研修で管理職候補を育て、後継者候補のリストも作った。それでも「社長の次は誰か」と聞かれると、答えに詰まる企業は少なくありません。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「サクセッションプラン」に関するサーベイ結果(2024年度)でも、社長の後継者候補の育成まで進んでいるプライム上場企業は38%にとどまります。中小企業では、後継者が決まっている企業が約1割しかありません。

本記事では、サクセッションプランの基本と作り方6ステップ、企業事例、そして計画を候補者リストで終わらせないための運用設計までを紹介します。

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目次

サクセッションプランの基本

まずは言葉の意味と対象範囲、似た施策との違い、注目が集まっている背景を整理します。社内で導入を提案するときの土台として押さえておきましょう。

サクセッションプランの定義と対象ポジション

サクセッションプラン(Succession Plan)とは、社長や役員などの重要ポジションについて、後継者候補を前もって選び、計画的に育てる取り組みです。サクセッション(succession)は「継承」、プラン(plan)は「計画」を意味し、日本語では「後継者育成計画」と訳されます。

「社長が明日倒れたら、誰が代わりに判断を下すのか」。この問いにすぐ答えられる状態をつくるのが、サクセッションプランの役割です。

もともとは1950年代のアメリカで、CEOをはじめとする経営幹部の後継者を育てる施策として広まりました。現在は社長や役員に限らず、事業部長や工場長、特定の専門領域の責任者など、不在になると事業が止まるポジション全般が対象になりつつあります。

どこまでを対象にするかは、企業の規模や戦略によって変わります。HR総研の次世代リーダー育成に関するアンケート2026でも、育成のターゲットとして上位に挙がったのは部門長や事業責任者などの実務責任者で、社長・CEOなど経営トップ層を直接の対象とする企業は2割弱でした。人材育成・後任登用・タレントマネジメントとの違い

サクセッションプランは、従来の人材育成や後任登用、タレントマネジメントとは異なる特徴を持っています。

人材育成との違い

まず人材育成は、人事部が主導して全従業員のスキルを底上げする取り組みで、期間も数週間から数か月単位で組まれます。これに対してサクセッションプランは、経営層が主導し、特定ポジションの後継者候補に対象を絞って、数年から十年単位で育てるのが特徴です。

後任登用との違い

後任登用はポジションが空いたときに、直属の部下や近い年次の社員から今の実力で選ぶ、いわば受け身の人事です。サクセッションプランは空席が生まれる前から、部署を問わず将来の伸びしろも含めて候補者を選び、育てておきます。

タレントマネジメントとの違い

タレントマネジメントは、全従業員のスキルや経歴をデータで把握し、配置や育成に生かす仕組み全体を指します。サクセッションプランは、タレントマネジメントの中でも「重要ポジションの継承」に特化した領域と捉えると整理しやすいでしょう。仕組み全体についてはタレントマネジメントの解説記事で詳しく紹介しています。

項目サクセッションプラン人材育成後任登用タレントマネジメント
主導する人経営層人事部直属の上司・部門人事部(経営層と連携)
対象重要ポジションの後継者候補全従業員空席ポジションの近くにいる社員全従業員
期間数年〜十年単位数週間〜数か月即時〜数週間常時(継続して運用する仕組み)
選び方将来の伸びしろも含めて部署横断で選ぶ階層や職種ごとに一律現時点の実力で選ぶスキルや経歴のデータをもとに配置・育成を判断する

サクセッションプランが注目される背景

サクセッションプランの必要性が高まっている背景には、大きく3つの要因があります。

コーポレートガバナンス強化の要請

1つ目は、上場企業に求められるコーポレートガバナンス・コードへの対応です。補充原則4-1③では、取締役会がCEOなどの後継者計画の策定・運用に主体的に関わり、育成に十分な時間と資源がかけられているかを監督するよう求めています。株主総会や投資家との対話で、取り組みの状況を問われる場面も増えました。

