テレワーク下の若手(Z世代)社員が抱えるメンタルの問題やコミュニケーションで重要なポイント、心理的安全性を高める環境づくりについて、東京女子医科大学精神科の助教・非常勤講師を経て、現在は VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長を務めながら産業医としても活動する堤 多可弘氏にお話を伺いました。

2020〜2022年入社の若手(Z世代)社員の傾向や特徴を教えてください

2020年は、若手社員の休職・離職が多い傾向に

医師の堤 多可弘氏

若手社員の休職率と離職率がコロナ禍以前と大きく変化したというデータが明確に出
ているわけではありませんが、2020年から、休職・離職をする若手社員がどこの企業でもとても目立ちました。

それに伴い私が産業医としてお手伝いしている企業では、早々に手を打ち始め、その成果が見えるようになってきました。

わからないことがすぐ聞けない

不調を訴える若手社員に聞くと、「わからないことがすぐ聞けない」「質問できる人がいない」という悩みを抱えている場合がほとんど。
リモートワークが普及し、仕事に関するやりとりしかないことや、飲み会がないこと、実際に会ってもマスクを付けていることなどにより、同僚や先輩と打ち解けることができずに、小さな不安が積み重なって、どんどん心がしんどくなるケースが多いです。

若手社員の特徴は“炎上に敏感“

SNSネイティブであるZ世代の特徴の1つとして、 炎上に敏感 というものが挙げられます。
“炎上 というと大それたように聞こえるかもしれませんが、発言・行動がどう評価されるかに、過敏になっているということです。

それは、SNSなどで容易に晒されたり、叩かれたりする時代であるという背景があります。
自分が発したものを見られ、それに他者からの評価が下されます。
言い換えると、発言行動や行動を多くの人に見張られている時代とも言えますね。

また、若者とのコミュニケーションは、表面上だけで終わりやすいという声もあがっています。
「こんな事を言うのはおかしいのでは?」という不安から、質問がしづらかったり、自分の意見を言いづらかったりするのでしょう。

実際、不調になった若手社員と話していても「こんなことを聞いたら馬鹿にされるんじゃないか?」「自分だけこんなことを聞いているのでは?」と思ってしまい質問できず、自分だけがつまずいているような気がしてしまっているようでした。
その傾向が特にここ数年、強くなっているように感じています。

相談や質問が苦手な若手社員

このように自分の発言・行動への評価に敏感になっている近年の若手社員は、相談をす
るにしても手のかかるやり方をしています。
まずは、仲のいい同期に聞く、その次に歳の近い先輩に聞く、その後に上司や先輩に聞くという手順を踏むことが多いです。

コロナ禍やリモートワークの普及により同僚や先輩・上司との交流や雑談が減少したことで、若手社員にとって相談や質問することへのハードルが上がり、1人で考え込んでしまいます。
そして、考えが袋小路に入り、自分の固定観念に縛られる人が増えました。
しかし、誰かに悩みを話しているうちに「あ、でもこれは大丈夫だな」と自分で解決できるパターンも多くあります。

不調が出やすい時期はいつでしょうか?

秋は不調を感じる若手社員が多い時期

不調を訴える人が増えやすい時期のひとつは秋です。
新入社員は5〜6月頃までは研修をし、7月に本格的に業務に入る企業が多く、夏休みまで
頑張ろうと踏ん張れるものの、夏休み明けごろから不調を感じ始め、秋から会社に行けなくなるというパターンがよくあります。
これはコロナ前も同じですね。

企業側が行うべきコミュニケーションのポイント

ポイントは「構ってもらっている感」と「評価に関係しない会話」

「構ってもらっている感」が大切だと思います。
私がお手伝いしている企業では研修や情報配信の回数を増やしたことにより、離職や休
職の歯止めをかけることができました。

質問することが苦手な近年の若手社員に向け、質問の仕方から研修で取り扱うなど、相談できる環境のベースを作ってあげることも大事だと思います。
その他、「人に低く評価されているのは思い込みだ」とメタ認知をできるようにして
あげることも大切です。

後は、今までは飲み会・食事会で補われていたコミュニケーションの機会を意識的に作ってあげることも必要でしょう。
朝礼の際に、漫画や本など、自分の好きなものについて話してもらうなどを行うだけでも、自己開示が進んでいきます。
自己開示には、評価に関係しない、趣味の話、遊びの話などをするのが効果的です。
年齢層が上の場合は健康系の話もいいでしょう。
また、話し手が「自分の話を受け止めてもらえた」と感じられる、受容された経験を積み重ねることにより、心理的安全性が高まって行きます。
「受け止めてもらえる」という認識は、心理的安全性の基盤になるものです。

