新型コロナウイルスの影響で、急激に注目され多くの企業で実施され始めたテレワーク。
業務効率的などメリットも多くある一方で、コミュニケーションの減少が課題になっていることも事実です。
現在起こっているコミュニケーション課題、今後起こるであろうコミュニケーションの課題とは何なのか?
また、その解決策や今後の組織のあり方について、元・リクルート人事次長で、現・株式会社ワイズ・ステージ代表取締役の高橋 宜治さんにお話を伺いました。

言葉は伝わっても、気持ちは伝わらない

ー 高橋さんが企業の支援を行う中で見てきた、テレワークにおけるコミュニケーション課題にはどんなものがありますか?

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高橋さん
まず、コミュニケーションには「伝達」と「気持ち」2つの要素があります。
字面で伝わる「伝達」と、その裏に隠れている「気持ち」です。
オンラインのコミュニケーションでは、「伝達」の部分はうまく満たせていますが、「気持ち」の部分はどうしても伝わりにくくなっています。

ビデオ会議ツールでは表情が見えますが、リアルな場よりオーバーにリアクションしないと伝わりません。
さらにチャットツールなどのメッセージだと字面しか見えないので、どんな気持ちでその言葉を言っているのかが、伝え方・受け取り方によっては齟齬が生じてしまいます。

ー 組織において、具体的にどのような課題になってくるのでしょうか?

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高橋さん
上司・部下間での報告や相談、いわゆる「報・連・相」の際にもコミュニケーションのズレが生まれます。
例えば、上司が「次に行く営業先で、こういうことをヒアリングしてきてくれ」「こういう風に営業してこい」などと言ったとき、部下は「はい、わかりました」となるのが普通ですよね。
ですが、その「はい、わかりました」と答えた時の言い方や表情を見ることで、納得して言っているのか、はたまたイヤイヤ言っているのかがわかります。
そのときに「イヤイヤやっているんだな」ということが汲み取れれば、上司は「ここのイヤイヤやっている部分をフォローしないとな」という動きがすぐにできますよね。

逆に部下からの訴えや相談も、濃度や優先度を読み取れなければ、退職につながってしまう場合もあります。
そういう機微を読むことが、オンラインでは難しくなっているというのが課題だと感じています。

リアルな場をオンラインに乗せるのは一番ダメ

ー テレワーク中心の働き方は今年始まったばかりですが、この働き方が今後も続いていく場合、どのような課題が出てくると思いますか?

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高橋さん
今は、もともと組織の中にいて、リアルな場で集まって仕事をしていた人たちがテレワークというものを体験しています。
ですが、この状況が続くと今後、オンラインが当たり前という世代が出てきます。
そのような環境になったときに、リアルな場をオンラインに乗せることは一番ダメだと思います。
「オンラインだからできることは何か?」ということを、既存のやり方と比較して「これが課題だ」「これはオンラインで問題ない」などと取り揃えていくべきです。
見ている限りだと、リアルの世界をオンラインに乗せていこうとしている傾向にあります。

東京経済大学で毎年行なっている講演も、今年はオンラインでした。
今年の大学1年生は、これが当たり前になっています。
キャンパスライフなんてものはないわけですね(笑)

今はリアルとオンラインの両方を体験している世代が中心となって仕事をしていますが、そのような世代が多く会社に入ってきたときに、文化や価値観の大きなギャップが生じます。
当然、それに合ったマネジメントをしていかなければなりません。

「コロナが落ち着けば元に戻る」という発想は全く誤りで、今後も続いていくものだと考えるべきです。
コロナは収束しても、オンラインは収束せずに、むしろもっと進展していきます。
そうなったときに組織をどのようにマネジメントしていくかを考えていかないと、その企業はダメになるでしょう。

重要なのはコミュニケーションギャップを埋めることと、オンラインだからこそできること

ー そういったことで生じるコミュニケーション課題の解決策はありますか?

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高橋さん
正直、今はまだ解決策もなかなか見えない部分ではあります。
ですがやはり、コミュニケーションギャップを埋めることが重要です。
なので、バヅクリは非常に良いサービスだと思います。

図工部のプログラムに「お絵描き」がありますが、私も研修を行う際の最初の命題にアイスブレイクとして必ず取り入れています。
「ここは牧場です。近くに水飲み場があります…」などと口頭で説明し、参加者に絵を描かせます。
画用紙の片隅に小さく描く人もいれば、真ん中に堂々と描く人もいて、その人の特徴が現れます。
それを見せて説明しながら自己紹介を行なうことで、緊張が解け、相互理解につながります。

そういう意味では、お絵描き自体はリアルな場でやることなので、それをオンラインに乗せるときにどう乗せるかが重要です。
いわばリアルとオンラインのハイブリッド。
バヅクリのようにオンラインだからこそできることがあれば、より良くなると思います。

ロータリークラブの役員をやっているのですが、毎週行なっている例会に、卓話(たくわ)という、外部の方を招いてのスピーチがあります。
それも今、ハイブリッドになっています。
例えば、海外の有名な方にzoomでスピーチをしてもらったり、他のクラブと合同で例会を行うなど…
こういったオンラインならではの発想は、以前までは全くなかったものです。

社員全員が経営者意識を持っているような組織が理想的

ー 5年後、10年後を考えたとき、今後の組織はどうあるべきでしょうか?

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高橋さん
あくまで推測の域ですが…

まず、ロケーションに縛られなくなってきます。
多くのベンチャー企業が渋谷などから撤退しているように、「千代田区だからどうで、港区だからこうだ」という先入観のようなものはなくなるでしょう。

トップの指示を前提に下層部のメンバーが動く「ピラミッド型組織」から、役割や機能ごとに事業を行なっているような「クラスター型組織」への変化が加速していきます。
前者の場合、何か新しいアイデアが生まれても、それを実現するために上司に確認し、さらにその上層部の許可が必要…などと報・連・相に時間がかかってしまいます。
クラスター組織になると、全員が意思決定できる状態で仕事ができるため事業のスピード感が増します。

その中でも特に、地方分散型の組織が活性化されるんじゃないかと思います。
東京に本社があって、地方に拠点を持っていて、それぞれが意思決定しているような会社が強いと言えるでしょう。
社員全員が経営者意識を持っているような組織が理想的です。
あとは、個人的な人脈を通じて情報を収集したり発信したりする、インフォーマル・ネットワークを多く持っておくべきです。

社員の多くが、社外に個人的な人脈を持っていると、それだけで入ってくる情報量が違いますよね。
その分、新しいものが生まれやすくなります。
テレワークでつながりが希薄になっている今だからこそ、外とのつながりも重要です。

高橋 宜治
横浜国立大学卒業。(株)リクルート入社、営業所長就任後、最優秀経営者賞受賞。その後採用企画部課長、採用担当課長、人事部次長として、1000名採用や外国人・留学生採用、遺族年金制度や早期退職制度、フレックス定年制、IF制度、さらに同社初の女性営業部隊の編成など様々な人事制度の導入を手がける。
その後(株)セガ・エンタープライゼス人事部長就任。
独立後は、人事制度・施策のコンサルティングに従事。
(株)ニッセンホールディングス元社外監査役、シャディ(株)元社外監査役、エルテス社外監査役(現任)。 人事組織制度の企画、導入支援から、階層別研修、リーダーシップ研修、目標設定研修、評価者研修、被評価者研修、営業パーソン研修などさまざまな研修を実施。