人的資本の情報開示への対応

2つ目は、人的資本経営への関心の高まりです。経済産業省の人材版伊藤レポート2.0では、経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みの一つとしてサクセッションプランが挙げられ、20代・30代からの経営人材の抜擢にも触れています。国際標準化機構(ISO)が人的資本の情報開示について定めた国際規格ISO 30414にも後継者計画の項目があり、取り組みの状況を社外に説明する必要が出てきました。

深刻化する後継者不足

3つ目は、中小企業の事業承継の問題です。社長の引退がそのまま廃業につながるケースが多く、後継者の有無が会社の存続を左右します。具体的な数字は、次の章で調査データとともに確認します。

データで見る日本企業の後継者計画の実態

サクセッションプランの必要性は広く知られるようになりましたが、実際の取り組みはどこまで進んでいるのでしょうか。上場企業と中小企業、それぞれの調査から現状を見ていきます。

上場企業:人材要件の設定は約6割、育成まで進むのは4割弱

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2024年11月に実施した「サクセッションプラン」に関するサーベイ結果(2024年度)では、プライム上場企業66社の回答をもとに、後継者計画の取り組み状況を集計しています。社長ポジションで最も実施率が高かったのは、人材要件の設定で59%でした。

一方、後継者候補の選出は44%、候補者の育成は38%にとどまります。育成の実施率は、人材要件の設定より21ポイント低くなっています。

経営陣幹部のポジションでも、人材要件の設定49%、候補者の選出49%、育成44%と、半数を超える項目はありません。ガバナンス・コードの適用開始から10年以上がたった今も、多くの企業が仕組みづくりの途中にいることがわかります。

中小企業:後継者が決まっている企業は約1割

日本政策金融公庫総合研究所の中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)によると、後継者が決まり本人も承諾している「決定企業」は10.5%でした。後継者が決まっていない「未定企業」は20.0%です。

最も多かったのは、自分の代で事業をやめるつもりの「廃業予定企業」で、57.4%に達しています。2019年調査の52.6%から4.8ポイント上がっており、状況は良くなるどころか悪化しているのが実態です。

中小企業では社長一人に判断が集中していることが多く、「いずれ誰かに」と考えているうちに引退の時期を迎えてしまいます。社長だけでなく、営業や製造を一人で支えている部長の後任についても、同じ構図が起きやすいといえます。

「候補者リストで止まる」構造

上場企業のデータからは、取り組みが段階を追うごとに細っていく様子が読み取れます。人材要件を決め、候補者の名前を挙げるところまでは進んでも、育成計画を立てて実行する段階で手が止まるのです。

同じサーベイでは、取締役候補や社長の人選を審議する指名委員会の課題として「社外取締役の委員は候補者に関する情報が足りないため、議論が深まらない」が60%で最多でした。社外取締役の目に候補者の成長が届かないまま、リストだけが毎年更新されている企業が多いということです。

このリストで止まる状態が、サクセッションプランの形骸化の典型です。この後の章では、作り方の段階でこの落とし穴を避ける工夫と、運用で立て直す方法を紹介します。

サクセッションプランのメリットとデメリット

導入を社内で提案する際は、得られる効果と負担の両方を説明できるようにしておく必要があります。主なメリットと、あらかじめ手を打っておきたいデメリットを整理します。

観点メリットデメリットと対策
経営社長や役員が急に抜けても、意思決定が止まる期間を短くできる育成に数年と経営陣の時間がかかる(対策:影響の大きい数ポジションに絞って始める)
候補者長期的な期待が伝わり、優秀層が定着しやすくなる育てた候補者が他社に移るおそれがある(対策:育成計画を本人のキャリア志向とすり合わせる)
組織全体昇進の基準が見え、不透明な人事への不信感が減る選ばれなかった社員の意欲が下がる(対策:告知範囲と選外者フォローを設計する)

