報を持たない場合も多いため、わかりやすい言葉で説明することが重要です。
特に中小企業やベンチャー企業の場合、親が事業内容に馴染みがない可能性もあるため、専門用語や業界用語は避け、理解してもらえる内容で情報を伝えましょう。
具体的には、「BtoB」「KPI」などの専門用語は避け、「他の企業向けのサービスを提供しています」「会社の目標達成を測る指標です」といった形で、具体例を交えながら説明すると良いでしょう。
オヤカクのタイミングに注意する
オヤカクを実施する際、そのタイミングは非常に重要です。特に、内定者がまだ企業選定中で意志が固まっていない段階で親に連絡を取ると、内定者にプレッシャーを与えてしまう可能性があります。
また、オヤカクのタイミングを誤ると、親が「企業が内定者の意思を軽視している」と誤解し、反感を持つ可能性があります。
内定者が入社を前向きに検討し、一定の決意が固まった時点で親へのアプローチを行うのが理想です。この段階であれば、親に対して企業の魅力を説明しやすく、親の承認を得るプロセスがスムーズになります。
オヤカク対策に有効な早期囲い込み
親や保護者が内定先への入社を反対したとき、内定者が入社に対して迷いがあると内定辞退につながる可能性があります。内定辞退を防ぐためには、内定者の入社意志を早期に固める必要があるのです。
内定者の早期囲い込みを成功させるためには、内定者同士や社員との交流を深める取り組みが非常に重要です。交流の場を設けることで、内定者に「この企業で働きたい」という安心感や帰属意識を高めてもらうことができます。
特に内定者同士の交流は、同じ境遇にある仲間と知り合うことで、孤立感を解消し、心理的な安心感を得る場となります。特に、オンラインが主流となる昨今では、定期的な交流イベントの活用が有効です。
また、懇親会や座談会で社員とも交流することで、企業文化や職場の雰囲気を肌で感じてもらうことで、内定者が入社後を具体的にイメージしやすくなります。
早期囲い込みに有効なバヅクリの施策
ここでは、早期囲い込みに非常に有効なバヅクリの施策をご紹介いたします。
バヅクリは、心理的安全性に基づいたエンゲージメントサーベイや研修、社内イベントなどのプログラムを通じて、行動変容や組織改善を促すサービスです。
内定者同士や社員との対話を促進する200種類以上の研修 / ワークショップのなかでも、内定者の早期囲い込みに最適なプログラムをいくつかご紹介いたします。
人狼座談会
・Z世代に人気の高いゲーム性を取り入れ、楽しく職場と社員の理解を促進させる
・ユニークな方法での座談会を実施し、内定承諾率向上を狙う
内定者座談会では、先輩社員が内定者のフリをして参加し、「採用試験を受けた理由」や「不安なこと」などのテーマで対話を楽しみます。
内定者視点に近い意見を共有することで、働くイメージをリアルに感じ、入社後のギャップを軽減できます。後半では先輩社員が正体を明かし、ざっくばらんなトークを通じて親睦を深めます。
プロのMCによる進行で盛り上がるイベントとなり、参加者の相互理解と企業理解を促進し、内定辞退を防ぎます。
おえかきコミュニケーションワークショップ
・描くこと・言語化することで内省してお互いの価値観を認識する
・絵の対話を通じて、相互理解のある関係性を構築する
非日常の「おえかき」体験を通して、参加者同士の相互理解とチームの一体感を深めるワークショップです。
絵のうまい下手は関係なく、抽象的な表現で感情を可視化し、言葉では伝えにくい本音を引き出します。アイスブレイクの短いおえかきに続き、感情表現、そして「理想の社会人」等のテーマに基づいた対話ドローイングを行います。絵の共有と対話を通して、自己理解と他者理解を深め、深いつながりを感じられるプログラムです。
部署間の垣根を超えたコミュニケーション活性化にも効果的で、目的に合わせた進行が可能です。また、ワークショップ後の会話のきっかけとなり、持続的な関係構築を促進します。
オンライン謎解き脱出ゲーム
・謎解きにチームで挑戦することで、チームワークを醸成する
・ひらめき力・分析力・観察力といった、ビジネスにも使える力を楽しく身につけられる
バヅクリの脱出ゲームは、没入感あふれる世界観の中で楽しめるプログラムで、非日常の設定が役職や立場を超えた自然な会話を促します。
参加者は、洞窟に閉じ込められる設定の下、謎を解き、仲間と協力して脱出を目指します。全員が参加しやすい工夫が施されており、初心者でも安心して楽しめます、
謎解きを通じてチームの相互理解や一体感を深めることができ、より良いチーム作りを支援します。特にチームビルディングやコミュニケーションを強化したいチームに最適です。
まとめ
今回の記事では、「オヤカク」についてご紹介いたしました。
オヤカクは、一定の効果は期待できる一方、内定者の親や保護者と接触するため、リスクも伴う方法です。
今回ご紹介した方法と注意点を参考に、モラルを守って実施するようにしましょう。
また、オヤカクの前段階「早期囲い込み」のため、ぜひ一度バヅクリのプログラムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。