ストレスチェックを実施すると、本人あての個人結果とは別に、部署や年代ごとのストレス傾向をまとめたレポートが返ってきます。これが集団分析です。ただ、この一冊をどう職場の改善につなげるかまでは、実施機関も教えてくれないもの。
分かれ目になるのは、判定図を正しく読めるかどうかよりも、結果を誰に何をどの順で渡すかを先に決めてあるかどうかです。数値が教えてくれるのは課題の場所までで、そこから先は共有の設計で決まります。この記事では、集団分析の進め方、仕事のストレス判定図と総合健康リスクの見方、判定図のタイプ別に選ぶ改善施策、経営層や管理職への戻し方、公開されている企業事例、10人未満の部署の扱いまでを順に整理します。
ストレスチェック集団分析の基礎知識

集団分析の話は、手順から入るとたいてい途中で詰まります。何のためのデータなのか、個人結果とどう違うのか、法律上どこまで求められているのか、何人から使えるのか。この4点を先に固めておくと、結果を誰に見せるかを決める段階での差し戻しがなくなります。
ストレスチェックの集団分析とは
集団分析は、ストレスチェックの回答を部署や年代といったまとまりで集計し、その集団にかかっているストレスの度合いを数値にする作業です。受検が終わると、受検者本人には個人結果が返ります。それとは別に、会社には集団単位のレポートが届きます。
レポートに載るのは、仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援という4つの尺度の得点と、それを図に落とした仕事のストレス判定図です。ここから総合健康リスクという指標も出ますが、読み方は後半でまとめて扱います。
集団分析が制度に組み込まれているのは、不調が表に出てから対応するより、その手前で職場の条件を変えるほうが効くからです。 受検者へのフィードバックで完結させず、職場を動かす材料として使うことが想定されています。
集団分析と個人結果の違い
集団分析と個人結果は同じ回答から作られますが、使う目的も見てよい相手も別物です。個人結果は本人がセルフケアに使うもので、本人の同意なく会社が閲覧することはできません。集団分析のほうは、部署や職種といったまとまりの傾向を数値化したもので、会社が職場環境の改善に使うために作られます。
個人結果は人を助けるための情報、集団分析は職場を直すための情報だと切り分けておくと、扱い方を間違えにくくなります。 実務でこの線引きが崩れると、集団の数値から特定の社員の回答を推測するといった事故が起きかねません。
面接指導や就業上の措置は個人結果に紐づく対応、業務量の配分や上司のマネジメント支援は集団分析に紐づく対応です。同じ「ストレスチェック後の対応」でも、根拠になるデータが違う点は押さえておきましょう。
| 比較軸 | 個人結果 | 集団分析 |
| 見るもの | 回答した本人のストレス状態 | 部署や年代など集団の傾向 |
| 目的 | 本人のセルフケア | 職場環境の改善 |
| 会社が見られるか | 本人の同意がなければ見られない | 事業者が受け取る(社内の開示範囲は自社で決定) |
| 結果に紐づく対応 | 医師による面接指導、就業上の措置 | 業務量の配分、上司のマネジメント支援、設備の見直し |
集団分析でわかること
集団分析が教えてくれるのは、どこに、どんな種類のストレス要因が集まっているかです。全社平均だけを眺めていると、忙しさの偏りも支援の薄さも平均に溶けてしまいます。部署別に切り出して初めて、営業二課だけ突出しているという形で課題の住所が分かります。
切り口は部署に限りません。年代別に見ると若手層だけ裁量の数値が落ち込んでいる、職種別に見ると内勤だけ支援が薄い、そんな傾向が出ることもあります。同じ会社の中でも、ストレスの出方は集団ごとにかなり違います。
もうひとつ得られるのが、全国平均との相対位置です。自社の数値だけを見ても高いのか低いのか判断できませんが、標準値と比べれば「うちは平均並み」「この部署だけ明らかに重い」と言えるようになります。
集団分析の法的位置づけと2028年の義務化
労働安全衛生法では、ストレスチェックの実施は義務、集団ごとの分析とそれに基づく職場環境改善は努力義務という整理になっています。分析をしなくても罰則はありません。ただ、実施義務のほうだけ果たして分析を飛ばすと、集めた回答が個人へのフィードバックだけで終わってしまいます。