サクセッションプランのメリット

サクセッションプランのメリットとして最も大きいのは、経営の空白期間を短くできることです。社長の急病や役員の転職が起きても、準備の整った候補者がいれば、意思決定が止まる期間を最小限に抑えられます。取引先や金融機関にとっても、事業が続くという安心材料になるでしょう。

次に挙げられるのが、昇進基準の見える化です。重要ポジションの人材要件を言葉にする過程で、この会社で上を目指すには何が必要かが社員に伝わり、昇進が「誰かのお気に入り」で決まるという不信感を減らせます。

優秀層の定着にも効果があります。会社から長期的な期待を伝えられた社員は、「ここで次のキャリアを描ける」と考えやすくなるためです。外部から幹部を採用する場合と比べ、社風が合わずに早期に辞めてしまうといったミスマッチも起きにくくなります。

サクセッションプランのデメリットと対策

一方、デメリットも主に3つあります。1つ目は、時間とコストがかかることです。育成は数年単位に及び、経営陣が面談や指導に割く時間も必要になります。最初から対象を広げず、影響の大きい数ポジションに絞って始めるのが現実的な対策です。

2つ目は、手間をかけて育てた候補者が辞めてしまうリスクです。経験を積んで市場価値が上がった候補者には、他社からも声がかかります。育成計画を本人のキャリア志向とすり合わせ、「この会社で実現したいこと」と結びつけておくことが、引き留めの一番の手立てになります。

3つ目は、候補に選ばれなかった社員の意欲低下です。「どうせ自分は選ばれていない」と感じた中堅層が、静かに力を抜いてしまうことがあります。告知範囲の決め方や選外者へのフォローは、後半の運用設計の章で具体的に扱います。

サクセッションプランの作り方6ステップ

ここからは、サクセッションプランを一から作る手順を6つのステップで紹介します。各ステップで決めることと、つまずきやすい点をあわせて押さえておくと、計画倒れを防ぎやすくなります。

STEP決めること主な成果物
1 重要ポジションの特定どのポジションの後継者を育てるか重要ポジション一覧
2 人材要件の定義知識・スキル、経験、資質の3層の要件ポジション別の人材要件
3 候補者の選抜と分類候補者と、登用までの準備度後継者マップ
4 育成計画の作成候補者ごとに積ませる経験と期限育成計画書
5 進捗レビュー計画の進み具合と候補者の入れ替え更新した候補者プロファイル
6 登用判断と就任後支援後継者の決定と引き継ぎの進め方指名の根拠記録・引き継ぎ計画

STEP1 経営戦略から重要ポジションを特定する

最初に確認するのは、経営戦略です。5年後、10年後に、会社がどんな事業をどんな体制で動かしていたいのかを明らかにします。戦略がはっきりしないまま候補者を選ぶと、今優秀な人を並べただけのリストになり、将来の事業に必要な人材とずれてしまいます。

次に行うのが、戦略を踏まえた重要ポジションの洗い出しです。判断に迷ったら、「不在になったら事業が止まるか」「外部採用で埋めにくいか」「戦略上これから新設が必要か」の3つの問いで絞り込むと整理しやすくなります。

3つの問いに複数当てはまるポジションほど、優先度を高くします。現在空いているかどうかは関係なく、将来必要になるポジションも見据えて選ぶのがポイントです。

STEP2 ポジションごとの人材要件を定義する

重要ポジションが決まったら、そのポジションで成果を出すために必要な条件を書き出します。漠然と「リーダーシップがある人」と書くと、選ぶ人によって解釈がばらつくため、できるだけ具体的な言葉に落としましょう。

書き分けの目安として、知識・スキル、経験、資質の3層で要件を整理する方法があります。知識・スキルなら財務諸表を読み解いて投資判断ができること、経験なら赤字事業の立て直しや海外拠点の立ち上げ、資質なら反対意見を受け止めたうえで決断できる胆力、といった具合です。

