働き方改革や、新型コロナウイルスの影響で働き方が大きく変わってきた現在。
これからさらに、どのような働き方へとシフトし、またその働き方で業務を行う中メンバーをどのように育て、マネジメントすればいいのでしょうか?
創業160年という長い歴史を持つ大手総合商社・丸紅にて長年人事部長や、役員を務めた葛目 薫氏にお話を伺いました。

新型コロナウイルスは、黒船のような存在

テレワークが普及し、働き方で変わったことはなんでしょうか?

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葛目さん
新型コロナウイルスの影響で働き方が大きく変わり新しい働き方が普及してきましたが、その前から働き方改革によって大企業などでは「新しい働き方」の仕組みはできている状態でした。

しかし、それで組織が上手く機能するのか疑問があったのも事実です。
ところが、新型コロナウイルスが流行し、テレワークをやらざるを得ない状況になりました。
そして実際、テレワークを行なってみると意外にも、リモートで業務を行うことは可能であることに多くの人が気づきました。
それと同時に、通勤時間などの無駄にも気づいた人や企業も多いと思います。

全ての仕事がリモートで可能だとは思いませんが、テレワークが十分に機能し無駄が省けると気づいた今、今後もテレワークにシフトしていく動きは変わらないでしょう。

新しい働き方が浸透し、組織の在り方で変わった点を教えてください。

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葛目さん
これまでクリアでなかった「この人なにやっているの?」「この人の業務は何に結びついているんだろう?」という存在や疑問が浮き彫りになってきました。

テレワークは成果主義ですから、はっきり成果と結びつかない働きは無駄だと捉えられてしまいます。
成果には結びついていないけれど、プロセスの部分ではいい働きをする人が、テレワークの働き方では必要ないのではないか?と気づき始めている人も多いのではないでしょうか?
そういうことから、仕事の評価基準も大きく変わってくると思います。

新型コロナウイルスは、黒船みたいなものです。
日本人は変化を嫌うため組織の仕組みなどははなかなか変わらないものですが、新型コロナウイルスという外からの影響によって大きく変化する時期に入りました。
HRの分野でも、明治維新に近いな大きなうねりが起きています。

テレワークを上手に使い、無駄と思われるものをクリアに

テレワークで生産性が上がる職種はどういったものでしょうか?

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葛目さん
どの職種でも、テレワークでの働き方が馴染む部分と馴染まない部分があると思います。
新しい働き方で生産性を上げるには、テレワークの使い方が大切になってくるでしょう。

もちろん、対人じゃないと難しい仕事もありますよね。
例えば営業などの仕事は、オンラインで資料を見せプレゼンはできますが、最後は人と人との信用が結果へと繋がります。
そのような繋がりはオンライン上ではなく、実際に会うことで出来上がるものです。

これからは、オフラインでの繋がりが必要な部分は今までのやり方を残しつつ、そこに至るまでのプロセスで無駄が多かった部分はオンラインにチェンジし無駄を省くことで、生産性を上げることができると思います。

テレワークが進み、働き方を改めなくてはいけない職種もありそうです

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葛目さん
テレワークが盛んになった働き方では、中間管理職の役割に重要性を感じられなくなることがあるかもしれません。
オフラインでのコミュニケーションを主とした働き方では、中間管理職という立場の人たちが、目に見えて結果に繋がる働きをしていなかったとしても、チームの潤滑油になったり、バランスをとったりなど重要な役割をしてきました。

また、昔はOJTで仕事を覚えることが多く、その中で先輩のすごさや、「先輩の背中を見て学ぶ」ということを行なってきましたが、最近、業務の多くはマニュアル化され、先輩や上司と関わる中で、肌で何かを学びをとるということも少なくなってきました。
こういう流れから、中間管理職という立場の人たちが行う仕事や必要とされるタイミングが減ったと言えます。

しかし、中間管理職が必要ないかと言われれはそういうわけではありません。
ただ、中間管理職という立場の人材をリモートワーク で上手に機能させるには、何をしなきゃいけないのか、業務や役割を上司がクリアにした方がいいでしょう。

オンライン化が進んでも「人と人」であることに変わりはない

イノベーションを起こすことや、業務などを改善することはテレワークでは難しいと思いますか?

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葛目さん
テレワークだからできないということは、私はないと思います。

高度経済成長のころの日本の強みは、「右向け右」と言ったらみんなが同じ方向を向いて突き進むという同一性の強みでした。
良いものを大量生産し、安価で提供することに価値があった時代です。

今は、個性のあるもの、付加価値のあるものがいいとされる時代に変わりました。
つまり、昔とは異なり異質なもの、自分とは違うものを受け入れる社会になったわけです。
自分とは違うものを受け入れる価値観のダイバーシティができ、その土壌があることで、個性を表現しやすい環境にもなっていると思います。

今のような時代・環境だからこそ出てくる昔だったら受け入れられなかった意見に、ヒントが隠れていることもあります。
そういった意見を受け入れることが、イノベーションに繋がるのではないでしょうか?
上司やリーダーはそう言った環境を作ることも1つの仕事であり、それが健全な組織の在り方だと思いますよ。

テレワークで組織のパフォーマンスが最大化するコミュニケーションの形とどんなものでしょうか?