心理的安全性は1周まわったコミュニケーション

逆に、知らない人同士の方が心理的安全性が保たれる場合もあります。
初めて会った人に本音で話しているかは別として、強く反論したり、否定から入ったりすることは少ないですよね。
だから、意見が言いやすくなるのです。
このことから、心理的安全性は1周まわったコミュニケーションとも言えます。
見知らぬ人同士の会議は、ギクシャクはするけれど、建設的な話ができるという実験結果も。
ちなみに、一番議論で非生産的になるのは、“ただの仲良し同士”で行う会議です。
忖度をしたり、「楽しかった」だけで終わってしまったりするのです。

生産性を高めるには人間関係が重要

1924年〜1932年に生産性向上の要因を調査するため実施されたホーソン実験という実験
の結果によると、生産性の高い人は、職場にアンオフィシャルな繋がりがある(仲良しの人がいる)という結果が出ています。
ギャラップ社が提供している、「Q12」というエンゲージメントを測るための12の質問で
も、業務や評価に関する質問もあるものの、12問中5問を「職場に親友がいる」「この7
日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした」という人間関係の質問が占めています。
それほど関係性の構築が大切だと考えられます。

エンゲージメントの構成要素

共に遊んだり、会話したりする経験から関係性が構築でき、それに伴い心理的安全性やエンゲージメントが向上し、生産性も向上します。

バヅクリの「焚き火」や「マインドフルネス」の効果を産業医の視点から教えてくださ

焚き火は人と人を近づける

インタビュー時の堤 多可弘氏

大阪ガスと日本大学が行なった実験では、焚き火が親近感を高めるという結果が出ています。

その実験では、面識のない女子大生と主婦を2人1組にし計30名に、暖炉のある部屋とな
い部屋に分かれ、50分間話をしてもらいました。
暖炉のある部屋の方が、話が弾んで自己開示が進み、心理的な距離が近くなり、物理的な距離までも暖炉のない部屋より20cmも近くなっています。

参考:火のある暮らしの効用研究 : 暖炉によるコミュニケーション増進効果

また、別の実験ではリラックス効果があるという結果もあります。
それぞれのグループに対し

  • 焚き火
  • 森林
  • 教室の映像

の映像を見せた場合、リラックス感情は森林が一番高くなり、それに次いで変わらないくらいで高いのが焚き火、一番低い映像は教室のものとなりました。
教室に関してはむしろ若干下がっています。

参考:焚き火による心理的ストレス軽減効果の検証 注意回復理論に着目して― ―

その他にも、少し古いですが面白いデータがあり、欧米には暖炉を設置している家が多いのです。
80〜90%の家に暖房が設置されているのにも関わらず、イギリスでは40%、アメリカでは24%、リビングに暖炉が設置されています。
暖炉が置かれる理由は、ただ部屋を温める器具として用いられているわけではなく、暖炉
(火)を見ることで、団欒のための良い環境になるからという仮説も立てられます。
これらの効果は映像でも同様の効果を期待できるでしょう。
また、焚き火を人間関係の構築に用いるポイントとしては、余計なことを考えずにぼーっと見ていられるということも大切です。

バヅクリのオンライン焚き火

オンライン焚き火
出典:バヅクリ

マインドフルネスには多数の効果が

余計なことを考えないという点では、マインドフルネスも焚き火と同じです。

マインドフルネスを行うことで、コミュニケーションの活性化、心理的安全性の向上、アイディアの創出など複数の効果を期待できます。

マインドフルネスは、参加者がリラックスしきっているわけでもなく、緊張しているわけでもない、独特な表情になるのが印象的です。

バヅクリのマインドフルネス

出典:バヅクリ

その他、バヅクリに期待できる効果はありますか?

研修などは実施した後が大切

研修やワークショップなどを実施すること自体も大切ですが、実施をしたその後に、参加者の中で何が語られるかがさらに大事です。
遊びをテーマにしているプログラムも多いバヅクリのプログラムは、「焚き火は だった○○ね」「マインドフルネスの時に……」と会話のきっかけになり、振り返りやすくなるでしょう。
会話の中でリフレインされやすいコンテンツだなという印象です。

また、文化祭の準備などを思い出して欲しいのですが、「さぁ今から楽しく会話してください!」というシチュエーションよりも、準備中にダラダラと単純作業をしている時の方が会話が盛り上がったり本音が出たりしやすいですよね。
いい意味で油断をすることで話が盛り上がったり、本音が出やすかったりするのでしょう。
その点、バヅクリはよく似た状況を作れるサービスだなと感じています。

プロフィール

堤 多可弘
産業医、精神科医、医学博士
弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。 現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長を務めるとともに、企業や行政機関の産業医を複数こなしている。 ブログや著作、Web媒体や研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営に関する情報発信も行っている。ビジネスパーソンのメンタルへルス相談に定評がある。
著書:「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか 経営戦略としての産業医― 」(祥伝社新書)