なかでも経験の層は、研修では身につかない部分です。ここを具体的に書いておくと、STEP4で「どの部署で何を任せるか」という育成計画に直接つなげられます。

STEP3 候補者を選抜し準備度で分類する

人材要件に照らして、候補者を選びます。上司の推薦、自己推薦、アセスメント、選抜研修などの方法があり、複数を組み合わせると偏りを減らせます。声の大きい部署の推薦や特定の役員の意向だけで決めると、「なぜあの人が」という不満が社内に残ってしまうものです。

選んだ候補者は、登用までの準備度で分類しておきます。「今すぐ登用できる」「1〜3年で登用可能」「3〜5年で登用可能」の3段階に分けると、育成の優先順位を決めやすくなります。1つのポジションに対し、段階の異なる候補者を2〜3名置いておけば、急な退職にも慌てずに済むでしょう。

見極めには、業績とポテンシャルの2軸をそれぞれ3段階に分け、9マスに候補者を配置する「9ボックス」も使えます。業績は高いが伸びしろが見えにくい人と、業績はまだ低いが成長の勢いがある人を区別でき、選抜の議論を印象論から切り離せます。

STEP4 候補者ごとの育成計画を立てる

育成計画は、候補者一人ひとりに個別に作ります。STEP2で定義した人材要件と候補者の現状を比べ、足りない部分を埋める手段を選ぶ流れです。同じポジションの候補者でも、営業出身と管理部門出身では不足している経験がまったく違います。

手段は研修だけに頼らず、組み合わせで考えます。とりわけ効果が大きいのは、不足している経験を積ませるための異動や、難易度の高い仕事を任せるタフアサインメントです。新規事業の立ち上げ、不採算部門の再建、子会社の経営などがその例です。

そのうえで、経営陣によるメンタリングで判断の背景を学ばせ、研修で知識を補います。計画には「いつまでに、何を経験し、どの状態になっていればよいか」を書き込み、本人とも共有しておきましょう。

STEP5 進捗をレビューし候補者を入れ替える

育成計画が機能するかどうかは、立てた後のレビューで決まります。半期に1回程度、経営陣と人事が集まって候補者ごとの進捗を確認する場を、年間スケジュールにあらかじめ組み込んでおきましょう。

レビューでは、計画どおりに経験を積めているか、人材要件に対してどこまで近づいたかを確認します。伸び悩んでいる候補者は入れ替え、新たに頭角を現した社員は候補に加えるなど、候補者リストを固定しない運用が欠かせません。

上場企業であれば、レビュー結果を指名委員会や取締役会に報告します。その際、社長の交代時期を一つの目途として仮置きし、そこから逆算して進捗を確認すると、議論が先送りされにくくなります。

STEP6 登用判断と就任後のサポートを行う

交代時期が近づいたら、最終候補者を評価して後継者を決めます。上場企業では指名委員会などで審議し、選んだ理由を説明できるようにしておくことが求められます。中小企業でも評価の根拠を記録しておくと、他の候補者や社員への説明がしやすくなるはずです。

登用した後の支えも、計画に含めておきます。新任者は、就任直後の数か月で周囲の信頼を得られるかどうかが勝負です。前任者がしばらく相談役として伴走し、引き継ぎ資料に書けない人脈や判断の勘所を渡していくと、立ち上がりが安定します。

後継者が決まれば、今度は空いたポジションの候補者探しが始まります。サクセッションプランは一度の交代で完結するものではないため、次の交代に向けて回り続ける仕組みとして設計しておきましょう。

サクセッションプランが形骸化する3つの落とし穴

手順どおりに始めても、数年たつと形だけの制度になってしまう例は珍しくありません。形骸化した企業に共通する3つの落とし穴を、よくある場面とあわせて紹介します。

落とし穴よくある場面立て直しの一手
目的が曖昧なまま候補者リストで止まる選ばれた候補者の仕事が何も変わらない経営戦略から重要ポジションと目的を定義し直す
人事任せで経営陣が関与しない候補者が社長や役員と話す機会がない経営陣との定期的な対話と、経営会議での進捗レビュー
育成が研修だけに偏る研修は受けたが、判断を任される経験がない異動やタフアサインメントで実務経験を積ませる

