「管理職は罰ゲーム」という言葉が、人事の現場で当たり前のように交わされるようになりました。背景にあるのは、責任と業務量ばかりが積み上がり、権限や報酬といった見返りが追いつかない構造の歪みです。個人の頑張りや心構えの問題として片づけられないからこそ、企業側の役割設計と制度の見直しが問われています。

本記事では、罰ゲーム化を引き起こす7つの構造要因を最新の調査データとともに整理し、放置した場合の経営リスク、人事が着手すべき対策と研修の位置づけまでを順に解説します。

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「管理職は罰ゲーム」と言われる背景

この言葉は一時の流行語ではなく、複数の調査データに裏づけられた現象を指しています。まずは言葉が広がった経緯と、管理職を取り巻く数字の変化を押さえておきましょう。

言葉の由来と広がり

「罰ゲーム」という比喩を世に広めたのは、パーソル総合研究所の小林祐児氏が2024年に刊行した書籍『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』です。もともとビジネスの現場で冗談半分に使われていた言い回しが、調査データに基づく分析とともに提示されたことで、多くの管理職と人事担当者の実感を言い当てる言葉として一気に浸透しました。

その後もこの言葉の存在感は増しています。パーソル総合研究所は「人事トレンドワード2025-2026」の一つに「管理職の罰ゲーム化」を選出しました。また、エフアンドエムネットが会社員300名を対象に実施した「中間管理職に関するアンケート調査」では、管理職が罰ゲーム化していると感じる層が56.7%にのぼっています。もはや一部の愚痴ではなく、働く人の半数以上が共有する実感になっているのです。

データで見る管理職忌避の実態

罰ゲーム化を最も端的に表すのが、昇進を望まない人の多さです。日本能率協会マネジメントセンターの「管理職の実態に関するアンケート調査」では、一般社員の77.3%が「管理職になりたくない」と回答しました。2018年の同調査では72.8%だったため、5年間で約4ポイント上昇した計算になります。

昇進を避ける理由も切実です。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「女性管理職の育成・登用に関する調査」では、管理職への昇進を望まない理由として「ストレスが増えるため」(女性非管理職55.1%、男性非管理職54.3%)、「責任が増えるため」(同49.1%、43.5%)が男女ともに上位を占めました。昇進の打診を「評価された」と喜ぶより先に、「これから生活がどうなるのか」を心配する。それが多くの社員の偽らざる反応といえます。

罰ゲームの本質は「見返りの喪失」

罰ゲームという言葉の核心は、忙しさそのものではありません。かつて管理職への昇進には、権限の拡大、報酬の上昇、社会的な信用といった明確なリターンがありました。負荷が重くても、それに見合う見返りがあったからこそ、昇進は目指す価値のあるゴールだったわけです。

ところが現在は、責任と業務量だけが積み上がり、リターンの側がほとんど増えていません。「負担が増えたこと」ではなく「見返りが失われたこと」こそが、罰ゲームという言葉の本質です。難易度だけが上がり続け、クリア報酬は据え置きのゲームを、進んで遊びたい人はいないでしょう。

管理職が罰ゲーム化する7つの構造要因

罰ゲーム化は、特定の誰かの怠慢や能力不足で起きているわけではありません。複数の構造要因が絡み合い、放っておくと負荷が自動的に増え続ける仕組みになっています。ここでは代表的な7つを見ていきます。

組織フラット化による管轄範囲の拡大

バブル崩壊以降、多くの企業は人件費を抑えるために管理職ポストを減らし、組織の階層を薄くしてきました。意思決定を速くする狙いもありましたが、結果として1人の管理職が見る部下の人数と業務の範囲は広がり続けています。

特に負荷が集中しやすいのが、現場に最も近い課長層です。ポストが減った分の管理業務は消えてなくならず、残った管理職に上乗せされる構造になっています。組織図がスリムになった代償を、現場の管理職が一身に引き受けている状態といえるでしょう。

プレイングマネジャー化の常態化

産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」によると、上場企業の課長の94.9%が自身をプレイングマネジャーだと認識しています。自分の担当業務で数字を追いながら、合間に部下のマネジメントをこなすのが、いまや標準的な課長の姿です。

この兼務には悪循環が潜んでいます。プレイヤー業務に追われて育成の時間が取れないと、部下が育ちません。部下が育たなければ仕事を任せられず、結局は管理職が自分で手を動かすことになる。忙しさが次の忙しさを生む回路が、組織の中に組み込まれてしまっているのです。

経営と現場の板挟み構造

管理職には、経営層から「目標を達成しろ」という圧力がかかる一方、部下からは「残業を減らしたい」「もっと配慮してほしい」という要望が寄せられます。両者はしばしば相反しますが、どちらを優先すべきかの指針が示されることはほとんどありません。