実施の広がりは数字でも確認できます。令和6年労働安全衛生調査(実態調査)によると、ストレスチェックを実施した事業所の割合は全体で65.3%、50人以上の事業所に限れば89.8%でした。実施した事業所のうち集団ごとの分析まで行ったのは75.4%、その結果を活用したのは76.8%となっています。
2025年に成立した改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務づけられます。施行日は2028年4月1日です。集団分析は改正後も努力義務のままですが、実施義務の対象が広がる以上、分析まで含めた設計を求められる場面は増えていきます。
厚生労働省は2026年2月に小規模事業場向けのマニュアルも公表しました。50人未満の拠点を抱える企業なら、義務化の直前に慌てるより、いま実施している事業場での運用を先に固めておくほうが移行は楽になるでしょう。
分析対象が「10人以上」とされる理由
集団分析は原則として10人以上の集団を単位に行います。人数が少ないと、集計値から個人の回答が推測できてしまうためです。3人の部署で支援が著しく低いと出れば、誰の回答なのかはほぼ見当がついてしまいます。
10人未満でも、全員の同意を得る、あるいは個人が特定されない集計方法をとる場合には実施できるとされています。ただし同意を集める過程そのものが少人数の職場では圧力になりかねないため、実務では合算して人数を確保する方法を先に検討するのが無難です。
その合算のやり方には、人数を満たすだけでは足りない工夫が要ります。この点は記事の後半であらためて扱います。
集団分析の進め方4ステップ

実施機関に委託していても、集団の切り方や共有の段取りは自社で決める部分が残ります。ここでは人事担当者が実際に手を動かす順に、4つのステップで整理します。
ステップ1|分析する集団の切り方を決める
最初に決めるのは、どの単位で集計するかです。ここを実施機関任せにすると、たいてい本部別といった粗い集計が返ってきて、課題の所在が絞れないまま一年が終わります。
使いやすいのは、部署別を基本に、年代・職種・雇用形態のうち自社の関心が高い軸を1つか2つ重ねる形です。切り方を増やしすぎると1集団あたりの人数が10人を割り、分析できる箱そのものが減っていきます。
組織図をそのまま使うか、業務実態に合わせて束ね直すかも、この段階で決めておきます。名目上は同じ部でも、拠点が離れていて働き方が違うなら分けたほうがよいでしょう。
設問の配布より前に集団の切り方を固めておくと、あとから集計をやり直す手戻りを防げます。
ステップ2|ストレスチェック結果を集計する
集計そのものは実施機関が行うのが一般的です。厚生労働省が無償で配布している実施プログラムを使えば自社での集計もできますが、実施者の要件や個人情報の管理体制を満たせるかを先に確認してください。
受け取ったレポートで確認したいのは、集団ごとの人数、回答率、そして4つの尺度の素点です。点数です。回答率が低い集団の数値は、答えなかった人の状況が入らないまま作られています。 30人の部署で12人しか答えていなければ、それは12人分の数値であって、部署の姿とは限りません。 回答率が低い集団の数値は、そもそもその集団を代表していない可能性があります。
回答率が6割を切っている集団があれば、数値の解釈に入る前に「なぜ答えていないのか」を先に確かめてください。忙しすぎて回答できていない、制度への不信がある、その事情自体が課題を示しています。
ステップ3|分析手法を選ぶ
手法は仕事のストレス判定図が基本になります。全国標準値と比較でき、結果が2枚の図に収まるため、産業医とも経営層とも同じ絵を見ながら話せます。初年度はこれで十分です。
そのうえで、判定図だけでは足りない場面もあります。年代と職種のように2つの軸を掛け合わせて見たいときはクロス集計、変化を追いたいときは前年との経年比較を足していきます。手法を増やす前に「何が分かれば次の一手を決められるか」を言語化しておくと、分析のための分析になりません。
クラスター分析や重回帰分析といった手法は外部サービスで提供されることもありますが、はじめから手を広げる必要はないでしょう。判定図と経年比較で動かせる範囲を使い切ってからでも十分間に合います。
ステップ4|共有する相手と順番を設計する
数値が出てから共有先を考えると、たいてい「とりあえず全管理職に配る」に落ち着きます。この配り方が、後で触れる犯人探しの温床になります。
集計に着手する前に、誰に、どの粒度で、どの順番で渡すかを決めておきましょう。共有の順番を先に決めておくことが、集団分析でいちばん効く準備です。