目的が曖昧なまま候補者リストで止まる

よくあるのが、「ガバナンス・コードで求められているから」「他社もやっているから」という理由だけでスタートするケースです。この場合、目的が曖昧なまま制度は形だけになっていきます。とりあえず候補者を選び、とりあえず研修に参加させ、その先が決まっていない状態です。

候補者本人も、なぜ自分が選ばれたのか、何を目指せばいいのかがわかりません。「選ばれたはずなのに、普段の仕事と何も変わらない」と感じ、期待されている実感が薄れていきます。候補者リストが育成につながらない最大の原因は、経営戦略と結びついた目的が言葉になっていないことです。

立て直すには、STEP1に戻って「5年後の経営戦略を実現するには、どのポジションに、どんな人材が必要か」を明確にし直すのが近道です。目的がはっきりすれば、候補者選定の基準も、育成計画の内容も、自然と具体化されていきます。

人事任せで経営陣が関与しない

サクセッションプランは本来、経営陣が主体となって推進すべきものです。しかし実際には、後継者候補のリストアップは人事部に丸投げし、育成は部門長任せになっているケースが目立ちます。

現場部門長の立場からすると「自部門のことは自分がよく分かっている」と考えがちです。しかし、経営陣がその判断に関与していないなら、それは後継者育成というより「各部署の優秀な人リスト」でしかありません。候補者にとっても、社長や役員と話す機会がなければ、経営陣から期待されている実感は持てないでしょう。

経営陣が定期的に候補者と直接対話する機会を設け、育成の進捗を経営会議で定期的にレビューすることで、会社全体が本気で取り組んでいるというメッセージが伝わります。

育成が研修だけに偏る

サクセッションプランというと、MBA派遣や外部研修プログラムへの参加を思い浮かべる方も多いでしょう。ところが、候補者全員に同じ研修を受けさせても、学んだことを試す場がなければ知識は定着しません。

座学で経営戦略の立て方を学んでも、実際に「明日の会議で決断を下す」プレッシャーの中で判断する経験がなければ、本当の力はつきません。研修は知識を補う手段であり、経営者としての判断力は実務の修羅場で鍛えられます。

育成計画を見直す際は、研修の比重が大きすぎないかを確認しましょう。異動やタフアサインメントで実務経験を積ませ、研修はその振り返りや知識の補強に位置づけると、学びが現場の行動に結びつきやすくなります。

サクセッションプランの企業事例

実際の企業は、サクセッションプランをどのように運用しているのでしょうか。各社の公式発表や適時開示資料、取り組みのインタビューから、大手からベンチャーまで4社の事例を紹介します。

味の素:重要ポジションの約85%で後継者候補を選出

味の素は、最高経営責任者を委員長とし、経営会議メンバーで構成する人財委員会を設けています。人財マネジメント体制に関する公式発表によると、2023年度は分科会も含めて12回の議論を行い、指名委員会とも連動させながら重要ポジションのサクセッションプランを作成しています。

2023年度には、執行役を含むグローバルで約135の重要ポジションのうち、約85%で後継者候補を選出しました。今後は対象ポジションを広げ、国内外の主要グループ会社ごとにもサクセッションプランを作る方針です。

育成面では、執行役候補向けのエグゼクティブコーチングや次世代リーダー層向けのセミナーを階層別に実施しています。2018年度から2023年度までの受講者はのべ246名で、2024年4月時点でそのうち13名が役員に就任しました。経営トップが委員長として人選に関わっている点で、「人事任せで経営陣が関与しない」という落とし穴とは正反対の運用といえます。

キュービック:創業社長が50歳までの交代を宣言し、若手を選抜

デジタルメディア事業を手がけるベンチャー企業のキュービックは、創業者の世一英仁社長が50歳になるまでに経営を引き継ぐことを想定し、2024年にサクセッションプランを始動しました。中核となる後継者候補育成プロジェクトでは、1期目に35歳前後までの社員13名を選抜しています。

