「後継者育成が必要なのはわかっているが、日常業務に追われて後回しになっている…」
「サクセッションプランを導入したものの、候補者選定が現場任せになり、いつの間にか形骸化してしまった」
「経営層と現場で”次世代リーダー像”のイメージが違いすぎて、育成計画が機能していない」
企業の持続的成長を支える後継者育成。その重要性を認識しているにもかかわらず、多くの企業でサクセッションプラン(後継者育成計画)が機能していない現実があります。
本記事では、サクセッションプランの基本から、なぜ多くの企業で失敗するのか、そして経営戦略の実現につながる実践的なアプローチまでを解説します。
目次
サクセッションプランとは?基本の理解
サクセッションプランの定義

サクセッションプラン(Succession Plan)とは、企業の持続的な成長を支えるため、経営幹部や重要ポジションの後継者を計画的に育成する仕組みです。
サクセッション(succession)は「継承」「承継」を意味し、プラン(plan)は「計画」を意味します。つまり、経営者や幹部が突然交代する事態に備え、あらかじめ後継者候補を選定・育成しておく戦略的な人事施策です。
もともとは1950年代のアメリカで、CEO(最高経営責任者)をはじめとする経営幹部の後継者を計画的に育成する施策として始まり、欧州に広まりました。日本では、東京証券取引所が2015年に策定した「コーポレート・ガバナンスコード」において「CEO等の後継者計画の監督」が盛り込まれたことで、その重要性が再認識されています。
従来の人材育成・後任登用との違い
サクセッションプランは、従来の人材育成や後任登用とは異なる特徴を持っています。

従来の人材育成との違い
従来の人材育成は、人事部が主導し、全従業員を対象に実施する施策です。
一方、サクセッションプランは経営層が主導し、経営幹部や重要ポジションの後継者候補に焦点を絞ります。また、数年から数十年という長期的な視点で、経営層自らが直接育成や評価に携わる点が大きな特徴です。
後任登用との違い
後任登用は、該当ポジションに近い立場(年齢や職務など)や直属の部下から、現在のスキルや経験に基づいて人材を選定します。補充までの期間が短く、現状の中でふさわしい人材を選ぶ「受身型」のアプローチです。
これに対しサクセッションプランは、部署を問わず幅広い人材の中から、将来の可能性や期待も含めて候補者を選定します。経営戦略の一環として、長期的な視点で計画的に育成する「能動型」のアプローチといえます。
なぜ今、サクセッションプランが必要なのか
サクセッションプランの必要性が高まっている背景には、大きく3つの要因があります。

1. コーポレートガバナンス強化の要請
先ほども触れた「コーポレート・ガバナンスコード」で、取締役会は「CEO等の後継者計画の監督」をすることが明記されました。
つまり、上場企業の経営陣は「後継者計画、ちゃんとやってますか?」と株主から問われる立場にあります。IR担当者からすれば「株主総会で突っ込まれたらどうしよう…」という話ですし、取締役会からすれば「やってません」とは言えない状況です。
2. 人的資本情報開示への対応
さらに2018年、ISO30414で「Succession planning」が人的資本開示の項目に加わりました。
投資家をはじめとするステークホルダーに対し、企業の持続可能性を示す指標として、後継者育成の取り組みを開示することが求められています。
3. 深刻化する後継者不足問題
こうした背景は、制度やルールの話だけではありません。より切実なのは、現場で実際に起きている後継者不足です。
「社長が急に倒れた」「後を継ぐ予定だった息子が継がないと言い出した」「部長が引き抜かれた」「役員候補だった人が独立した」など。こうした”想定外”が起きたとき、代わりの人材がいなければ、事業が止まります。
【データで見る】日本企業の後継者育成の深刻な実態

