「今年も研修、無事終わりました」 「毎年似たような研修をやっている気がする」 「制度を変えたのに、現場の反応がいまいち変わらない」
心当たりのある人事担当者は、少なくないはずです。
研修をやれば人は育つ、制度を整えれば組織は変わる。
本当にそうでしょうか。多くの企業が研修や制度設計に投資していますが、その効果が本当にあったのかを検証している会社は、実はそれほど多くありません。「やった」で終わり、翌年もまた同じことを繰り返す。このサイクルこそが、バヅクリ株式会社代表・佐藤太一さんが「30年間変わっていない」と指摘するものです。
今回は、組織開発・人材育成・制度設計を数多く手がけてきた佐藤さんに、「なぜ研修や制度は本質的に変わっていないのか」「本当に効果を生み出すには何が必要か」を伺いました。
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満足度調査は、効果測定になっていない
——まず伺いたいのですが、バヅクリさんは「30年間変わらない人と組織をアップデートする」というビジョンを掲げています。具体的に、何が30年間変わっていないのでしょうか。
佐藤:研修とか制度設計で、本当に30年間何も変わっていないんですよ。何が変わっていないかというと、効果をどう測定していいかが、よくわからないままなんです。効果が見えない。こういう研修をやったから売上が上がった、利益が上がったというのは、なかなか証明できません。

結果として起きるのが、「研修をやった、アンケートを取った、満足度が良かったから、翌年も同じ研修をやりましょう」というサイクルです。しかし佐藤さんは、この満足度調査そのものに疑問を投げかけます。
佐藤:研修の最後にグループワークだったり、みんなでディスカッションできる場だったり、何か楽しいワークをすると、絶対に満足度が上がるんですよ。ほぼ100%上がります。だから、それまでの研修の内容がどうであれ、最後に楽しいワークをしたら大体満足度が上がってしまう。結果的に、その研修が業務にとって意味のあるものだったのかどうかは、全然わからないんですよね。
だからこそバヅクリでは、研修をやっただけで終わらせず、実践したかどうか、実践してどうだったかまで、効果測定として追いかけているといいます。
1日の研修で、人は変わらない
——「1日研修をやれば変わる」という感覚自体に、そもそもズレがあるということでしょうか。
佐藤:そうですね。1年って、大体8,000時間くらいあるんですよ。(※1年は約8,760時間)そのうちのたった8時間、1日の研修をやっただけで変わるかというと、変わらないですよね。自分に当てはめてみるとわかりやすいんですが、中学、高校の時に夏期講習とか、数学強化セミナーみたいなのが1日である学校、ありますよね。丸一日やっても集中力は持たないし、それで成績が上がるかというと、正直ほぼ無理ゲーに近いと思うんですよ。
——たしかに、身に覚えがあります。

佐藤:だからこそ、8,000時間分のたった8時間を、研修一発で伸ばそうとしても難しい。細く小さく、1日5分でも10分でもいいから、学習習慣だったり、復習だったりを日常のルーティンに組み込んでいく。それをこの30年間、多くの研修はやってこなかったんです。研修をやった、アンケートを取った、で終わりじゃなくて、毎日振り返って、毎日実践する。それを定点観測し続けることが、人材育成の本質だと思っています。
制度も「周知」だけでは動かない
佐藤さんは、この構造は制度も同じだと続けます。
佐藤:制度も一緒です。枠に当てはめて作って終わりじゃなくて、社員に周知して、実践してもらって、その成果がどうだったかまで測定する。そこまでやらないと、制度設計の意義がないと思うんですよね。ルールを作って「みんなこれやって」と言っても、やってくれないパターンはめちゃくちゃあります。
——なぜ、やってもらえないのでしょうか。
佐藤:ルールを作る人の頭の中では、もう出来上がっちゃっているんですよ。でも、それを守ってほしい人には、頭がついてこない。なぜこのルールに変えたのか、そもそもどういう目的でやっているのか。それを社長目線、マネージャー目線、現場のリーダーや社員目線、それぞれで意味づけや目的の見え方がまったく違うんです。だから、それぞれに対してちゃんとわかるように説明して、やってもらって、その結果を効果測定する。ここがダメだね、伝え方が分かりにくいねとなったら、見せ方を変えるか、ルールそのものを修正する。
30年間変わらないのは、端的に言うと「作って終わり」なんですよ。

作って回して、改善して、また回して、改善する。これをずっと続けなければいけない。僕らはそれを、ただやっているだけです。
本人だけでなく、上司の目でも検証する
——実際に、その「定点観測」はどうやって回しているんですか。
佐藤:本人がアンケートを書くだけでは、業務にどう活かされたかは正直わからないんですよ。だからこそ、本人の自己評価もするし、上司や先輩からの評価も合わせて、相互で評価するようにしています。この研修のこの部分はすごく使えるけど、この部分はあまり業務に役立たない、というのを、本人の主観だけじゃなく、上司からの客観も含めて検証していく。それがすごく客観性の高い効果測定になります。