標準的には、産業医と衛生委員会で全体像を確認し、経営層に全社傾向を報告し、そのうえで各管理職に自部署の結果を戻す流れになります。順番が逆になると、管理職は事情を知らないまま数値だけを突きつけられることになります。
4つのステップを、決めるタイミングと主な担当で並べ直すと次のとおりです。担当の欄が人事だけで埋まっている行があれば、そこが手戻りの起きやすい場所になります。
| ステップ | 決めること | 決めるタイミング | 主な担当 |
| 1 集団設計 | 部署・年代・職種のどの軸で切るか | 設問の配布前 | 人事+衛生委員会 |
| 2 集計 | 人数・回答率・4尺度の素点をどう受け取るか | 受検の締切後 | 実施機関 |
| 3 分析手法 | 判定図だけで足りるか、クロス集計や経年比較を足すか | 集計結果の受領時 | 人事+産業医 |
| 4 共有 | 誰に、どの粒度で、どの順で渡すか | 集計に着手する前 | 人事+経営層 |
集団分析の手法と結果の見方

ここからは実際の読み方です。仕事のストレス判定図の構造をつかめば、数字の意味はかなり読めるようになります。あわせて、読み違えやすいポイントも押さえておきましょう。
仕事のストレス判定図の構造

判定図は2枚あります。1枚目が量-コントロール判定図、2枚目が職場の支援判定図です。それぞれ2つの尺度を軸にとり、集団の平均点をプロットして、健康リスクの等高線と照らし合わせます。
使う尺度は、仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援の4つ。国が標準の質問票として示している職業性ストレス簡易調査票(57項目の設問からなる調査票)のうち、これらに対応する項目の得点から算出されます。
4つの尺度は「負荷の大きさ」と「負荷を受け止める余力」に分かれていると考えると、図の意味がつかみやすくなります。 量的負担が負荷にあたり、コントロールと2種類の支援が余力にあたる位置づけです。
算出方法や図の原本は、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルに掲載されています。
量-コントロール判定図の読み方
横軸が仕事の量的負担、縦軸が仕事のコントロールです。量が多くて裁量が小さい領域に近づくほど、健康リスクは高くなります。
注目したいのは、同じリスク値でも到達の仕方が違う点です。量が突出している集団と、量は平均的でもコントロールが極端に低い集団では、同じ数値でも打つべき手が変わります。気をつけたいのは、同じ数値でも原因が違うことです。健康リスクが130と出た部署が2つあったとして、片方は量が突出しているから、もう片方は量は平均的でも裁量がないから、それぞれ130に届いていることがあります。プロットの位置だけでなく、どちらの軸が平均から離れているのかを必ず確認してください。
量的負担が高い集団は、残業時間などの客観データと突き合わせると解釈が固まります。数値と実態が食い違うようなら、繁忙期の直後に受検したなど、時期の影響を疑ってみるとよいでしょう。
職場の支援判定図の読み方
こちらは横軸が上司の支援、縦軸が同僚の支援です。どちらも高いほど健康リスクが下がる関係にあり、図の左下に寄るほど支援の薄い状態を示します。
上司と同僚を分けて見る意味は大きいといえます。上司の支援だけが低い集団と、同僚の支援だけが低い集団では、背景も対処も別物です。前者は特定の管理職のマネジメントに、後者はチーム内の関係性や業務の分断に目を向けることになります。
支援の数値は、業務量を減らしても自動的には回復しません。 忙しさが解消されれば会話が戻る職場もありますが、席が離れている、担当が完全に分かれているような構造が原因の場合、量を減らしても数値は動かないままです。
総合健康リスクの計算式と基準値
2枚の判定図から得られる健康リスク値を掛け合わせ、100で割ったものが総合健康リスクです。量-コントロール判定図から出る値を健康リスクA、職場の支援判定図から出る値を健康リスクBと呼びます。
全国平均が100、数値が大きいほどリスクが高い状態です。120を超えていれば健康問題の発生が平均より2割ほど多いと見込まれ、150を超える集団は優先的に手を入れる対象になります。 この基準値は前掲のストレスチェック制度実施マニュアルに示されているものです。
では100を下回っていれば安心かというと、そう単純でもありません。総合健康リスクは掛け算なので、片方の数値が低くても、もう片方が高ければ相殺されて平均並みに見えることがあります。内訳のAとBは必ず分けて確認しましょう。