中小企業:52.6%が「自分の代で廃業予定」
日本政策金融公庫が2023年に実施した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、中小企業のうち後継者が決定している企業はわずか10.5%にとどまりました。
一方、後継者が決まっていない「未定企業」が20.0%、自分の代で事業をやめる「廃業予定企業」が57.4%にも及んでいます。日本国内企業の99%が中小企業であることを考えると、この結果は非常に深刻な問題だといえます。
上場企業:後継者候補を選出できているのは33%のみ
中小企業だけでなく、上場企業も厳しい状況に置かれています。
経済産業省と野村総合研究所が2023年度に実施した「日本企業のコーポレートガバナンスの実質化に向けた 実態調査」では、後継者候補の選出が「何らかの形で実施している」企業が53%でした。
一見すると半数以上が実施しているので問題なさそうに思えますが、候補者は選んだという企業の中でも、実際に後継者計画のロードマップを立案できている企業は45%にとどまります。つまり、「とりあえず候補者リストは作ったけど、その後どうするかは決まってない」という企業が少なくないということです。
「ガバナンス・コードで求められているのは分かっているけど、正直手が回っていない…」という企業が多いのではないでしょうか。
計画があっても実行できない企業が半数以上
先ほどのデータをもう一度見てみましょう。後継者候補の選出を行っている企業は53%いる一方で、育成計画の策定・実施まで進めている企業は45%にとどまります。
つまり、育成計画を実際に実行できていない企業が55%存在するということです。
形式的には後継者候補を選定しているものの、「その後どう育てるか」が曖昧だったり、現場任せになったりして、結果的に「候補者リストを作っただけ」で終わってしまうケースが後を絶ちません。
なぜ失敗する?サクセッションプランが形骸化する3つの落とし穴
なぜ、良かれと思って導入したサクセッションプランが機能しなくなってしまうのでしょうか。多くの企業でサクセッションプランが形骸化する背景には、共通する3つの落とし穴があります。

落とし穴1:「とりあえず始めてみた」が招く目的の曖昧さ
「ガバナンス・コードで求められているから」「他社もやっているから」という理由だけでスタートすると、目的が曖昧なまま形だけの制度になりがちです。
よくある失敗パターン
- 「とりあえず後継者候補を選んでおこう」と、明確な基準なく候補者を指名
- 育成のゴールが不明確なまま、とりあえず研修に参加させる
- 経営戦略との連動がなく、「誰のための、何のための後継者育成なのか」が不明瞭
この状態では、候補者本人も「なぜ自分が選ばれたのか」何を目指せばいいのかが分からず、モチベーションが上がりません。結果として、形骸化した制度となってしまいます。
打開策のヒント
まず「5年後の経営戦略を実現するには、どのポジションに、どんな人材が必要か」を明確にしましょう。
目的がはっきりすれば、候補者選定の基準も、育成計画の内容も、自然と具体化されていきます。
落とし穴2:「現場任せ」による経営陣の関与不足
サクセッションプランは本来、経営陣が主体となって推進すべきもの。しかし実際には人事部に丸投げ、部門長任せになっているケースが目立ちます。
よくある失敗パターン
- 「後継者候補のリストアップは人事部に任せた」と、経営陣が具体的な人材を把握していない
- 「各部門長が適切に育成してくれるだろう」と、育成の進捗を確認していない
- 候補者との面談や対話の機会がなく、候補者が「経営陣から期待されている」実感を持てない
現場部門長の立場からすると「自部門のことは自分がよく分かっているから、わざわざ可視化する必要がない」と考えがちです。
しかし、その候補者は、経営戦略上本当に重要なポジションを任せられる人材ですか?経営陣がその判断に関与していないなら、それは「後継者育成」ではなく「各部署の優秀な人リスト」でしかありません。
打開策のヒント
経営陣が定期的に候補者と直接対話する機会を設けましょう。候補者にとって、社長や役員から直接「こういう期待をしている」と伝えられることは、何よりのモチベーションになります。
また、育成の進捗を経営会議で定期的にレビューすることで、「会社全体が本気で取り組んでいる」というメッセージが伝わります。
落とし穴3:「育成=研修」という手段の固定化
サクセッションプランというと、MBA派遣や外部研修プログラムへの参加を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、「とりあえず研修に参加させれば育成できる」という発想では、本当の意味での経営人材は育ちません。
よくある失敗パターン
- 候補者全員に画一的な研修プログラムを提供し、個別の課題に対応していない
- 研修で学んだことを実践する場がなく、知識が定着しない
- 研修以外の育成手段(異動、プロジェクトアサイン、メンタリングなど)を検討していない
座学で経営戦略の立て方を学んでも、実際に「明日の会議で決断を下す」プレッシャーの中で判断する経験がなければ、本当の力はつきません。研修は「知識のインプット」であって、「能力の開発」ではないのです。
打開策のヒント
候補者一人ひとりの現状と課題を見極め、研修・異動・プロジェクトアサイン・メンタリングなど、複数の手段を組み合わせましょう。特に、候補者の不足スキルを補うための戦略的な異動や、経営層の下での実務経験は、どんな研修よりも大きな成長機会になります。
経営戦略を実現するサクセッションプランの実践ステップ
では、具体的にどのようにサクセッションプランを構築すれば良いのでしょうか。ここでは、実践的な4つのステップに分けて解説します。

