目次
オンボーディングの意味と目的
オンボーディングとは、新たに組織に加わった社員に対して実施される人材育成研修やサポートプログラムの総称です。
短期の新入社員研修とは異なり、採用した人材の内定タイミングから入社、入社後数か月に渡り中長期的に実施されるのが特徴です。
オンボーディングは、英語で「on-boarding」と表記する外来語であり、直訳すると「~に乗っている」という意味を持ちます。
船や飛行機などの乗物に新しい乗組員が乗ってきた際に、はやく乗物に慣れてもらうために既存乗組員が支援する動きと、新たな社員が入社してきた際に周りがサポートする様子をなぞらえて表現しているそうです。
オンボーディングを実施する目的
オンボーディングを実施する目的は、ただ単純に「新入社員を仕事に慣れさせること」だけではありません。
オンボーディングの目的
- 内定辞退を防ぐ
- 内定者の期間に必要知識を身に付けてもらい、入社後の早期戦力化をはかる
- 内定者同士の交流、既存社員と内定者の親睦を深め、帰属意識を高める
- 入社前後で発生する新入社員の不安や悩みを解決する
オンボーディングは、新卒社員と中途社員どちらにも実施されるものです。
中でも新卒社員向けのオンボーディングでは「学生から社会人への気持ちの切り替えを行うこと」も、オンボーディングの目的となるでしょう。
オンボーディングが注目されている背景
オンボーディングという言葉が注目されはじめたのはなぜでしょうか?
2つの視点から、オンボーディングが盛り上がってきた背景を紐解きます。
理由1 新卒社員の3割が早期離職
厚生労働省の実施した「新規学卒就職者の離職状況」の令和元年の発表によると、新卒社員が入社後3年以内に離職した割合は32%となりました。
企業規模別に離職率を見てみると、従業員数が少ない企業での離職率が高くなります。
また業界別に見ると、宿泊業や飲食業、生活関連サービスや娯楽業、教育・学習支援業での離職率が高い傾向となっています。
昭和62年から平成6年度までは、新卒社員の3年以内離職率は20%台で推移していました。
バブルが崩壊し就職難の時代が訪れると、就職難に比例して離職率がぐっと高くなっていきます。
売り手市場になり、新卒者の就職環境が良くなると一時期離職率も下がりますが、近年また離職率は悪化し3割超となっています。
このように、就職状況と離職率は相関関係がある点を考えると、コロナの影響で就職が厳しくなれば離職率がまた高くなる可能性があります。
例年、一定数の新卒社員が3年以内に早期離職をしてしる現状を打破するために、離職対策としてオンボーディングに注目する企業が増えてきたのです。
理由2 雇用の流動化=人材が定着しない
近年の転職市場のデータを見てみると、非正規雇用・正規雇用ともに、転職者数が右肩上がりとなっています。
転職が一般的になり、雇用が流動化すればその代わりに1社への在職期間が短くなります。
個人にとっては、さまざまな職場で働く機会が増えるメリットはありますが、企業側から見ると人材を長期に確保できない点がデメリットとも言えます。
せっかく採用した人材には少しでも長く働いてほしい、いずれ辞めてしまうとしても在籍中はしっかりパフォーマンスをあげてほしい、そんな思いからオンボーディングに力を入れる企業が増えているのではないでしょうか。
なお、2020年10月にエン・ジャパンが実施した調査を見てみると、中途入社者の定着や戦力化に悩みを感じている企業が多く、回答した415社のうち41%がオンボーディングに取り組んでいました。
現在オンボーディングに取り組んでいない企業は、オンボーディングのやり方がわからなかったり、予算や人手が足りずどうしても取り組めないという理由が上位となっています。
オンボーディングで期待できる効果やメリット
オンボーディングに取り組むことで、具体的にどのような効果が期待できるのか見ていきましょう。
- 内定辞退者の削減
- 従業員満足度(Enployee Experience)の向上
- 離職率の低下
- 従業員のパフォーマンス向上
オンボーディングがしっかり機能し、内定辞退者や早期離職者が減れば、新たに人材を採用しなくて良いため採用コストの削減にもつながります。
また、既存社員から見ても、新たな人材がどんどん抜けていく職場よりも、採用した人材の定着率が高い組織の方が満足度が上がるのではないでしょうか。
一方、オンボーディングを行うことで人事業務が増え、研修などに一定の時間がかかるのはデメリットとも言えます。
企業としては、採用した人材が自走してくれるのが1番嬉しいですが、現実的に考えると、どのような人材も新たな職場に慣れるまでに最低限のケアは必要でしょう。
1人ひとりの知識習得のサポート、定着化への取り組みに時間をしっかりと割き、中長期的な視野でオンボーディングを行うことが重要です。
オンボーディングを実践する上でのSTEP、成功のポイント
ここからはオンボーディングをどのように実践していくか説明していきます。
STEP1 内定~入社前
候補者に内定通知をしてから入社日までに実施することを一覧化して、抜け漏れがないように進めましょう。