判定図以外に使える分析
判定図は集団の平均を1点にまとめる手法なので、集団の中のばらつきまでは見えません。同じ部署でも管理職と一般社員で状況が違えば、平均は真ん中に落ち着いてしまいます。
ここを補うのがクロス集計です。部署×職位、部署×年代といった形で掛け合わせると、平均に埋もれていた偏りが表に出てきます。ただし掛け合わせるほど1マスの人数が減るため、10人以上を保てる範囲で組み合わせを選ぶことになります。
もうひとつ有効なのが経年比較です。改善の効果検証はこの比較でしか行えないため、集計の形式は年をまたいで揃えておく必要があります。
判定図を読むときにやりがちな3つの誤読
ひとつ目1つ目は、総合健康リスクが100を切っていれば問題なしと判断してしまうことです。総合健康リスクは掛け算なので、片方が130でももう片方が75なら、総合値は98に収まります。100を下回っていても、内訳のAとBを開いて、どちらかが120を超えていないかを確かめてください。
ふたつ目2つ目は、高ストレス者の割合と総合健康リスクを混同することです。高ストレス者率は個人の状態を数えた指標、総合健康リスクは職場の環境要因から算出した指標で、そもそも指している対象が違います。2つは並べて別々に読み、高ストレス者が少なくても環境要因の数値が悪ければ、翌年に表面化する前提で手を打ちます。
3つ目は、人数の少ない集団の数値を額面どおり受け取ることです。11人の部署で1人が極端な回答をすれば、平均は大きく動きます。10人台の集団は数値の大小を追わず、4つの尺度のうちどれが低いかという方向だけを拾ってください。
判定図のタイプ別に見る改善施策の選び方

ここが集団分析でいちばん差が出るところです。判定図のどこが平均から離れているかによって、効く施策は変わります。自社の集団がどのタイプに当てはまるかを見きわめてから、打ち手を選んでください。
タイプの見分け方と打ち手の対応
タイプの見きわめには総合健康リスクの数値だけでは足りません。2枚の判定図のうち、どちらのどの軸が平均から離れているかを見ます。総合健康リスクは掛け算なので、同じ130でも原因の所在はまるで違う場所にあるからです。
型を先に決めてから施策を選ぶと、打ち手の空振りが減ります。 量が原因の職場に相互理解の場を用意しても数値は動きませんし、支援が原因の職場で残業を削っても結果は同じです。
4つのタイプと、それぞれに向く打ち手・向かない打ち手を並べると次のようになります。自社の判定図と照らして当たりをつけたうえで、このあとの各項目を読んでください。
| タイプ | 判定図での見え方 | 最初に打つ手 | 効きにくい手 |
| 過重負荷型 | 量的負担が高く、コントロールも低い | 業務の棚卸しと総量の削減 | 関係性づくりの施策 |
| 裁量不足型 | 量は平均的、コントロールだけが低い | 権限の委譲と承認段階の削減 | 増員・残業削減 |
| 支援不足型 | 職場の支援判定図が左下に寄る | 1on1の設計と相互理解の場づくり | 業務量の調整 |
| 複合型 | 総合健康リスクが150を超える | 産業医への共有と体制の見直し | 現場単独での改善 |
過重負荷型|量的負担が高くコントロールが低い職場

量的負担が全国平均を大きく上回り、あわせてコントロールも低く出ている状態です。仕事が多いうえに進め方も自分で決められないため、判定図の中では健康リスクが最も高くなりやすい組み合わせといえます。
優先度はいちばん高く見てください。この型に関係性の施策から入っても効果は出にくく、まずは総量を減らすところから着手する必要があります。 業務の棚卸し、外注や自動化の検討、繁忙期の応援体制など、量そのものに触れる手が中心になります。
現場の管理職だけでは業務量を減らせないケースがほとんどです。受注量や人員配置の決定権は上位層にあるため、経営層への報告とセットで進めないと、管理職が板挟みになって終わります。
短期では残業の上限運用や納期の見直し、中期では人員の再配置というように、時間軸を分けて打ち手を並べると合意が取りやすくなるでしょう。
裁量不足型|量は平均的でもコントロールが低い職場

業務量は突出していないのに、コントロールの数値だけが落ち込んでいるパターンです。指示待ちが常態化している、承認の階層が多い、細かい手順が固定されている、そんな職場でよく見られます。
