「昇進の話を振ったのに、期待の若手からやんわりと断られた」「管理職公募を出しても一向に手が挙がらない」……。
今、多くの企業がこうした「管理職イヤイヤ病」という壁にぶつかっています。かつてはキャリアアップの象徴だった管理職は、なぜ今の若手にとって「避けるべき苦行」になってしまったのでしょうか。
本記事では、最新データをもとに、若手の本音と現代の価値観に即した「新しいリーダーシップの形」を徹底解説します。
8割以上が「管理職になりたくない」という現実

かつては成功の象徴であった「昇進」。しかし最新の意識調査では、8割を超える会社員が「管理職になりたくない」と回答しており、この傾向は定着しつつあります。
管理職希望状況

(参考:カオナビHRテクノロジー総研 2026/02/26 調査)
一般社員に対し「将来的に管理職になりたいか」という調査において、「なりたい(4.5%)」「どちらかと言えばなりたい(13.6%)」を合わせた肯定派は、わずか18.1%に。
一方で、「なりたくない」と回答した人は半数を超える52.7%に達しており、「どちらかと言えばなりたくない(29.2%)」を合わせると、全体の81.9%が管理職への昇進を望んでいないという衝撃的な結果が出ています。
「昇進=成功」というかつてのロールモデルは完全に崩壊しており、8割以上の社員にとって、管理職は「目指すべき場所」ではなく「避けるべき役割」へと変化していることがわかります。
【年代別】管理職への意向

(参考:カオナビHRテクノロジー総研 2026/02/26 調査)
次世代を担う20代・30代に注目すると、すでに半数を超える52.6%が「管理職になりたくない」と回答しています。キャリア形成の初期段階から、過半数の若手が管理職という選択肢を「自分には無縁、あるいは避けるべきもの」と判断している事実は、将来のリーダー候補不足になりかねません。
若手層にとって管理職は、もはや憧れのポジションではなく、「なりたくないポジション」として認識されている現実を受け止める必要があります。
なぜ若手は管理職を避けるのか?現代の「4つの拒絶要因」

若手が管理職を拒む理由は、単なる「わがまま」ではありません。そこには合理的かつ深刻な4つの要因があります。ここでは、若手が管理職になりたくない理由を紹介します。
1.構造的要因:終わりのない「業務の過負荷」

(参考:中間管理職の就業負担に関する定量調査 )
現代の管理職は、本来のマネジメント業務に加え、現場の穴を埋める役割まで担う「業務の過負荷」状態にあります。その結果、管理職の47.7%が「管理職になって残業が増えた」、29.8%が「仕事が思うように進まなくなった」と回答しています。

(参考:中間管理職の就業負担に関する定量調査 )
さらに深刻なのは、日々の業務に追われることで、64.7%が「付加価値を生む業務に着手できない」、63.0%が「学びの時間を確保できていない」という状況に陥っている点です。スキルアップや自己成長を重視する若手にとって、管理職になることは「自分の時間を奪われるリスク」として映っています。業務過多で疲弊している上司の姿は、決して憧れの対象にはなり得ません。
2.心理的要因:重圧が生む「責任とストレス」

(参考:中間管理職の就業負担に関する定量調査 )
管理職の負担は、単なる物理的な労働時間の長さだけではありません。心理的負担をより強く感じる役割の筆頭は「組織内外のトラブルや障害の解決(0.075pt)」です。次いで「ハラスメント発生時の対処(0.062pt)」や「部下の評価を行う(0.060pt)」といった、対人コンフリクトが避けられない業務が上位を占めています。
一方で、グラフの右側、物理的な業務量負担をより強く感じる役割として最も突出しているのが「部下の回らない仕事をカバーする(-0.108pt)」です。さらに「外部の市場情報などの収集(-0.092pt)」や「プレーヤーとしての実務(-0.068pt)」など、現場仕事の穴埋めやプレイング業務が、管理職の可処分時間を直接的に奪っていることが数値から読み取れます。

(参考:中間管理職の就業負担に関する定量調査 )
データでは、管理職の54.7%が「疲労が溜まっている」、51.1%が「強いストレスを感じる」と回答しており、さらに49.2%が「睡眠・休息が不十分」という極めて不健康な実態が浮き彫りになっています。心身の健康状態が悪化し、疲弊しきった姿を間近で見ている若手世代は、自身のメンタルヘルスを守るために、無意識のうちに管理職という選択肢を排除しています。実際に、負担感の高い層では27.0%が「他の会社に転職したい」と考えており、組織を支えるべきリーダーが真っ先に脱出を望むような環境は、若手にとって「避けるべき苦行」になっているのです。
3.インセンティブ要因:割に合わない「報酬と背中」

