新型コロナウイルスの影響で、急激に変化した働き方。
現在起こっている組織としての課題や、これからの働き方と組織のあり方について、HR領域のエキスパートであり、講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5,000時間を超える研修やワークショップの登壇実績がある広江 朋紀さんにお話を伺いました。

オンラインイベントの良さや作り方がだんだんと見えてきた

新型コロナウイルス流行の前と後で、社内イベントやコミュニケーション方法の変化はどのようなものがありましたか?

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広江さん
わたしが所属している(株)リンクイベントプロデュースでは、総会、表彰式、キックオフなど、企業の成長の節目となるライフイベントを活用して組織の成長支援をしています。

しかしコロナ禍で、様々な会社でリアルな空間に社員が集まれなくなり、表彰式で社員を労ったり、総会でビジョンを伝え現場の士気を高めたりすることが難しくなりました。

こうした中、今までのように社員とのつながりやエンゲージメントを保つことができないという課題を抱える企業が増えてきています。そこで、オンラインの場でもそのような機会を作れないかというニーズやオンラインならではの良さを活かしながら節目のイベント、場づくりを行えないかという声も多く上がってきています。

オンラインでのイベントとオフラインでのイベント、それぞれ良さはどんなところにあるでしょう?

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広江さん
オンラインでのコミュニケーションや、イベントを行うメリットは、物理的なもの、例えば距離や空間、キャパシティを超えてコミュニケーションを図れるという点にあります。移動距離の問題で全国やグローバルから人を集められない、会場のキャパシティの関係で社員全員を集めることは難しいということはなくなりました。

また、資料やデータ、映像などを瞬時に共有したり、チャットなどの機能を使って参加者全員の「声」をその場に出していく「情報共有」、クラウド上にあがったドキュメントを複数人で同時に編集するというような「情報編集」にも向いており、効率性も高まりました。

逆に難しいところは、体感覚を活かしづらい点です。チームビルデイングなど体感ワークなどを行うのはリアルに軍配が上がります。他にも参加者全員で、手触り感のある何かを創り出すようなクリエイティビティを発揮するようなものにもあまり向いていないと感じます。
他にも、通信環境の問題で間が空いてしまったり、参加者によっては、システムに慣れていない、デジタルリテラシーの格差といった課題もあると思います。

組織内のイベントのニーズはどのように変わってきていますか?

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広江さん
一時期オフラインでイベントを開催するという案件は減りましたが、現在は、社員のエンゲージメントの低下を危ぶみ、オンラインやリアルとのハイブリッドで社内イベントを開催したいという企業が増えています。
弊社ではコロナ禍をきっかけにオンラインで最大限に効果を生み出す方法を模索しました。ここ半年、様々なクライアントを支援してきた中でオンラインでも感情を動かし、社員のエンゲージメントを高める企業支援のやり方が見えてきた状況です。

最近では、5000人規模の大規模双方向のオンラインイベントも企画・運営するなど、そうした機会を通して今までなかった知恵や武器が、増えてきたように感じています。

感情に働きかけるマネジメントをすることが大切

テレワーク中心の業務になり良い点はなんですか?逆に悪い点はなんでしょうか?

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広江さん
テレワークを行うことで仕事の効率性が上がり、たとえば、家族やパートナーとの時間が増えるなど生活の質が向上した点は良い点でしょう。しかし、テレワークが中心になると、セルフマネジメントしないと仕事量が増え、ひっ迫する可能性があります。
また、オンラインでのミーティングやコミュニケーションの機会が多くなり、1on1のやり方も変わってきました。面談の中でメンバーの意見を引き出したり、発言を待ったりするというような余白が少なくなっていると感じます。

無駄が省かれているとも言えますが、マイクロマネジメントによるコミュニケーションではコミュニケーション不足を感じる場合もあります。Slackのテキストのみのやりとりだと、伝えたい行間が伝わらず、冷たいと感じてしまうこともありますよね。

テレワークを中心とした働き方で、気持ちよく働くためにはどうしたらいいでしょうか?

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広江さん
テレワークを中心とした働き方では、円滑に業務を進めるには感情に働きかけるマネジメントを行うことが大切だと思います。私たちは、モチベーションを高める報酬は金銭報酬に加えて、感情報酬が必要だと考えています。
感情報酬に報いるには、これからご紹介する4つの欲求を満たすことが必要です。

まず1つ目は承認欲求です。
「○○さんがいてくれて本当に助かっている。ありがとう」と言ってもらえると、リモートで黙々と1人で作業をしていても、心が報われるということがあると思います。

次は成長欲求。
その組織で仕事をしていたり、その業務を行ったりすることで、新しい技術や知識を手にし、成長実感を感じてもらえるようにしましょう。

そして3つ目は貢献欲求です。
人には誰かの役に立ちたいという欲求があります。
自分の存在や、仕事が誰かの役に立っていると感じられる仕組み作りをしてください。
またリーダーが、「○○さんの仕事はこんなことに役立っている」と、業務に意味づけをしてあげることも大切です。

最後は親和欲求です。
組織の一体感を感じるきっかけが大切です。オンラインでも私たちは1つのチームだと感じられるような瞬間を作れるかがポイントになってきます。

この4つの欲求を満たすことを意識してマネジメントをすることで、オンラインでのコミュニケーションが主になっても、冷たさや孤独を感じることなく、やりがいを持って社員に働いてもらえるはずです。

4つの欲求を満たすために、社内で行われていることはありますか?

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広江さん
弊社では、『Good Work』というワークを行なっています。3ヶ月に1回、ストレッチテーマを決めるのですが、それに基づき相手の良い仕事ぶりを取り上げて、お互いにメッセージを送りあっています。

みんなで感じたことや感謝をすることで、承認欲求、成長欲求、貢献欲求、親和欲求を満たすことができます。

非日常の体験が深い相互理解へと繋がる

テレワークを中心とした働き方は続くと思いますか?

