パーパスの真価は、組織全体でパーパスが理解・共感され、行動に落とし込まれることで初めて発揮されます。

しかしパーパスを制作したものの社内になかなか浸透せず、「どうしたらもっと効果的にパーパスを伝えられるか」と悩む企業も少なくありません。

この記事では、パーパスの浸透に効果的な方法と成功している企業の事例を紹介します。

パーパスとは

パーパス(Purpose)は直訳すると「目的・意図」を意味する言葉ですが、ビジネスの文脈では企業や組織の存在意義を指します。

「我々は何のためにここにいるのか?」「社会にどのような貢献をするのか?」という問いへの答えを表した言葉であり、日々の行動基準や組織の意思決定の方向性を指し示すものです。

近年パーパスが重要視されるようになった背景には、社会や環境に対して一企業が与える影響が大きくなったことが挙げられます。

単に利益を追求するだけではなく、新たな価値を社会に提供する責任が企業として問われ始めています。

パーパスを明確化することで、企業の社会的な立ち位置を明らかにするとともに、従業員のモチベーション向上やステークホルダーとのより良い関係づくりが期待できます。

経営理念と違い

パーパスと似た言葉として経営理念があります。

経営理念は創業者の想いや、企業として大切にしている価値観を言語化したもので、パーパスと同様、意思決定や行動基準の指針となります。

パーパスは経営理念は、メッセージを伝える対象と強調したい側面において違いがあります。

パーパスは「社会におけるその企業の存在意義」「社会全体の中で果たすべき役割」など、企業と社会との関係性をより重要視するものです。

一方、企業理念は従業員や組織に対するメッセージという意味合いが強く、その企業の文化を支える「想い」や「価値観」がより色濃く反映されています。

海外では「企業理念(Philosophy)」と「Purpose (目的)」は明確に別の意味で使われていますが、日本の企業は企業理念にパーパスの要素が含まれていることも多いため、両者を分けて掲げている企業はそこまで多くありません。

パーパスが注目されている背景

ここではパーパスの概念が注目されるようになった背景として、3つのビジネスの環境変化を紹介します。

将来の見通しが立ちにくくなっているから

現代のビジネス環境の激しさを示す言葉として「VUCA(ブーカ)の時代」という言葉があります。

VUCAは「変動性(Volatility)」「不確実性(Uncertainty)」「複雑性(Complexity)」「曖昧性(Ambiguity)」という単語の頭文字を取ったものです。

VUCAの時代では従来のビジネスモデルや価値観が通用しにくく、また将来の予測も困難です。

その中で企業が生き残るには、これらの変化に迅速に適応する経営戦略や組織を作ることが欠かせません。

パーパスを明確にすることで、従業員全員が価値観や判断基準を共有でき、困難な状況に陥った際も迅速な意思決定や柔軟な対応ができるようになります。

価値観の多様化に対応できるから

かつての日本社会では「男は仕事、女は家庭」という価値観や終身雇用制度が根付いていたため、会社組織は「20代から50代の男性」という極めて同質性の高いメンバーで構成されていました。

しかし近年はグローバリゼーションの進展や終身雇用の崩壊、女性の社会進出の進展などにより、人材の多様化が進んでいます。

異なる文化や価値観を持つ従業員が増えるに伴い、多様な人材がチームワークを発揮し、新たなイノベーションの機会を生み出すための行動指針としてパーパスが注目されています。

パーパスを明文化することで、多様なバックグラウンドを持つ人々も企業の目標に共感し、向かうべき方向性を共有できます。

社会貢献の重要性が高まっているから

これまでも、大手企業を中心にCSR(Corporate Social Responsibility = 企業の社会的責任)を果たすための行動が求められていました。

しかしそれらの企業行動は、寄付やボランティア活動などの慈善事業に限定されがちでした。

現在は、SDG(Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)やESG投資(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governanceに配慮した投資活動)などの考えが浸透し、本業で社会的課題の解決に取り組み、企業の成長や価値向上を図る考え方が主流となっています。

その流れの中で、パーパスは企業が社会的意義を追求する上で重要な役割を果たします。

パーパスを掲げることで持続可能なビジネスモデルの構築する足がかりができ、長期的には「社会貢献度の高い企業」として信頼性やブランド価値を高めることにもつながります。