(参考:管理職の罰ゲーム化を止めるための6つのアプローチ )
若手が管理職を目指さない大きな理由の一つに、昇進に伴う「昇給額」が少ないという点が挙げられます。データを見ると、この30年余りで役職ごとの賃金格差は劇的に縮小しました。1992年時点では、非役職者の給与を100とした場合、部長職は314、課長職は254、係長職は192という大きな開きがありました。当時は昇進することで給与が2倍から3倍に跳ね上がる明確なメリットが存在していましたが、2024年の数字では部長職が195.5、課長職が160.4、係長職が121.7まで低下しています。部長であっても2倍に届かず、係長に至っては非役職者とわずか1.2倍程度の差しかありません。
こうして昇進しても手取り額が大きく増えない一方で、管理職特有の重い責任や業務量は増え続け、さらに残業代がなくなることで実質的な労働単価が一般社員よりも低くなる逆転現象さえ起きています。加えて、深刻な人手不足によって新卒や若手の初任給が引き上げられる傾向にあるため、管理職の待遇が見直されない限り、この賃金差は今後さらに小さくなっていくと考えられます。「責任だけが増えて手取りはほとんど変わらない」という現実。これが今の管理職のリアルです。これなら管理職を避けたくなるのも無理はありません。
4.キャリア要因:多様化する「働く価値観」

(参考:【新入社員意識調査2025(3933人のキャリア志向編)】 )
次世代を担う若手の意向として「管理より専門性」を重視する志向も強まっています。新入社員が将来会社で担いたい役割として、組織を率いる「リーダー・管理職(25.2%)」を抑え、「専門性を極め、プロフェッショナルとしての道を進みたい(27.0%)」がトップとなっています。変化の激しい現代において、社内調整やマネジメント業務に時間を割くよりも、どこでも通用する「手に職」を磨くことの方が、キャリアの安全保障に繋がると彼らは合理的に判断しているのです。
また、プライベートを優先する層が一定数いることも見逃せません。同調査では、「特にキャリアについての志向はなく、楽しく仕事をしていたい」と回答した層が23.3%に達しており、「まだはっきりしておらず、今後決めていきたい(23.5%)」という層と合わせると、全体の約半数が、明確な管理職昇進を望んでいない実態が浮き彫りになっています。
なぜ従来の「管理職教育」と「説得」は若手に響かないのか?
「君ならできる」「責任感が成長を促す」といった精神論で説得を試みたものの、想定していた答えとは違う回答が返ってきたという人も多いのではないでしょうか。ここでは、なぜ従来の説得が若手に響かないのか解説します。
「完璧なリーダー像」という高すぎる心理的ハードル

(参照 : ビジネスパーソン4700人に聞いた「管理職への意向」調査)
調査結果を見ると、管理職を拒む理由の1位は「自分には向いていない(52%)」であることがわかります。企業側が「決断力」や「指導力」といった完璧なリーダー像を掲げるほど、若手社員は「自分にはそんな能力はない」と自信を失い、最初から候補に挙がることを諦めてしまいます。「人をまとめる自信がない」「部下を育てるほどの知識も器もない」といった具体的なコメントからも分かる通り、会社が求める理想の形と、若手が抱く等身大の自分との間に大きなズレが生まれているのです。
「自己犠牲」を前提とした旧来の価値観との衝突

(参照 : 75%がZ世代社員のマネジメントに難しさを実感。「指示待ちな姿勢」「主体性や責任感の弱さ」への不満が高まる。ハラスメントへの配慮から指導の難しさも)
「管理職は苦労して当たり前」といった価値観に基づいた教育や説得は、Z世代を中心とした現代の若手には「価値観の押し付け」に映ります。
Z世代社員の特徴として、「ワーク・ライフ・バランス重視である」という項目に対して「とてもあてはまる(75.0%)」と「ややあてはまる(19.9%)」を合わせ、実に94.9%に達しています。対照的に、「キャリアアップ(昇進)の意欲がある」に対して「とてもあてはまる」と回答した割合は、わずか8.8%という結果に。
この圧倒的な乖離こそが、従来の説得が響かない根本原因です。若手にとって、私生活を犠牲にしてまで手に入れる「役職」は、もはや魅力的な報酬ではなく、生活を破壊するリスクでしかありません。
若手のタイプ・悩みに合わせた「令和のリーダーシップ」5つの解決策

これからは若手を「管理職」という枠にはめるのではなく、彼らの価値観に寄り添った新しいリーダーシップの形を提示することが必要不可欠です。ここでは、若手のタイプ別に合わせたリーダーシップの取り方を紹介します。
1. 責任が怖く、目立ちたがらない若手
【権限の分散】「一人の責任」から「全員が導くチーム」へ
「トラブルの責任を一人で負わされる」という恐怖が強いタイプには、リーダーを「決定権者」ではなく「情報の中継地点」と再定義して伝えます。「あなたが決めるのではない。みんなで決めるための場を整えるのが君の役割だ」と、責任の所在をチーム全体へ分散させる提案が有効です。
おすすめ研修「シェアドリーダーシップ研修」