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広江さん
仮にコロナが収束したとしても、ニューノーマルになるでしょう。
この数ヶ月でリモートでの働き方は機能することがわかりました。

今後の働き方やコミュニケーションの取り方は、リアルとオンラインのハイブリッドになっていくのではないでしょうか?
そうなることで、あえてリアルであることの意味・意義を求めることもさらに深く強くなると思います。
オンラインでもいいじゃないかと思われないような、マネジメントやイベントづくりをするべきでしょう。

オンラインイベントなどの導入を躊躇する組織に対しては、どのように提案をしていますか?

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広江さん
躊躇されているということは、何かしらの不安を抱いているということだと思うので、背中を押すよう情報提供や働きかけが必要だと思います。
これまで扱ってきたイベントの紹介やどのような仕組みづくりが効果的か、など事例を交えて、具体的に提案しています。
働き方が大きく変わってきている今、どの組織にも変化は必要なものなのではないでしょうか。

社内での取り組みはどのようなことをされていますか?

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広江さん
社内でラジオ放送を開始しました。
編集も社内で行い、週に1回ランチタイムに放送をしています。
ラジオだと聞き手は顔を出さなくてもいいし、なにかをしながら聞くことができるので参加しやすいのがメリットです。

ゲストには社員やOB・OGを呼び、基本的には仕事の話をしないルールでさまざまなトークをしています。
ゲストへの質問も社内から匿名メールで募集しています。

お気に入りの曲を紹介したり、将来の野望、社内恋愛をしたことがあるかなどを話したり(笑)、なんでもざっくばらんに話すことで、その人の知らなかった一面や、こだわりを知ることができ、その人に対する理解が深まります。
また、自分はどんな人と働いているかを知ることで、組織に対する愛着も深めることができます。あえて、ゆるい間口とすることで、みんなが思わず前のめりになる場にすることができています。

このような共通体験が相互理解を深め、人と人の繋がりを作っていくことになると思います。
また、その共通体験に「非日常感」があるかというのがポイントです。
非日常感があるということは、思考や感じ方が普段と変わるということです。
非日常感のある共通体験をすることで、壁を取り払い役職や立場関係なく、関係をフラットにして相互理解を深められます。

非日常感のある体験を通して相互理解を深めるコンテンツは、どのようなものをクライアントに提案していますか?

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広江さん
「リフレーミング」とよぶワークショップを提案しています。
「リフレーミング」とは「フレーム=物事の見方」を変えるという意味で、日常的なモノの見方、視点を変えることで、価値観の枠組みを再構築したり、固定観念を突破したりします。

例えば、次世代リーダー向けに、イノベーションマインドを持ってもらうには、理論を伝えても効果はなく、実際に、いつもの日常を離れて、異業種でイノベーションを起こしていたり、画期的な新商品を開発している社外の同世代の人にオンライン上に登壇してもらい、互いに対話をしながら、自身に何が必要なのか、理解してもらうことなどをしています。

そのほかに、すぐできるオンラインイベントとしては焚き火などを行なっています。
オンライン焚き火は、相互理解や、組織の課題抽出が目的になります。
参加者には現在、組織の中にある課題や、誇りに思っていることなどを1人ずつ話してもらいます。

イベントの際は、部屋を暗くしてもらい、カメラもオフで参加者の姿が見えないようにしていて、素の状態で心が繋がって話せる環境を作ります。
火を囲むと、不思議と心が解けたり、話しやすい場ができたりするんです。
人間の本能なんでしょうね(笑)

人と人が繋がる場をつくりエンゲージメントを高めていく

最後に一言お願いします

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広江さん
コロナ禍で新しい働き方が広まりましたが、これからは人と人がつながる場を作っていくことが大切だと思います。
この組織で働いてよかった、この場所で成長できてよかったと思える、会社側も社員側もお互いが信頼し、安心している場を作っていきたいですよね。

最後に宣伝ですが(笑)新刊のご紹介です。人と人、人と組織がつながる場の具体的なつくり方を、示した本です。「エンゲージメントを高める場のつくり方」同文舘出版
さきほど、ご紹介したリフレーミングやオンライン焚火ワークショップの具体的な手法なども紹介しています。ご興味を持ったら、ぜひ手に取ってみて下さい。

新しい働き方はまだまだ始まったばかり。テレワークを中心とした働き方で、そのような場所を作るためには、たくさん実験が必要になってくると思います。
わたしも、楽しんで実験を繰り返しながら、人と人との可能性が広がる場や、サービスを作っていきたいと思っています。

著書紹介

エンゲージメントを高める場のつくり方

著者:広江朋紀
刊行年月:2020年9月1日
定価:本体1,700円+税
ISBN:9784495540661
ページ数:272頁
判型:四六判・並製

広江 朋紀
(株)リンクイベントプロデュース ファシリテーター
産業能率大学大学院卒(城戸研究室/MBA)。
出版社勤務を経て、2002年に(株)リンクアンドモチベーション入社。HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に約20年従事。講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5,000時間を超える研修やワークショップの登壇実績がある。育休2回。3児の父の顔も持つ。
著書に『場が変わり、人がいきいき動き出す 研修・ファシリテーションの技術』『なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?』(いずれも同文舘出版)、『今日から使えるワークショップのアイデア帳』(共著、翔泳社)がある。その他、論文寄稿、複数の大学での特別授業、「日経MJ」「月刊人事マネジメント」への連載寄稿等、多数。
CRR Global認定 組織と関係性のためのシステムコーチ(ORSCC)/米国CTI認定 プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)、Immunity to Change(R)(ICT)ファシリテーター。