打ち手は権限と手順の側にあります。判断を任せる範囲を明確にする、承認段階を減らす、進め方の一部を担当者に委ねる。業務量を減らしても、自分で判断できる範囲が広がらない限り、決める余地が増えなければこの型の数値は動きません。
管理職本人が細かく管理している自覚を持てていないことも珍しくありません。「確認しているだけ」のつもりが、現場からは「勝手に進められない」と受け取られている状態です。1on1などで現場側の受け止めを拾う場を作ると、このずれが見えてきます。
支援不足型|上司・同僚の支援が低い職場

職場の支援判定図が左下に寄っている状態です。量的負担が平均並みでも、困ったときに相談できる相手がいなければ、同じ仕事量でも消耗の度合いは変わります。
上司の支援が低い場合は、管理職のマネジメント行動が対象になります。定期的な1on1の設定、進捗だけでなく状態を聞く問いの持ち方、相談を受けたときの初動、ラインケア(管理職が部下の変化に気づいて対応する取り組み)の研修や、管理職同士で対応を共有する場が効いてきます。
同僚の支援が低い場合に見るべきは、チーム内の分断です。担当が完全に縦割りで互いの仕事を知らない、在宅勤務が中心で雑談の接点がない、そうした構造が背景にあります。相互理解の機会を業務時間の中に組み込まないかぎり、支援の数値は個人の善意頼みのままになります。
令和6年労働安全衛生調査(実態調査)によると、集団分析の結果を活用した事業所のうち、上司・同僚に支援を求めやすい環境の整備に取り組んだところは36.7%でした。管理監督者向けまたは労働者向けの研修は22.6%、従業員参加型の職場環境改善やワークショップの実施は9.4%となっています。
相互理解の場をどう作るかは、拠点や部門が分かれているほど難しくなります。バヅクリが支援したシステムインテグレーターのTIS株式会社の事例では、東京・名古屋・大阪の3拠点にまたがる約300名の部門で、業務時間内にオンラインのワークショップを重ね、社歴や年代を越えて話せる関係をつくりました。部門横断で組む相手を互いに知らない状態を、場の設計で崩した例です(サービス詳細を見る>)。
複合型|総合健康リスクが150を超える職場

量も裁量も支援も同時に悪い、あるいは総合健康リスクが150を超えている集団です。この水準になると、施策をひとつ打って様子を見るという進め方では追いつきません。
まず産業医に共有し、個人結果の側で面接指導の対象者が出ていないかを確認します。環境要因の数値がここまで悪い集団では、すでに不調者が出ている前提で動いたほうが安全です。
並行して、経営層を巻き込んだ体制の見直しに入ります。人員の追加、管理職の交代や補佐の配置、業務そのものの縮小といった判断は現場では下せません。分析結果を報告材料にして、決定権のある場に持ち込む段取りが要ります。
集団分析結果の共有と合意形成

分析結果は、渡し方を間違えると改善のきっかけどころか職場の緊張材料になります。誰に何をどう伝えるかを、数値が出る前に設計しておきましょう。
経営層への報告で使う3つの数字
経営層に判定図をそのまま見せても、話は前に進みにくいものです。図の読み方から説明することになり、肝心の判断まで届きません。
報告で持っていく数字は3つに絞れます。総合健康リスクが高い集団とその数値、前年からの変化、そして高ストレス者の割合です。この3つがあれば、どこに人と予算を回すかという経営判断の材料になります。
報告時の記入例の形にすると、「総合健康リスクが150を超えた部署が◯つ、120台が◯つあります」「悪化の幅が最も大きいのは◯◯部で、前年から+◯です」「高ストレス者率は全社◯%に対し、◯◯部は◯%です」の3行です。
あわせて、放置した場合に何が起きるかも具体的に添えてください。休職者が出たときの代替要員の確保や、欠員を埋める採用にかかるコストは、数値の意味を経営層の言葉に翻訳してくれます。
管理職へのフィードバックで犯人探しを防ぐ設計
自部署の数値が悪かったとき、管理職の最初の反応はたいてい防御です。「誰が答えたんだ」と受け取られた時点で、翌年の回答率も数値の信頼性も落ちていきます。
そのため、渡す前のひと言で流れは変わります。この数値は個人の評価には使わない、管理職の人事評価にも連動させない、目的は職場の条件を変えることにある。この3点を、数値を見せる前に言葉にしておいてください。
言い方まで落とすと、たとえばこうなります。「この数値は個人の評価にも、みなさんの評価にも使いません。見たいのは、どの部署にどんな負荷がかかっているかだけです。数値が高い部署ほど、変えられる条件が残っていると読んでください」。ここまで言ってから配ると、防御から入る反応は起きにくくなります。