その結果、管理職は矛盾する要求を一人で抱え込みます。「上の顔も下の顔も立てられない」と感じながら、日々の判断だけが積み重なっていく。矛盾の調整コストを組織ではなく個人が支払っている点に、板挟み問題の根深さがあります。

残業規制のしわ寄せによる業務の巻き取り

労働時間の上限規制が浸透し、一般社員の残業は着実に減りました。一方で、労働基準法上の管理監督者にあたる管理職の多くは規制の対象外です。部下が定時で帰った後に残った仕事は、行き場を失って管理職の手元に集まります。

深刻なのは、この光景が次の世代に与える影響です。遅くまで残って部下の仕事を巻き取る上司の姿は、若手にとって何よりの「昇進したくない理由」になります。負荷のしわ寄せが、管理職候補の意欲まで削っているわけです。

ハラスメント対応への萎縮と感情労働の増大

ハラスメント防止の重要性が浸透したこと自体は、健全な変化です。ただ、その副作用として「どこまでが指導で、どこからがハラスメントなのか」に悩み、部下への率直なフィードバックを控える管理職が増えました。

注意すべき場面で言葉を飲み込み、「自分でやったほうが早い」と仕事を引き取る。部下の感情面のケアにも気を配り続ける。指導の萎縮と感情労働の増大が同時に進み、管理職の消耗を静かに加速させています。目に見えにくい負荷だけに、周囲から気づかれにくいのが厄介なところです。

雇用形態と価値観の多様化によるマネジメントの複雑化

正社員だけのチームを前提にできた時代は終わりました。時短勤務、契約社員、派遣、副業人材、リモート勤務のメンバーが混在し、さらに年上の部下を持つ管理職も珍しくありません。

働き方が多様になるほど、業務の切り分けや配慮事項は掛け算で増えていきます。一律のマネジメントが通用しなくなり、メンバーの数だけ個別の対応設計が必要になったことが、管理職の頭を占有し続けています。多様性への対応は組織の方針として掲げられる一方、その実務コストは現場の管理職が負担しているのが実情です。

縮小する賃金格差と増え続ける責任

人手不足を背景に初任給や若手の給与は引き上げられていますが、管理職の処遇の伸びは追いついていません。企業によっては、管理職手当よりも部下の残業代のほうが多いという逆転現象さえ起きています。

責任と業務は増える一方で、手取りはほとんど変わらない。責任の重さと処遇が釣り合わないという実感が、罰ゲーム感を決定づける最後のピースになっています。ここまで挙げた6つの要因に耐えたとしても、報われなければ意欲は続かないでしょう。

罰ゲーム化を放置する3つの経営リスク

管理職の罰ゲーム化は、本人のつらさにとどまる問題ではありません。放置すれば、組織の持続性そのものを揺るがします。経営視点で押さえるべきリスクを3つに整理しました。

管理職候補の枯渇と採用難

最も直接的なリスクが、次の管理職のなり手がいなくなることです。前出の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では、課長相当以上への昇進を目指す非管理職は女性で15.5%、男性でも24.8%にとどまり、男性の昇進意向は2018年から6.3ポイント低下しました。リクルートマネジメントソリューションズの「マネジメントに対する人事・管理職層の意識調査」でも、人事と管理職層に共通する最大の課題として「管理職候補の不足」が挙がっています。

社内で候補が育たないうえ、中途採用市場でもマネジメント職は敬遠されやすくなっているため、外から補うのも簡単ではありません。若手が昇進を避ける心理と対策については、関連記事「なぜ若手は管理職になりたがらないのか?」で詳しく解説しています。

管理職本人の疲弊と離職

現任の管理職が持ちこたえられなくなるリスクも見逃せません。パーソル総合研究所のセミナーレポート「罰ゲーム化する管理職―『強いミドル』は復活するのか」では、管理職の52.5%が業務量の増加を、56.2%が後任の不在を課題として挙げた調査結果が紹介されています。同レポートは、1990年代後半以降の日本で管理職・専門職の死亡率が他の職業層と逆転して上昇したという研究にも触れており、健康面の影響は看過できない水準です。

疲弊した管理職の休職や離職は、単なる1名の欠員では済みません。後任がいないまま管理職が抜ければ、チームの業務と部下のケアが同時に宙に浮きます。不調の兆候を早めにつかむ方法は、関連記事「管理職のストレス・限界サインとは?」を参考にしてください。

