「ストレスチェックをしても、離職率や従業員のメンタルヘルスが改善しない」
「チェック後の活用がわからない」
など、ストレスチェックを実施している企業の中でも運用に課題を抱えている人は多いのではないでしょうか。
本記事ではストレスチェックの概要や効果的なストレスチェックの進め方、実施後の活かし方を解説します。
目次
ストレスチェックとは
ストレスチェックとは労働安全衛生法第66条の10に基づいて、50人以上の従業員を持つ事業所で実施が義務付けられている、従業員のストレス度合を測る検査のことです。
従業員が「働く中で感じるストレス」について質問票に回答し、企業はその結果を集計・分析して本人に結果を通知します。
ストレスチェックの診断結果はストレスチェックの実施事務従事者と労働者本人にのみ伝えられますが、プライバシー保護の観点から企業には報告されません。
定期的にストレスチェックを実施することで、従業員の心理的な負担を可視化し、労働者のメンタル不調予防や職場の環境改善を促すことができます。
ストレスチェックの義務化とは
労働安全衛生法の改正により2015年12月から、50人以上の従業員を持つ事業所では年に一回のストレスチェックの実施が義務付けられています。
ストレスチェックの「実施」に対する罰則は設けられていないものの、労働安全衛生法第100条では、ストレスチェックの実施結果を労働基準監督署へ「報告」することが義務付けられており、労働安全衛生法第100条にある報告義務を怠った場合「五十万円以下の罰金に処する」とされています。
なお、従業員50人未満の事業所には報告義務はありません。
ストレスチェックについて詳しく知りたい方はこちら
ストレスチェックは、従業員のメンタルヘルスを守りつつ、より良い労働環境を作るためにも重要な取り組みです。
従業員のストレスは個人の健康を害するだけではなく、企業の生産性や離職率にも悪影響を及ぼします。
ストレスチェック制度の概要と企業が行うべきストレスケア施策について知りたい方は、こちらの資料をダウンロードしてみてください。
ストレスチェックを実施する意味がないと考えられている理由
増加する労働者のメンタルヘルス問題に対処するための措置として導入されたストレスチェック制度。
しかし、ストレスチェック制度をメンタルヘルス対策にうまく活かせず「意味がないのでは?」と考える人も一定数います。
ここでは「ストレスチェックには意味がない」と言われてしまう理由を解説します。
チェックを受検しない従業員がいるから
「ストレスチェックをしても意味がない」と考えられているのは、受検しない従業員が一定数いるためです。
厚生労働省が実施した調査「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」によると、ストレスチェックの受検率が8割を超える事業場は77.5%と、一部の従業員がストレスチェックを受検していないことがわかりました。
ストレスチェックの義務は「従業員50人以上の事業所を持つ事業者」に対して課されており、そこで働く従業員に対して事業者側がストレスチェックの受験を強制することはできません。
そのため網羅的なストレスチェックの実施が難しく、従業員が自身のストレスに気付くきっかけを作れなかったり、職場環境などが正確に把握できなくなったりする要因となっています。
専門家からの面接指導を受けない従業員の割合が高いから
ストレスチェックを受けて「高ストレス」と判定されたにも関わらず、専門家の面接指導を受ける従業員が少ないことも、「ストレスチェックをしても意味がない」と考えられている理由の一つです。
ストレスチェックの結果「高ストレス」と判定された従業員は、専門家による面接指導を受ける権利があります。
しかし厚生労働省の調査によると、高ストレス者のうち、実際に医師による面接指導を申し出る者の割合は5%未満という事業場が76.8%であることがわかりました。
高ストレス者が面接指導を受けない理由として「会社にバレるのが怖い」「メンタルヘルスに関する誤解や偏見がある」などが考えられます。
事業所は従業員が気軽に専門家の助言を求められる環境を整え、その重要性を積極的に啓蒙することが重要です。
ストレスの実態を把握しきれないから
ストレスチェックは、従業員が自己のメンタルヘルス状態について正直に回答することを前提に設計されています。
しかし中には「自分の真の状態を企業に知られたくない」という理由で、ストレスを感じていないように見せかける回答を選ぶ人もいます。
そうした人が多い場合、企業は事業所のストレス状況を正確に把握できず、効果的な対策を講じるのが難しくなります。
ストレスチェック制度を機能させるためには、従業員が周囲を信頼できる環境を整え、正直に自己の状態を報告できるように改善が必要です。
ストレスチェックの進め方