STEP1:経営戦略から逆算した「重要ポジション」の特定
まず経営戦略をはっきりさせることから始めます。「5年後、うちの会社はどうなっていたいのか?」この問いに答えられなければ、誰を育てればいいかも見えてきません。
経営理念、中長期経営計画、事業環境を分析し、「5年後、10年後に、どのような事業を、どのような体制で運営しているか」というビジョンを描きましょう。
その上で、経営戦略の実現に不可欠なポジションを特定します。CEOや役員に限らず、部長クラスや事業責任者など、「この人がいなくなったら事業が止まる」ポジションも含めて検討してください。
・「現在空いているポジション」ではなく、「将来的に必要になるポジション」を見据える
・外部採用が難しい、自社固有のスキルが求められるポジションを優先的に対象とする
・各ポジションの「役割」と「求められる能力」を具体的に定義する
STEP2:客観的な基準による候補者の選抜
重要ポジションが決まったら、候補者を選抜します。選抜方法は、自薦・他薦、アセスメント、グループディスカッション、面接などさまざまです。
ここで注意したいのは、「声の大きい部署の推薦」や「○○役員のお気に入り」といった属人的な判断で選ばないこと。客観的な基準に基づいて選抜しないと、「なんであの人が選ばれたの?」という不公平感が組織に広がります。
・現在のスキルや経験だけでなく、将来の可能性(ポテンシャル)も評価する
・「すぐに登用可能」「1〜3年後に登用可能」「将来的に可能性あり」など、登用可能時期で分類する
・選抜プロセスの透明性を確保し、候補者本人にもフィードバックを
STEP3:個別最適化された育成計画の策定
候補者が決まったら、一人ひとりに合わせた育成計画を立てます。全員に同じプログラムを提供するのではなく、候補者の現状スキル、不足している能力、キャリア志向を踏まえた個別計画が必要です。
育成手段は、研修やセミナー(Off-JT)、異動やプロジェクトアサイン(OJT)、経営陣によるメンタリング、外部派遣など、複数の手段を組み合わせましょう。
・候補者本人の意思や志向性を尊重し、本人が納得できる計画にする(押し付けは逆効果)
・「知識」「スキル」「マインド」のバランスを考慮する
・育成計画を候補者と共有し、定期的にフィードバックを行う
STEP4:定期的な見直しと経営陣の継続的関与
サクセッションプランは、一度策定したら終わりではありません。育成計画の進捗を定期的に確認し、必要に応じて軌道修正しましょう。
また、経営環境の変化や事業戦略の転換で、重要ポジションの定義も変わります。年に1〜2回は、経営陣を交えて計画全体を見直す機会を設けてください。
・四半期または半期ごとに、候補者の育成進捗を確認する
・経営陣が候補者と直接対話する機会を定期的に設ける
・候補者の離職や計画の遅れなど、リスクが顕在化した際の対応策も準備しておく
サクセッションプランを機能させる「関係性」という見えない基盤
制度を整えても、実際に機能するかどうかは「人と人との関係性」次第です。マニュアルには載っていない、でも実は一番大事な要素と言えます。