実施パートナーのグロービスが公開したインタビューによると、毎回のセッションには役員が同席し、選抜メンバーには子会社の重要ポジションを任せるなど、研修と配置を連動させています。参加者の中からは、執行役員に昇格した社員や事業部長に就いた社員も出てきました。

社長が交代の時期を自ら区切り、一人に承継するのではなくチームで経営を引き継ぐ前提で育てている点が特徴です。人事の専任体制が大企業ほど厚くない成長企業でも、時間軸と経営陣の関与を明確にすれば仕組みは動き出すことがわかります。

資生堂:交代の期限を先に決め、後継者育成を逆算

資生堂は2019年9月、当時の魚谷雅彦社長の再任にあたり、次の任期を2020年から2024年までの5年間とする判断を適時開示資料で公表しました。

資料では、この任期中に後継者の育成などを進め、経営を引き継げる状態まで導くことが社長の役割として示されています。交代の期限を先に決め、そこから逆算して後継者を育てる形です。

トップの交代時期の目安を示すことで、後継者育成の時間軸が社内外に共有されます。STEP5で触れた「交代時期を仮置きして逆算する」考え方を、トップ人事そのものに組み込んだ例といえます。

富士フイルムホールディングス:社外取締役が委員長の指名報酬委員会を設置

富士フイルムホールディングスは2018年5月、取締役会の諮問機関として任意の指名報酬委員会を設置すると適時開示資料で発表しました。設置の目的には、CEOのサクセッションプランと取締役報酬の手続きに関する透明性の強化が挙げられています。

委員会の役割の一つとしてCEOのサクセッションプランに関する討議が明記され、委員長には独立社外取締役が就きました。後継者選びを社長一人の判断に委ねず、社外の目を入れて議論する体制です。

指名委員会の設置は、上場企業が後継者計画の客観性を高める出発点になります。ただし、前述のサーベイのとおり、社外取締役の情報不足は多くの企業が抱える課題です。委員会を置いた後は、候補者の育成状況を定期的に共有する運用までセットで考えておきましょう。

形骸化を防ぐ運用設計

落とし穴を避けるには、作った後の回し方をあらかじめ決めておく必要があります。管理シート、進捗の見える化、候補者への伝え方、小さく始める方法、関係性づくりの5つの観点から運用設計を紹介します。

後継者マップなど3つの管理シートを用意する

6つのステップを回すには、情報を整理する道具が必要です。最低限そろえておきたいのは、全体を一覧する「後継者マップ」、候補者ごとの「候補者プロファイル」、育成の中身を書く「育成計画書」の3つです。

後継者マップは、重要ポジションごとに現任者と候補者を並べ、準備度を色分けした一覧表です。経営会議で1枚を見れば、どのポジションの候補者が手薄かが一目でわかる状態を目指します。候補者プロファイルには、経歴や評価に加えて本人のキャリア志向もまとめておきます。

育成計画書は、候補者ごとに目標とする状態や今期の施策、指導役、レビュー時期を書き込むシートです。最初はスプレッドシートで十分です。項目を固定して毎回同じ形式で更新すると、半期ごとの比較がしやすくなります。

シート主な項目更新の目安
後継者マップ重要ポジション/現任者/候補者名/準備度(今すぐ・1〜3年・3〜5年)半期ごと
候補者プロファイル経歴/直近の評価/強みと課題/キャリア志向/9ボックス上の位置半期ごと
育成計画書目標とする状態/今期の施策(異動・アサイン・研修)/指導役/レビュー時期四半期〜半期ごと

KPIで進捗を見える化する

候補者リストで止まるのを防ぐには、取り組みの状態をKPI(重要業績評価指標)で追うのが効果的です。数字があれば、経営会議で「今期はどこまで進んだか」を毎回同じ物差しで確認できます。