入社書類の手続きをして終わりではなく、可能な限り既存社員と話す機会を設けたり、会社の業務につながるような課題図書を出したりして、コミュニケーションを図りましょう。
- 内定者懇親会の実施(配属先グループ全員参加)
- 社長と人事のランチ日設定
- 課題図書とレポート作成
- 1on1実施(隔週)
- 入社1週間前のご案内
- 入社書類の手配(1か月前まで)
- 内定者同士の社内SNS案内
内定してから入社日まで間が空いているとき、ほかの求人に目移りするリスクはゼロではありません。内定後も定期的にコミュニケーションをとるようにしましょう。
尚、入社書類は送りっぱなしにせず、書き方の説明や返送のしかたなど丁寧に伝えるのも大切です。
STEP2 入社日
入社初日は、新入社員の教育・相談役となる担当者が1日付きっ切りでケアすることが望ましいでしょう。
「中途社員なら社会人だし1人でも大丈夫でしょ?」と甘く考える方もいると思いますが、どのような人材も初めての環境で、初めて出会う人に囲まれる初日は緊張するものです。
お手洗いやゴミ箱、給湯室の場所、自分のデスクや会社備品の使い方、社内イントラの見方など、日常生活のちょっとしたルールが分からず困ってしまう可能性もあります。
どうしても1人になる時間が発生する場合は、必ず「この時間で何をやるのか」を伝え、終わったら誰にどのように報告をするのか、休憩はどのタイミングでとるのかなど明確に共有しましょう。
「このくらい自分でできて当たり前」「言わなくても大丈夫だろう」と甘く見ず、共有すべき知識をリストアップして1つずつ丁寧にケアすると良いでしょう。
ナンバー | やること | ステータス | 優先度 | 上長確認 | 人事確認 |
1 | Gmailのセットアップ | 完了 | 高 | 〇 | 〇 |
2 | slack案内と▲チャンネル招待 | 12月1日予定 | 高 | 〇 | |
3 | マネージャーとウェルカムランチ | 12月1日予定 | 中 | ||
4 | 会社携帯セットアップ | 完了 | 高 | 〇 | |
5 | オフィスツアー(手洗いやゴミ捨て場も忘れず) | 12月1日予定 | 中 |
STEP3 入社後
入社後は定期的に1on1などの面談を通して、目標や業務課題のすり合わせを行いましょう。
入社後研修が終わった後はOJT中心に進める企業も多いと思いますが、1週間ごとや隔週ごとに面談の場をスケジューリングしておくことをおすすめします。
どうしてもOJTのみだと困っていること・分からないことを相談しきれず、コミュニケーション不足になってしまうためです。
面談の相手は直属の上司だけでなく、人事担当者や社長など複数の人と話せるよう設定するのも良いでしょう。
複数の立場の人とコミュニケーションを取ることで、不安や疑問の解消もしやすくなりますし、職場の雰囲気にも馴染みやすくなります。
メンターやシスター制度として歳の近い先輩を相談役に置くのも効果的です。
オンボーディングにおける他社事例
他社ではどのようなオンボーディングを実践しているのでしょうか?
本章では、オンボーディングの他社事例をご紹介します。
株式会社トレタ
3か月間の試用期間をオンボーディング期間として設定。
①ツールと社内ルールの基礎理解
②組織、方針、戦略の理解
③コミュニケーション機会の創出、人間関係構築
④自身のミッション・業務理解
以上4点をオンボーディングの必要要素として、3か月後にそれぞれがどのような状態になっているのが理想なのか目的を立ててオンボーディングを実施しています。
株式会社スペースリー
入社後は、新人の自己紹介を目的とした「welcomトーク」を開催。
新入社員と既存社員を3名ほど集めて1回30分ほどで行います。
自己紹介タイムを設けても、新入社員のことを全て理解するのは難しいため、別途「社員紹介シート」を作成しオンライン上でいつでも閲覧できるようにしておきます。
入社1か月後には人事面談を「部署では言いづらいけど実は困っていることや悩みなどがもしあれば、話を聞いて解消できたらという目的」で実施しています。
株式会社サイバード
オンラインチームビルディング「バヅクリ」を導入。
図工や演劇などのアソビで全社員のコミュニケーションの活性化と相互理解の深化を通じ、リモートワーク下でのオンボーディングの強化及び、事業の更なる成長を図ります。
・既知の人がどんなことを考えているのかが知れて良かった。初めましての人もだが、こういうアウトプットを身近な人とするのも面白かった。
https://buzzkuri.com/cases/5
・「なにかをやること」よりも「一緒になにかをやることで会話が生まれること」が大事だと思いました。
といった声が社員からあがりました。
まとめ
オンボーディングを通して、新入社員が組織に早く馴染むことで早期の離職を防ぎ、結果的に組織全体のパフォーマンスを高める効果もあります。
どんなに優秀な人材も新たな職場では不安も感じやすく、新しい人間関係に慣れるまで時間がかかるものです。
人事担当者と現場社員など、社員一丸となって新入社員のオンボーディングに力を入れてみてください。