パーパス浸透に向けた取り組み

「パーパスが浸透している」とは、従業員がその理念に共感し、日々の業務の中でパーパスを意識しながら行動できている状態を指します。

単に「知っている」「意味を理解している」だけでは意味はなく、従業員がパーパスを体現できていることで初めて真の価値を発揮します。

ここではパーパスを深く浸透させるための3つの取り組みを紹介します。

社内報の作成

策定したパーパスは、社内報を通じて発信しましょう。

ただパーパスを公表するだけでなく、詳しい解説や策定プロセス、経営陣からのパーパスに込めた想いを伝えるメッセージを掲載することで、従業員の理解と共感が深まります。

またパーパスに基づいた行動をして成果を上げた社員がいれば、社内報で積極的に取り上げましょう。

現場の社員の声を載せることで、パーパスをどう行動に落とし込めば良いかを理解しやすくなる上に、取材した従業員のエンゲージメントの向上も見込めます。

ワークショップの実施

パーパスを浸透させるためのワークショップを実施するのも良いでしょう。

従業員一人ひとりが自社と社会との関わり、自社とステークホルダーの関わりについて考えることで、企業のパーパスを自分ごととして捉えられるようになります。

ワークショップの形式は座学よりも、複数人でディスカッションやグループワークができる形式がおすすめです。

参加者との意見交換を重ねることで、それぞれが自分の言葉でパーパスを解釈できるようになります。

ワークショップ後は、得られた洞察を普段の業務にどう活かすかを考える時間を設けるとさらに効果的です。

定期的な社内調査

パーパスの浸透度合いを測るために、アンケートなどを活用して定期的な社内調査を行いましょう。

パーパスは従業員の行動に影響を与えることで初めて効果を発揮します。

ただパーパスを発信するだけではなく、行動レベルにまで落とし込めているかどうかも調査で確認しましょう。

調査の結果、社内に浸透していないとわかった場合は、浸透のための具体的なアクションプランを追加で策定し、組織全体で実施することが求められます。

社内調査を行ったとしても、解答率が悪く社内の状況を把握できなければ意味はありません。

社員の回答を効率的に収集できるように、事前に調査の目的や意義を説明する、回答は最小限にするなど、調査の設計段階で工夫を行いましょう。

バヅクリのおすすめワークショップ

ここでは企業のパーパス浸透に活用できるワークショップを紹介します。

モチベーションを上げる自己成長ワークショップ 〜できることを増やして成長速度を上げよう〜

モチベーションを上げる自己成長ワークショップ

「モチベーションを上げる自己成長ワークショップ」では、過去を振り返って「成長グラフ」を作成、これまで自身がどう成長してきたかを知った上で、これからの成長を思い描く「未来の成長グラフ」を作成します。

過去・未来の成長グラフを企業のパーパスと紐付けながら作成してもらうことで、パーパスに対する理解や共感が深まるとともに、ワークショップ後の行動の変化が期待できます。

仕事のやりがい実感ワークショップ 〜世界は仕事の連鎖で動いている〜

仕事のやりがい実感ワークショップ

「仕事のやりがい実感ワークショップ」は、「自分が社内のメンバーに対して感謝したいことベスト3」を考えた後、「人から感謝されたことベスト3」を発表し、人に対する感謝の気持ちや自身の価値を再認識してもらうプログラムです。

パーパスを体現している行動を改めて言語化し感謝することで、パーパスと普段の業務が繋がっていることを実感でき、モチベーションや組織エンゲージメント向上が期待できます。

パーパス浸透に取り組む企業事例

近年はパーパスを軸に経営の意思決定を行う「パーパス経営」を取り入れ、企業成長へつなげる会社も増えています。

ここではパーパス浸透に取り組む企業の事例を紹介します。

ソニーグループ

ソニーグループではグループ全体の成長に向け、2019年に「Sony’s Purpose & Values」(存在意義と価値観)を発表、パーパスとして「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」を掲げました。

このタイミングでパーパスを定義した背景には、創業時の強みだったエレクトロニクス事業の事業比率が低下し、エンターテインメント事業の割合が増えていたこと、また人種・国籍・職種など人材の多様性が増していたことなどがあります。

ソニーグループではSony’s Purpose & Valuesに基づいて、各事業部が迅速に人事運営を行えるように人事責任を各社CHRO(最高人事責任者)に委任しています。

その上でグループ経営の「求心力」としてパーパスを定義し、エンゲージメント向上の責任と成果と経営陣報酬に反映しています。

SOMPO ホールディングス

損保大手のSOMPOホールディングスではパーパスとして「”安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」を掲げています。

また「パーパス実現に取り組む主役は社員一人ひとりである」という考えのもと、社員一人ひとりに対し、自分の人生や働く意義である「MYパーパス」に向き合うことを勧めています。

この「MYパーパス」と「SOMPOのパーパス」を重ね合わせて働けるように、社員との定期的な1on1ミーティングを実施、エンゲージメントの向上に努めています。

味の素株式会社

味の素では「食と健康の課題解決」をパーパスに掲げ、パーパスを基にグループビジョンを策定しました。

パーパスとビジョンを社内に浸透させるため、パーパスと紐づく形で組織・個人目標を設定した上で個人目標発表会を実施しています。

また人財資産を将来的な価値を生み出す「未財務指標」と捉え、従業員エンゲージメントサーベイによる定期的な効果測定を行っています。

まとめ

パーパスの浸透を行うことで、社会情勢の変化に柔軟に対応できるだけでなく、組織全体のエンゲージメント向上も実現できます。

パーパスを浸透させるには、社内への情報発信やコミュニケーション強化が効果的です。

今回ご紹介した内容を基に、自社での取り組みを一度検討してみてはいかがでしょうか。