「リーダーシップを分散させる」という考え方を現場に定着させるには、「シェアドリーダーシップ研修」がおすすめです。この研修では、リーダーシップを「特定の人の義務」ではなく「全員が状況に応じて交代で担う役割」と定義し直します。一人のリーダーに依存せず、課題に合わせてメンバーが主導権を握る手法を、ワークを通じて体験。「自分一人ですべてを決めなくていい」という環境を具体的に体感することで、リーダー1人の負担を減らし、チーム全員が主体的に動いて成果を出すスキルを習得できます。
2. 「管理職=孤独」という先入観を持っている若手
【孤立の解消】「縦の支援」から「横のコミュニティ」へ
「上司は孤独で、誰にも相談できず疲弊している」というイメージを持つ若手には、社内に管理職同士が支え合う「横」のネットワークを組織として保証することを提案の軸に据えましょう。上からの指示に従うだけの「縦」の関係ではなく、他部署のリーダーと「これ、どうしてる?」と知恵を共有できる「横」の連帯をセットで提供します。
おすすめ研修「リーダー研修」

「他部署のリーダーとの横のつながり」を作るには、「リーダー研修」がおすすめです。本研修では、同じ悩みを持つリーダー同士が集まり、現場で起こりやすい部下のミスやトラブルへの対応をロールプレイング形式で体験します。同じ立場にあるメンバーと知恵を出し合う過程で、実用的なスキルが身につくのはもちろん、「悩んでいるのは自分だけではない」という安心感を得られます。現場で使える知識を定着させると同時に、孤独感を解消し、部署を越えて支え合える関係性を築くことが可能です。
3. 自分らしさを大切にしながら活躍したい若手
【自己の確立】「型への適応」から「価値観の体現」へ
「管理職になると個性を殺さなければならない」と怯えるタイプには、「管理職は、君のこだわりをチームに投影できるクリエイティブな仕事だ」と伝えるのが効果的です。会社が決めた「理想のリーダー像」を演じるのではなく、本人の強み(例:分析好き、盛り上げ上手、共感力が高い)をマネジメントの核に据えることを提案しましょう。
おすすめ研修「オーセンティックリーダーシップ研修」

「オーセンティックリーダーシップ研修」は、「自分らしさを活かしたマネジメント」を学ぶのにおすすめの研修です。この研修では、自身の人生経験や大切にしている価値観を振り返り、自分ならではのリーダーとしての土台を明確にします。さらに、等身大の自分を見せる「自己開示」をベースにした対話の手法を学び、チームとの深い信頼関係を築くスキルを養います。「理想のリーダー像」を演じるのではなく、無理のない自分らしいスタイルを設計することで、個性を犠牲にせず納得感を持ってリーダーの役割を担うことが可能になります。
4. 威圧的な指示が苦手、支えるのが得意な若手
【役割の転換】「強引な牽引」から「共感と支援」へ
「グイグイ引っ張るタイプではないから自分は不向きだ」と考えている若手に対し、今の時代に最も求められているのは、部下が働きやすい環境を整える「黒子(サポーター)」こそが、今の組織が最も必要としているリーダーシップであることを伝えましょう。彼らの持つ高い共感力こそが、離職防止や生産性向上に直結する武器であることを認識させ、そのスキルを強化させます。
おすすめ研修「サーバントリーダーシップ研修」

「部下を支えてチームを動かす」スタイルを定着させるには、「サーバントリーダーシップ研修」がおすすめです。この研修では、指示や命令で従わせるのではなく、部下が力を発揮できるよう支援することで組織を前進させる手法を学びます。相手の意見を受け入れる傾聴力や観察力を磨き、信頼関係をベースにチームを運営する具体的なスキルを養います。「強引に引っ張るリーダー像」に抵抗がある若手でも、周囲をサポートするという自分の強みを活かしたマネジメント手法を知ることで、前向きに役割を担えるようになります。
5. ライフステージとの両立に悩む女性層
【バイアスの打破】「固定のリーダー像」から「自分らしさの追求」へ
「リーダーは常に仕事中心でなければならない」というこれまでのイメージを、会社として変えていくことが大切です。具体的には、管理職になるタイミングで「17時以降は会議を入れない」「一部の業務を部下に任せる」といったルールを本人と一緒に作ります。会社が無理のない働き方を約束することで、将来の生活に対する不安を取り除き、納得して役割を引き受けられる状態をつくります。また、女性に限らず男性の育休取得や介護など、私生活を重視するすべての若手層にとって、旧来の献身型リーダー像を払拭する働きかけをしましょう。
おすすめ研修「女性リーダーシップ開発研修」

ライフステージの不安を解消し、前向きにキャリアを描くきっかけを作るには、「女性リーダーシップ開発研修」がおすすめです。本研修では、画一的なリーダー像を押し付けるのではなく、一人ひとりの状況に合わせた多様なリーダーの在り方を前提としています。自己理解を深め、同じ悩みを持つ他者と対話するプロセスを通じて、自分にしかできない役割に気づき、自信を深めるプログラムです。育児や介護などの現実的な制約があっても、無理なく活躍できる独自のスタイルを設計することで、将来への漠然とした不安を「自分ならこう関われる」という希望に変える内容になっています。
まとめ:若手が「これならやってみたい」と思える選択肢を
若手が管理職に「なりたがらない」のは、決して向上心がないからではありません。「今の管理職像に自分の未来が見えない」からです。
企業がすべきことは、旧来の管理職像を押し付けることではなく、多様なリーダーシップの「型」を提示し、一人ひとりの価値観に合わせた役割を提案すること。それが、次世代のリーダーを育成するための「令和の正解」です。