チーム全体への波及

管理職の疲弊は、本人の生産性低下だけでは終わりません。余裕を失った上司のもとでは、1on1が形だけになり、フィードバックの質が下がり、部下は「相談しても仕方ない」と口を閉ざすようになります。

そうして職場の空気が停滞すると、部下のエンゲージメントが下がり、離職も増えやすくなります。管理職1人の消耗が、チーム全員のパフォーマンス低下として何倍にも増幅されるのが、この問題の怖さです。管理職への投資は、実質的にはチーム全体への投資だと捉える必要があります。

脱・罰ゲーム化に向けた企業の対策

構造の問題は、構造で解くほかありません。ここでは、人事・経営層が着手できる対策を「診断」「役割」「分業」「処遇」の4段階で紹介します。順番に取り組むことで、施策の抜け漏れを防げます。

まず自社の「罰ゲーム度」を診断する

対策の第一歩は、自社の管理職がどの程度追い込まれているかを正確に知ることです。感覚で議論を始めると、「最近の若手は根性がない」といった精神論に流れがちです。業務量・権限・処遇・支援の4つの観点で現状を点検すると、負荷の偏りが立体的に見えてきます。以下のチェックリストを、人事と経営層の共通の物差しとして使ってみてください。

【業務量】

  • 管理職の労働時間や業務内容を、人事が定期的に把握している
  • プレイヤー業務がマネジメント業務を圧迫しない範囲に収まっている
  • 「誰の担当でもない業務」の割り振り先を、管理職以外も含めて決めるルールがある

【権限】

  • 責任に見合う決裁権や人事権を管理職に委ねている
  • 現場で判断できることは、上位層の承認なしで進められる
  • 部下への権限委譲を後押しする仕組みがある

【処遇】

  • 管理職手当は、増えた責任・業務量と釣り合う水準になっている
  • 非管理職との年収逆転が起きていない(起きた場合は是正している)
  • 昇進以外に処遇が上がるキャリアの選択肢を用意している

【支援】

  • 管理職が悩みを相談できる相手や場が社内にある
  • 新任管理職への移行支援(研修やメンターなど)を用意している
  • サーベイなどで管理職自身のコンディションを測っている

チェックがつかない項目の多い観点ほど、自社の弱点です。診断結果を経営層と共有するところから、脱・罰ゲーム化の議論を始めましょう。

管理職の役割定義と業務の棚卸し

罰ゲーム化した職場では、「管理職の仕事」という言葉が、あらゆる業務の受け皿として使われています。コンプライアンス対応も、急なトラブル処理も、担当の決まっていない雑務も、いつの間にか管理職の役割に組み込まれていく。この膨張を止めるには、職務範囲を文書で定めることが有効です。

役割を明文化すれば、管理職は「これは自分の仕事ではない」と判断する根拠を持てます。役割定義の目的は縛ることではなく、断る権利と優先順位の基準を管理職に与えることにあります。定義は作って終わりにせず、年1回は実態とのずれを点検し、更新し続けることが運用の前提です。

マネジメントの分業と権限委譲

1人の管理職が業績管理、部下育成、評価、労務対応、トラブル処理のすべてを担う前提を、そもそも見直す段階に来ています。実際に、評価・育成・業務管理を複数のリーダーで分担したり、部長職を複数名体制にしたりする企業も出てきました。

あわせて進めたいのが、現場への権限委譲です。メンバーが自分で判断できる範囲を広げれば、管理職を経由する意思決定と確認作業が減ります。マネジメントを「1人の役職」から「チームで担う機能」へ組み替える発想が、負荷の一極集中を解くうえで効果的です。

評価・報酬とキャリアパスの見直し

見返りの喪失が罰ゲームの本質である以上、処遇の見直しは避けて通れません。管理職手当の水準を責任と業務量に照らして再点検し、非管理職との処遇逆転が起きていれば早急に是正すべきでしょう。

同時に、キャリアの選択肢を増やすことも大切です。マネジメント以外に専門性で処遇が上がるコースを用意すれば、「昇進しか道がないから仕方なく管理職になる」というミスマッチを減らせます。適性と意欲のある人材を早めに見極め、計画的に経験を積ませる選抜型の育成へ切り替えることで、管理職候補の層も安定していきます。

罰ゲーム化に歯止めをかける先行企業の事例

打ち手の方向性を示すだけでは、自社で何から動かせばよいか像を結びにくいものです。ここでは、アプローチの異なる2社の取り組みと、そこで実際に表れた変化を紹介します。いずれも単発の施策ではなく、10年前後をかけて仕組みと文化を組み替えてきた例です。