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葛目さん
オンとオフをしっかり切り替えることが大切だと思います。

人事部長をしていたころに、新入社員が入ってくると「同期を大切にね」と毎回言っていました。
入社して半年ほどは「何もわかりません」で通用しますが、半年ほど経つと今更恥ずかしくて聞けないということもできてきます。
しかし、同期は半年どころか10年経っても「ちょっと恥ずかしいんだけど教えてくれない?」となんでも聞きやすいですし、良き相談相手にもなってくれます。
質問を受ける方や、相談にのる方も「仕方ないな。でも1杯奢れよ」とフランクに受け入れてくれるのが同期のいいところです。

このような「オフの時間」の繋がりは、オンラインでのコミュニケーションが多くなっても、大切にしていくべきものだと思っています。
また、オンラインでのコミュニケーションが主になっても、人と人とののコミュニケーションであって、本質は変わりません。

近年、ベンチャー企業などで日本でも見られるようになってきましたが、海外企業の働き方は、自分の業務=テリトリーが明確で、人の能力を足し算し仕事を行なっています。
しかし、日本のメンバーシップに重きを大切にする働き方。
オフの時間のコミュニケーションを取ることで、メンバーの能力が足し算ではなく掛け算になり、パフォーマンスが最大化するのではないでしょうか?

ただ、リモートでのコミュニケーションでは、このようなオフの時間での繋がりを助長させるのは難しいのではないかなと感じています。

新入社員=ミレニアム世代にあったマネジメントを行なっていく

これからの新人研修やチームビルディングはどのように変わっていくでしょうか?

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葛目さん
今までは研修を通して、教育と人と人との繋がり作りを一緒に行おうとする企業が多くありました。
しかし、教育と人間関係の形成は、相矛盾する部分があるのも事実です。

オフラインの研修では、研修の際に顔を合わすことで自然と繋がりができます。
また、研修後の飲み会などで作られた人間関係も、研修の成果とみなしてきた企業も多いのではないでしょうか?

しかし、新型コロナウイルスの影響でリアルで会うことは難しくなり、人と人との繋がりができるという、研修の副次的に得られていたメリットはゼロになりました。
新型コロナウイルスが流行し始めて時間が経ち、飲み会が開けないことや、リアルで集ないことのデメリットがだんだんと顕在化してきていると感じます。

10月の内定式もリモートで行う企業が多く、その後に数人を呼び出し懇親会を開く企業もありました。
しかし、これが全然盛り上がらない(笑)
会う人だけでなく、そのうような場も「はじめまして」なことが多いのですから、当たり前ですよね。

ここからチームビルディングを行うのは至難の技です。
その点、「遊び」というカジュアルな場を通して人間関係を形成していくバヅクリはいいアイディアだと思います。
飲み会や、同期との繋がりを作る場の代替として活躍してくれるのではないかと期待しています。

これからの新入社員のマネジメントのポイントを教えてください。

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葛目さん
これからの新入社員は、1981年以降に生まれ2000年以降に成人を迎えた、いわゆるミレニアム世代。
その世代にあったマネジメントや研修を行うべきだと思います。

ちなみに、ミレニアム世代はどんな世代なのかを表す3つのキーワードがあります。
1つ目は、シェアリングエコノミー。
所有から共有へという流れです。
最近は車などもシェアをする時代になりましたね。
2つ目は、ワークライフバランス。
出世が何より大事という考えから、出世するよりも仕事と生活とのバランスが取れている方がいいという思考になっています。
3つ目は、ソーシャルです。
ミレニアム世代は、繋がりを大切にしたいと考えています。
しかし、義理と人情でがんじがらめになるような、重い人間関係は望んでいません。

また、ミレニアム世代の特徴と言われていることも3つあり、まずは、物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさを求めています。
また、社会的貢献度の高い仕事をしたいという欲求が高くなっています。
最後は、仲間を大切にする傾向にあるということです。

ミレニアム世代を表すソーシャルというキーワードや、仲間を大切にするという特徴から言えば、遊びを通して繋がりを作れるバヅクリは、ミレニアム世代に合ったサービスだと言えます。

組織がバヅクリを導入する場合、どのように取り入れていくといいと思われますか?

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葛目さん
この指止まれ形式で、希望する者がまずは参加できるようにするのがいいと思います。
やれと言われてやるのではなく、自発的に行動する方が参加者も楽しいと思いますし、熱量の高い参加者が集うことで、 その後「よかったよ」と言うような口コミも広がりやすい。
そして、その口コミを聞いた人が、参加したいと手を挙げるかもしれませんよね。

また、1ベントの店員が50人ですが、実験的に余裕を持たせて少人数で実施してみるのもいいのではないでしょうか?

葛目 薫
1977年4月丸紅に入社。
2008年4月に人事部長に就任し、グローバルな人材の育成、「多様な個の強み」を活かしたダイバーシティ・マネジメントに注力し、企業文化・価値観の確立を進める。
2010年4月に執行役員就任。
2015年6月に監査役就任。