代表的な指標は、次の表の4つです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「経営人材サクセッションプラン(後継者計画)に関するサーベイ」調査結果サマリーでも、特定の後継者候補がいる重要ポジションの割合を「後継者準備率」として調査項目に挙げています。

たとえば重要ポジションが20あり、候補者がいるのが14ポジションなら、後継者準備率は70%です。後継者準備率が高くてもReady Now比率(今すぐ登用できる候補者がいるポジションの割合)が低ければ、「名前は挙がっているが、すぐには任せられない」状態だとわかります。準備率で候補者のいない穴を、Ready Now比率で育成を急ぐべきポジションを見分けましょう。

指標計算方法読み取れること
後継者準備率後継者候補がいる重要ポジション数 ÷ 重要ポジション総数候補者がいない「穴」の多さ
Ready Now比率今すぐ登用できる候補者がいる重要ポジション数 ÷ 重要ポジション総数急な交代への備え
育成施策の実施率実施した施策数 ÷ 育成計画に書いた施策数計画が実行に移されているか
候補者の定着率期末に在籍している候補者数 ÷ 期初の候補者数育てた人材の流出

候補者への告知範囲と選外者フォローを決める

見落とされがちなのが、候補者に選んだことを本人や周囲に伝えるかどうかです。公表すれば本人の意欲は上がりますが、選ばれなかった社員との間に溝が生まれるおそれがあります。

非公表にすれば摩擦は避けられる一方、本人が期待に気づかないまま転職してしまう例もあります。迷ったら、本人には伝え、社内全体には公表しない形から始めるのが無難でしょう。本人には「何を期待しているか」と「選ばれたことは登用の約束ではないこと」をセットで伝えると、過度な期待や慢心を防げます。

選外者へのフォローも欠かせません。候補者の選抜と同じ時期に上司や人事がキャリア面談を行い、専門職としての道や次回の選抜機会を示しておきましょう。「自分にも次がある」と思える社員が多いほど、制度への不満は小さくなります。

中小・成長企業は3ポジションから小さく始める

中小企業や成長途中の企業が、大企業と同じ規模の仕組みを最初から作るのは現実的ではありません。人事の専任担当者がいない会社も多く、対象を広げすぎると1年目で息切れしてしまいます。

おすすめは、対象を社長と、事業を支える部長クラスを合わせた3ポジション程度に絞って始める方法です。1年目は人材要件の定義と候補者の洗い出しまで、2年目から育成計画の実行とレビューに進むといった段階設計にすると、無理なく続けられます。

中小企業では、社長自身が「まだ早い」と後継者の話題を避けてしまうことも少なくありません。想定する交代時期を先に決め、そこから逆算して「いつまでに誰を育てるか」を経営課題として扱うと、議論が前に進みやすくなります。

経営陣と候補者、候補者同士の対話の場をつくる

後継者候補として選ばれることは、大きな期待と同時に、相当なプレッシャーを伴います。「選ばれなかった同僚からどう見られるか」「期待に応えられなかったらどうしよう」といった不安を抱えながら、本来の力を発揮するのは簡単ではありません。

経営陣との1on1では、形式的な「最近どう?」で終わらせず、経営陣が何を期待しているか、候補者が今どこでつまずいているかを率直に話せる関係をつくりましょう。候補者が「まだこのスキルが足りない」と自分から言える状態になれば、育成計画の修正も早くなります。進め方は1on1ミーティングで話すべき内容の記事も参考にしてください。

もう一つ効果的なのが、部署の異なる候補者同士を集めた対話の場です。後継者候補は孤独になりやすく、同じ立場の仲間と悩みを共有できるだけで挑戦への不安が和らぎます。互いの強みを知っておくことは、将来、経営チームとして協力する際の土台にもなります。