そのうえで、どう改善すべきかを上司と本人でしっかり話し合ってもらって、そのインプットをもとに研修をより良いものに改善していく。それを繰り返すことかなと思っています。
研修は、経営目標を達成するための「いち施策」にすぎない
——研修や制度そのものが目的になってしまうケースも多そうです。
佐藤:そもそも研修って何のためにやっているかというと、経営目標があって、それを実現させるための人事戦略があって、そのいち施策を実行しているに過ぎないんですよ。経営目標があって、営業戦略やマーケティング戦略、プロダクト戦略、人事組織戦略があって、その土台となる人事組織戦略の一部として、どういう人材を育てなきゃいけないかという人材ポートフォリオがある。その人材ポートフォリオを実現するためのいち施策が、研修なんです。
——研修が全てではない、と。
佐藤:はい。OJTだったり、自己啓発だったり、コーチングだったり、1on1だったり、手段はほかにもいろいろあります。その人材ポートフォリオで定めているスキル定義や役割に沿って、育成体系やカリキュラムを作っていくんですけど、この育成体系・カリキュラムと現場の業務、この3つが合っていないパターンが非常に多いんですよ。
もっと言うと、人事組織戦略、人材ポートフォリオ、育成体系、カリキュラム、この4つ全部を揃えなきゃいけないんですけど、育成体系やカリキュラムだけがひとり歩きしたり、人材ポートフォリオが抽象的すぎて誰も翻訳できなかったりする。

そこをわかりやすく整理した上で研修をやって、その研修が本当に合っているかどうかも検証する。ここまでやれば、より良い効果測定になると思います。
制度の効果測定は、ABテストができない
——研修と比べて、制度の効果測定はどうでしょうか。
佐藤:制度の効果測定って、一番難しいんですよ。制度ってABテストできないじゃないですか。大体みんな、もっと評価してほしい、もっと給料をくれ、それしかないんですよね。給料を上げれば、もっと上げろって言われる。それでどんどん上を見て、他社の給与水準と比較し始めるんです。それがある程度上になってくると、次はワークスタイルの話になって、あそこはフルリモートだとか、フルフレックスだとか、KPIがないとか言い始める。実際はそれ相応のプレッシャーがあるはずなんですけどね。それくらい、制度の効果測定は難しいんです。
——答えが一つに定まらない、と。

佐藤:答えはたくさんありすぎて、その答えの納得感も非常に不安定なので、本当に「決めの問題」かなと思っています。制度を作った本人から経営層、現場のリーダーやマネージャーレベルで、ある程度の及第点、60点以上、できれば80点以上というところまでいけば、まあまあ成功なのかなと思ってます。
「人事のプロが社内にいない」という構造的な壁
最後に、これから研修や制度設計に取り組む人に向けて、一番伝えたいことを聞きました。
佐藤:理解を促すことですね。研修イコールやって終わり、制度を作って終わりじゃなくて、より良く回していくものですよ、と。目標があって、その目標を達成するためのいち施策として研修や制度設計がある。その前提条件を自ら握るか、上司や役員を説得するか。どうしても「上から降ってきたこの研修をやらなきゃ」が先行してしまうんですけど、やはり経営レベルで、この人材ポートフォリオ、この人事戦略を達成するにはどうしたらいいかを考え抜いた上で、自分なりのシナリオを作っていくことがすごく大事だと思っています。

——それができている会社は、多いんでしょうか。
佐藤:これをやっている会社の方が、正直少ないです。人事のプロフェッショナルというのは、大企業でもほぼいないんですよ。専業で何年、何十年もやっているプロ人材がいれば別ですけど、大体は営業や管理部門からの異動が多くて、3年、5年でまた異動しちゃう。だからノウハウが溜まりにくいんです。なんとなく自分なりの人事のやり方を持っている人は多いんですけど、まず共通言語化されていない。目標を立ててシナリオを作る前に、共通言語を作ることが、一番最初の一歩なんじゃないかなと思っています。
カルチャーも制度も、作って終わりにはできない

研修も、制度も、作って終わりにしないこと。実践し、振り返り、検証し続けること。そして、その前提として、人事に関わる人たち同士でゴールイメージをすり合わせること。バヅクリが掲げる「30年間変わらない人と組織をアップデートする」というビジョンの背景には、こうした想いが込められています。
研修・制度設計でお悩みの方へ
「やって終わり」になっている研修や制度に、心当たりはありませんか。効果測定の仕組みがない、育成体系と現場の業務がずれている、人事のノウハウが社内に溜まらない。
今回の記事であがったような壁に直面している方も多いのではないでしょうか。
バヅクリでは、経営目標から逆算した人材ポートフォリオの設計、研修・制度の効果測定の仕組みづくりまで、組織開発の知見をもとに支援しています。「何から手をつければいいかわからない」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
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