渡し方そのものにも工夫の余地があるでしょう。個別に呼び出して手渡すと詰問の場に見えますが、管理職を集めて全体の分布を先に共有し、そのうえで各自の結果を配れば、自分の位置を相対的に受け止めやすくなります。
数値の悪い管理職ほど、責める対象ではなく相談相手として扱うほうが結果につながります。業務量の決定権を持っていない管理職を追い詰めても、動かせる範囲は増えません。
衛生委員会での議題化と現場ヒアリング
集団分析の結果は、衛生委員会で審議したうえで改善計画に落とすのが基本の流れです。産業医、衛生管理者、労働者代表が同じ数値を見て議論する場が、施策の正当性を支えます。
ただし審議で終わらせないことが肝心です。令和6年労働安全衛生調査(実態調査)では、分析結果の活用内容として最も多く挙がったのが衛生委員会または安全衛生委員会での審議で48.5%、一方で職場の物理的環境の見直しは9.4%、相談窓口の設置は5.7%にとどまりました。議題に上げるところまでは進んでも、環境そのものに手が入るところまで到達している事業所は多くありません。
審議と実施の間を埋めるのが現場ヒアリングです。数値が示すのは課題の場所までで、なぜそうなっているのかは現場に聞かないと分かりません。該当部署の管理職と数名の担当者に短時間の聞き取りを行い、数値の背景にある事情を拾ってから施策を決めます。
従業員への開示範囲の決め方
集団分析の結果をどこまで社内に開示するかに、法律上の決まりはありません。事業者の判断に委ねられているぶん、あらかじめ方針を決めて衛生委員会で合意しておく必要があります。
実務でよく採られるのは、全社傾向は全従業員に、部署別の詳細は当該部署の管理職と衛生委員会に、という二段構えです。部署別の数値を全社に公開すると、部署間の優劣として受け取られ、改善より説明責任の話に流れがちです。
開示の目的を先に伝えることも忘れないでください。「結果を共有します」だけでは、評価されているのではという受け止めが残ります。何をどう変えるために共有するのかを添えると、翌年の回答姿勢も変わってきます。
集団分析を職場環境改善につなげた企業事例

ここまでの進め方が実際にどう動いたのかを、公開されている事例で確認します。規模も業種も違う3つの例を、集団分析の結果をどう読み、何を変え、そのあとどうなったかの順に並べます。
製造・卸売業の2事業場|残業データと重ねて総合健康リスクが120から110へ
厚生労働省が2022年3月に公表したストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けてに載っている、従業員50〜299人規模の製造・卸売業の例です。2つの事業場でストレスチェックを実施していました。
この企業は集団分析の結果を単独で見るのをやめ、残業時間などの労務データと重ねて読んでいます。そのうえで上司と部下のあいだのコミュニケーション改善に取り組み、あわせて多能工化を進めて業務の偏りを崩しました。
取り組みの結果、総合健康リスクは120から110まで下がり、上司の支援のスコアも上向いています。 量の偏りと支援の薄さに同時に手を入れた点が、この記事でいう複合型への対処にあたります。
専任の産業保健スタッフを置きにくい50〜299人という規模で数値が動いた例なので、中堅企業には参考にしやすいはずです。
オムロン ソーシアルソリューションズ|世代差の発見から管理監督者主導の改善へ
券売機や自動改札機などの駅務機器システムを手がける、従業員671人(2019年11月時点)の企業です。取り組みは厚生労働省のポータルサイトこころの耳に掲載されています。
集団分析から見えたのは、40歳を境に若い年代ほどストレスの高い人が多いという世代差でした。ワークエンゲージメントにも同じ傾向が出ており、若手の活力低下が課題として浮かびます。
この企業は従業員参加型から管理監督者主導型に切り替え、8つの部門すべてで約1か月のうちにフィードバック説明会を開き切りました。 各部門の管理職会議のなかで1時間から1時間半をとり、良い点を伸ばす視点でのグループワークを行っています。
説明会は11月から12月にかけて実施され、その後は管理職層へのコーチング研修の導入と、1対1で話す機会の増加につながりました。共有の順番を設計したうえで動かした例として読めます。
小規模事業場の3社|2025年公表の事例に見る規模が小さくてもできる改善