サクセッションプランにおけるバヅクリの支援

バヅクリは、単なる人事制度コンサル会社や研修プログラムの提供会社ではありません。企業の経営課題や人材育成の目標を深くヒアリングし、経営戦略と連動した人材育成のパートナーとして伴走支援を行います。
制度を作るだけでなく実際に運用できるまで伴走するコンサルティング体制と、先ほど触れた人と人との関係性を深めるプログラムに強みを持っています。

人事制度X:サクセッションプラン構築の伴走支援

「サクセッションプランを作りたいけど、何から手をつければいいか分からない」
「候補者は選んだものの、育成計画が具体化できていない」
こうした悩みを抱える企業に向けて、バヅクリは「人事制度X」というサービスで、サクセッションプランの設計から実行、効果測定までを伴走支援します。

人事制度Xでできること

  • 経営戦略と連動したポジション設計:「5年後の経営戦略に必要な人材」から逆算し、重要ポジションと人材要件を定義
  • 客観的な候補者選定基準の策定:属人的な判断を排除し、透明性のある選抜基準を設計
  • 個別最適化された育成計画の立案:候補者一人ひとりの現状と課題を踏まえた、実効性のある育成プログラムを構築
  • 効果測定と継続的な改善支援:育成進捗の可視化と、PDCAサイクルを回す仕組みづくり

人事制度Xは単なるコンサルティングではなく、人事担当者と一緒に手を動かしながら、実際に運用できる仕組みを作り上げます。サクセッションプランの構築・見直しをお考えの際は、ぜひご相談ください。

候補者同士・経営陣との関係性を深めるワークショップ

後継者候補は、異なる部署や事業から選ばれることが多いもの。お互いをよく知らない状態では、協力し合うことも切磋琢磨することも難しいでしょう。
バヅクリの対話型ワークショップでは、候補者同士が互いの価値観、強み、課題を深く理解し合う場を提供します。たとえば「こころマッピング」という手法を使えば、日々の業務で感じた出来事・思考・感情を可視化して共有でき、表面的なコミュニケーションを超えた相互理解が生まれます。

候補者同士が信頼関係を築けると、互いに学び合い、支え合う関係性が生まれます。これは、孤独になりがちな後継者育成において、大きな心理的支援となります。

こころマッピングワークショップ

たとえばこころマッピングという手法を使えば、日々の業務で感じた出来事・思考・感情を可視化して共有でき、表面的なコミュニケーションを超えた相互理解が生まれます。候補者同士が信頼関係を築ければ、孤独になりがちな後継者育成の中で、悩みを打ち明けられる仲間ができるはずです。

候補者以外のメンバーも含めて組織の土台を整えたい場合は、アンコンシャスバイアス研修や多様性・相互理解ワークショップも活用できます。組織全体の心理的安全性が高まると、候補者も安心して成長に集中でき、周囲も候補者の成長を支援する雰囲気が生まれます。

まとめ

サクセッションプランは、重要ポジションの後継者候補を前もって選び、数年がかりで育てる計画です。上場企業ではガバナンス・コードへの対応として、中小企業では事業の存続そのものに関わる問題として、取り組む必要性が高まっています。

一方で、最新の調査では、人材要件の設定までは進んでも育成の段階で止まる企業が多いことがわかりました。経営戦略から重要ポジションを決め、候補者ごとに経験を積ませる計画を立て、半期ごとのレビューとKPIで進捗を追う。この流れを回し続けることが、候補者リストだけで終わらせないための近道です。

まずは社長を含む3ポジション程度から、人材要件の定義と候補者の洗い出しに着手してみてください。

成果に繋がる人事制度を構築「人事制度X」

「制度を作ったのにうまく回らない」そんな声をよく聞きます。制度づくりのゴールは、導入することではなく運用が定着すること。

「人事制度X」なら、制度を作って終わりにせず、現場への浸透・運用まで伴走し、成果につなげます。

自社の制度に違和感や課題を感じている方は、まずは現状を一緒に分析し、改善の方向性を見つけてみませんか?お気軽にお問い合わせください。