選抜型育成で管理職候補の母集団を広げた積水ハウス

積水ハウスは、女性管理職の登用を経営課題と位置づけ、2014年に管理職候補の育成プログラム「ウィメンズカレッジ」を始めました。毎年およそ20名を選抜し、部署を横断する課題解決に約2年かけて挑ませ、その成果を経営層の前で発表させる実践型の設計です。管理職さながらの経験を昇進前に積むことで、「自分にもできそうだ」という手応えを候補者に持たせる狙いがあります。

この母集団形成は数字にも表れました。15名だった女性管理職(課長級以上)は、2025年に400名を超えるまでに増えています候補者の層を計画的に厚くする地道な育成が、管理職の増加という結果に結びついた事例です。対策の章で触れた選抜型育成を長期で運用するとどうなるかを示す好例といえます。

昇進も学びも「手挙げ」制に変えた丸井グループ

丸井グループは、昇進試験や研修、社内プロジェクトへの参加を、会社が指名する方式から社員が自ら応募する「手挙げ」制へ切り替えました。発端は2008年、管理職中心の会議で当事者意識の薄さが目立ったことです。「参加してほしい」を「参加したい人を募る」へ反転させ、10年以上かけて挑戦を後押しする文化として根づかせてきました。

その広がりは社内に浸透しています。全体の約8割の社員が、何らかの手挙げを経験するまでになりました。昇進を会社都合の打診ではなく本人の意思で選び取る仕組みにしたことで、「昇進しか道がないから仕方なく」という受け身の構図を、自律的な挑戦へと組み替えた点に価値があります。処遇とキャリアの選択肢を見直す対策と、地続きの発想です。

研修・育成施策の正しい位置づけ

管理職の課題というと、真っ先に研修が検討されがちです。ただし、研修は万能薬ではありません。効かない領域と効く領域を切り分けたうえで使うことで、投資対効果は大きく変わります。

研修だけでは罰ゲーム化を解決できない理由

管理職が疲弊していると聞くと、人事は「マネジメントスキルが足りないのでは」と考え、研修の追加で応えようとしがちです。しかし、ここまで見てきたとおり、罰ゲーム化の原因は業務量、権限、処遇といった構造の側にあります。

構造が生む負荷を個人のスキル向上だけで吸収させようとすれば、むしろ「研修を受けたのだからできるはずだ」という新たなプレッシャーを上乗せしかねません。構造要因を放置したままの研修は、罰ゲームの難易度をさらに上げる施策になり得るという自覚を、人事は持っておきたいところです。

それでも研修が効く3つの領域

一方で、構造改革と並行して進めるなら、研修が確かな効果を発揮する領域があります。1つ目は、任せ方と権限委譲のスキルです。抱え込みがちな管理職が、仕事の切り出し方と部下への任せ方を具体的に身につければ、本人の負荷軽減に直結します。

2つ目は、新任管理職の移行支援です。プレイヤーとして優秀だった人ほど「自分でやったほうが早い」という成功体験から抜け出しにくいため、チームで成果を出す発想への転換を昇進のタイミングで後押しする意味は大きいといえます。

3つ目は、部下側のフォロワーシップ育成です。管理職だけを鍛えるのではなく、支える側の部下も含めてチーム全体を育てる視点を持つと、研修の効果は職場に定着しやすくなります。

管理職を孤立させないピアサポートの場づくり

管理職の悩みには、部下にも上司にも話しにくいという特有の性質があります。弱音を吐ける相手がいないまま抱え込むことが、疲弊を深める大きな要因です。だからこそ、同じ立場の管理職同士が本音で話せる場を、会社が意図的に用意する価値があります。

部門横断の管理職ワークショップや、対話を中心に据えた研修はその代表例です。「悩んでいるのは自分だけではなかった」と知るだけでも、心理的な負荷は軽くなるもの。横のつながりは、制度改革の効果が出るまでの間、管理職を支えるセーフティネットとして機能します。研修を知識のインプットの場としてだけでなく、管理職の孤立を解く場として設計する視点を持ちたいところです。

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まとめ

管理職の罰ゲーム化は、組織構造が生み出した問題です。個人の資質論で片づけられない以上、打ち手も構造の側に用意する必要があります。

まずは業務量・権限・処遇・支援の4観点で自社の現状を診断し、役割定義と業務の棚卸しで負荷の膨張を止める。そのうえでマネジメントの分業と処遇の見直しを進め、研修は権限委譲や移行支援、ピアサポートなど効果の見込める領域に絞って投資する。この順番を守ることで、施策が空回りせずにつながっていきます。

管理職が「引き受けてよかった」と思える組織は、次の担い手が自然に育つ組織でもあります。罰ゲームという言葉が社内で過去のものになるよう、できるところから着手してみてください。