ここではストレスチェックの進め方を解説します。
実施概要、ルールの決定
ストレスチェックを開始する前に
- 実施の日程
- 対象者
- 使用する質問票の種類
など、実施概要とルールを決定します。
これらの決定事項は社内の規定として明文化し、従業員に対して周知します。
実施日程を考える際には従業員の負担を考慮し、業務のスケジュールに影響を与えないよう配慮しましょう。
実施者の選定
基本的な概要を設計したあとは、ストレスチェックの実施者を選定します。
ストレスチェックの実施者は
- 医師
- 保健師
といった専門性の高い資格を持つ者、または厚生労働大臣が定める研修を修了した
- 看護師
- 精神保健福祉士
から選ぶことが義務付けられています。
また実施者を選定する際は、外部の専門機関に委託するという選択肢も考えられます。
特に専門的なリソースが内部にない場合や、客観性を確保したい場合は、自社だけでストレスチェックを実施せずこのような専門機関に頼りましょう。
質問リストの準備
実際に答えてもらうストレスチェックの質問リストを作成します。
自社で質問リストを作成する際は、厚生労働省が用意した「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」標準的な57項目の質問票を使用するのが一般的です。
なお、独自の質問リストを作成する場合は
- ストレスの原因に関する質問項目
- ストレスによる心身の自覚商事に関する質問項目
- 労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目
を必ず盛り込む必要があります。
ストレスチェックの活かし方
企業は個々人のストレスチェックの結果を見ることはできませんが、事業所・企業ごとに
- 年齢層
- 性別
- 職種
- 職位
- 部署
などといったまとまりに分類し、「集団分析」という形でストレス状況を把握することが可能です。
ここでは実施したストレスチェックを職場の環境改善にどう活かすか、具体的な活用法を解説します。
仕事の量を調節する
ストレスチェックの集団分析の手法として、厚生労働省の「仕事のストレス判定図」を使うケースが多くあります。
仕事のストレス判定図は下記の2つの図によって構成されています。
- 仕事量の多寡や、進め方への裁量を示す「量-コントロール判定図」
- 上司や同僚からの支援の多寡を示す「「職場の支援判定図」
「量-コントロール判定図」の結果から、職種・職位単位で業務のあり方に改善が必要とみられる場合には
- 今抱えている仕事の量を減らし、一部をアウトソーシングする
- 仕事内容に変化を加え、自分の裁量で進められる仕事を増やす
といった対策を行いましょう。
部署を異動する
上記の仕事のストレス判定図の「職場の支援判定図」では、上司や同僚との人間関係や支援関係を測ることができます。
これらの数値で改善が必要と判断された場合、職場内でのマネジメントの方法やコミュニケーションがうまくいっていないケースが多いです。
コミュニケーション不足が起こっている場合はミーティングや面談の頻度を増やす、マネジメントのあり方やコミュニケーション方法に問題がある場合は管理職向け研修を行うなどの対策が求められます。
それでも改善しない場合は、ストレスを強く感じている、またはストレスの原因となっている人物を別の部署に異動させるという対処法もあります。
産業医との連携
ストレスチェックは、会社と従業員が職場環境について目線を合わせ、コミュニケーションを円滑にするきっかけを担っています。
しかし会社・従業員の二者間だけで改善を進めようとすると、どうしても軋轢が起きやすくなるもの。
そこで重要なのが産業医との連携です。
従業員と事業者の間に産業医が入り、中立的な立場から医学的根拠に基づいた適切な措置を伝えてもらうことで、社内での合意や調整がスムーズに進めやすくなります。
産業医が積極的に職場環境改善に関与できるようにするためにも、日頃からコミュニケーションを図り、指導や助言を仰ぎましょう。
ストレスチェックについて詳しく知りたい方はこちら
ストレスチェックは実施するだけでは、メンタルヘルス対策への効果は限定的です。
得られた結果を適切に分析して職場の課題を的確に把握し、職場改善を図ることでより多くの成果が得られます。
ストレスチェック制度の概要と企業が行うべきストレスケア施策について知りたい方は、こちらの資料をダウンロードしてみてください。
まとめ
ストレスチェックは罰則はないものの、50人以上の従業員がいる事業所では年に1回の実施が義務付けられています。
従業員数が多ければ多いほど、ストレスに悩んでいる従業員の数は多いはずです。
組織に関わる1人でも多くの従業員が健康的に働けるようにするためにも、ぜひストレスチェックの実施をしてみてはいかがでしょうか。