候補者のモチベーションを左右する「心理的安全性」
後継者候補として選ばれることは、大きな期待と同時に、相当なプレッシャーを伴います。「選ばれなかった同僚からどう見られるか」「期待に応えられなかったらどうしよう」こうした不安を抱えながら、本来の力を発揮するのは困難です。候補者が安心して成長に集中できる環境を整えるには、組織の心理的安全性が欠かせません。
失敗を責めるのではなく、「失敗から何を学んだか」を問う文化。率直に「まだこのスキルが不足してます」と言い合える関係性。こうした土台があってこそ、候補者は本来の力を発揮できます。
経営陣と候補者をつなぐ「対話の質」
「社長が何を期待しているのか、正直よく分からない」「自分の成長を見てもらえているのか不安」こうした声が出てきたら、対話不足のサインです。
経営陣と候補者の間に信頼関係が築けていないと、サクセッションプランは形だけのものになります。
定期的な1on1や、経営陣を交えたディスカッションで、期待のすり合わせや成長のフィードバックが可能になります。
ただし、形式的な「最近どう?」では意味がありません。お互いの価値観や考え方を深く理解し合える「質の高い対話」が求められます。
組織全体で支える「育成文化」の醸成
後継者候補だけを特別扱いすると、組織内に分断が生まれます。
「どうせ自分は候補者じゃないし」「頑張っても評価されないなら、ほどほどでいいや」こんな空気が蔓延すると、組織全体のモチベーションが下がります。
サクセッションプランを組織全体の育成文化を高めるきっかけとして捉えましょう。
候補者の育成プロセスで得られた知見を他のメンバーにも展開したり、候補者が学んだことを組織に還元する機会を設けたりすることで、組織全体の成長につなげることができます。
サクセッションプランにおけるバヅクリの支援
バヅクリは、単なる人事制度コンサル会社や研修プログラムの提供会社ではありません。企業の経営課題や人材育成の目標を深くヒアリングし、経営戦略と連動した人材育成のパートナーとして伴走支援を行います。
制度を作るだけでなく実際に運用できるまで伴走するコンサルティング体制と、先ほど触れた人と人との関係性を深めるプログラムに強みを持っています。
人事制度X:サクセッションプラン構築の伴走支援
「サクセッションプランを作りたいけど、何から手をつければいいか分からない」
「候補者は選んだものの、育成計画が具体化できていない」
こうした悩みを抱える企業に向けて、バヅクリは「人事制度X」というサービスで、サクセッションプランの設計から実行、効果測定までを伴走支援します。
人事制度Xでできること
- 経営戦略と連動したポジション設計:「5年後の経営戦略に必要な人材」から逆算し、重要ポジションと人材要件を定義
- 客観的な候補者選定基準の策定:属人的な判断を排除し、透明性のある選抜基準を設計
- 個別最適化された育成計画の立案:候補者一人ひとりの現状と課題を踏まえた、実効性のある育成プログラムを構築
- 効果測定と継続的な改善支援:育成進捗の可視化と、PDCAサイクルを回す仕組みづくり
人事制度Xは単なるコンサルティングではなく、人事担当者と一緒に手を動かしながら、実際に運用できる仕組みを作り上げます。サクセッションプランの構築・見直しをお考えの際は、ぜひご相談ください。
関係性を深める対話型研修/ワークショッププログラム
サクセッションプランの制度を整えても、「人と人との関係性」がなければ機能しません。バヅクリは、候補者同士、経営層と候補者、そして組織全体の関係性を深めるワークショップ・研修プログラムを提供しています。
候補者同士の相互理解を深めるワークショップ
後継者候補は、異なる部署や事業から選ばれることが多いもの。お互いをよく知らない状態では、協力し合うことも切磋琢磨することも難しいでしょう。
バヅクリの対話型ワークショップでは、候補者同士が互いの価値観、強み、課題を深く理解し合う場を提供します。たとえば「こころマッピング」という手法を使えば、日々の業務で感じた出来事・思考・感情を可視化して共有でき、表面的なコミュニケーションを超えた相互理解が生まれます。
候補者同士が信頼関係を築けると、互いに学び合い、支え合う関係性が生まれます。これは、孤独になりがちな後継者育成において、大きな心理的支援となります。
組織の育成文化を醸成する研修プログラム
サクセッションプランを組織全体の育成文化向上につなげるには、候補者以外のメンバーも含めた取り組みが重要です。
バヅクリの「アンコンシャスバイアス研修」「多様性・相互理解ワークショップ」などは、組織全体の心理的安全性を高め、多様な価値観を認め合う文化を醸成します。こうした土台があってこそ、候補者も安心して成長に集中でき、組織全体も候補者の成長を支援する雰囲気が生まれます。
バヅクリは、オンライン・対面を問わず、対話やワークショップといった体験を通じて「個人の成長」と「組織の関係性向上」を同時に実現するプログラムを提供しています。
まとめ
サクセッションプランは、企業の持続的成長を支える重要な経営課題です。しかし日本企業の多くで後継者育成が進んでおらず、計画があっても形骸化しているケースが少なくありません。
サクセッションプランを成功させるポイントを改めてまとめます。

- 経営戦略との明確な連動:「なぜ、誰を、どう育てるのか」を経営戦略から逆算して定義する
- 経営陣の継続的な関与:人事部や現場任せにせず、経営陣自らが候補者と対話し、育成をリードする
- 関係性を重視した育成:制度設計だけでなく、心理的安全性や信頼関係といった「人と人との関係性」を大切にする
サクセッションプランは一朝一夕に成果が出るものではありません。ですが、長期的な視点で経営陣・人事部・現場が一体となって取り組めば、企業の持続的成長を支える強固な基盤になります。
まずは自社の現状を把握することから。小さく始めて、継続的に改善を重ねていきましょう。