厚生労働省が2025年10月にまとめた小規模事業場等におけるストレスチェック制度の取組事例には、100人前後の事業場の例が並んでいます。2028年4月の義務化を控えた小規模事業場にとって、いちばん近い時期の参考資料です。
労働者86人の鉱業・採石業では、項目別・部門別に加えて前年との比較まで行い、職場環境によるストレスが高い原因が夏場の高温にあると突き止めました。対処はスポットクーラーの新規配置という設備の一手です。
労働者82人の製造業は、身体的負担と職場環境が高ストレスの要因だと分析し、屋根と外壁への遮熱塗料の塗装を5か年計画で進めています。水銀灯103基をLEDに替え、冷暖房設備の導入と休憩室の整備まで行いました。
この2社はいずれも、判定図の解釈より先に「どの項目が高いか」を部門別に見て、物理的な環境に手を入れています。 労働者115人の技術サービス業でも、業務の量と質の負荷が高い部門で効率化に着手しており、長時間労働という原因の特定が先に立っていました。
3つの事例に共通する進め方
共通するのは、集団分析の数値を単独で眺めていない点です。残業時間、前年の数値、部門別の項目得点など、別のデータと重ねてはじめて原因の見当をつけています。
もうひとつの共通点は、原因の種類に施策を合わせていることです。 暑さが原因ならクーラー、支援の薄さが原因ならコミュニケーション、量が原因なら多能工化と、打ち手が原因に対応しています。
順番も似ています。数値で場所を絞り、現場や設備を見て原因を確かめ、そのうえで打ち手を決める。この3段だけは、規模や業種が変わっても崩れていません。
自社で事例をなぞるなら、まねるべきは施策そのものより原因の特定の仕方です。同じスポットクーラーを置いても、暑さが原因でない職場では数値は動きません。
集団分析が形骸化する5つのパターン

毎年実施しているのに何も変わらない、という声はよく聞きます。行き詰まり方にはいくつかの型があるので、自社が当てはまっていないか確認してみてください。
レポートを共有して終わってしまう
いちばん多いのがこれです。実施機関から届いた分厚いレポートをそのまま衛生委員会に提出し、報告済みという扱いのまま一年が過ぎていきます。
原因は、分析の担当者と改善の実行者が分かれていることです。人事が分析を受け取り、実際に業務量を動かすのは各部門という構造では、レポートは人事の手元で止まります。
レポートを渡す時点で、誰がいつまでに何を決めるかまで一緒に渡すと、止まりにくくなります。 「営業二課の総合健康リスクが142です。次回の委員会までに部長と改善案を2つ持ち寄ってください」というところまで書いて、はじめて次の動きが生まれます。
分析単位が粗く課題の所在が特定できない
全社で1つ、あるいは本部単位で数個という粒度の集計だと、数値は平均に均されて「特に問題なし」に見えます。中に重い集団が混ざっていても、表には出てきません。
粗くなる理由の多くは、10人未満を避けようとして大きく束ねてしまうことです。人数を確保するための合算が、課題を見えなくする合算になっていないかを点検してください。
対処としては、部署単位で人数が足りない場合に、組織図の線をいったん外して働き方が近いもの同士で束ね直す方法があります。この点は次のセクションで具体的に扱います。
単年度の数値だけで良し悪しを判断する
初年度の結果だけを見て「うちは平均並みだから大丈夫」と結論づけると、その後の変化に気づけません。標準値との比較は現在地を教えてくれますが、進んでいる方向までは教えてくれないためです。
同じ100でも、130から下がってきた100と、80から上がってきた100では意味がまったく違います。 後者は悪化の途中である可能性が高く、放置すれば翌年には120を超えているかもしれません。
少なくとも3年分を並べて見る前提で、集計の形式を最初から揃えておきましょう。年ごとに集団の切り方や実施機関が変わると、並べたときに比較できなくなります。
組織改編で経年比較が途切れる
事業部の再編や部署の統廃合が入ると、前年の集団と当年の集団が対応しなくなります。せっかく2年目のデータが揃っても、比べる相手がいない状態です。
完全に防ぐことはできませんが、被害を小さくする方法はあります。集計時に部署名だけでなく、より細かい組織コードや業務内容の区分を残しておけば、改編後も近い単位で再構成できます。
経年比較を守りたいなら、部署名以外の目印を毎年同じ形で持っておくことです。 人事システムの組織マスターと集計データの紐づけを、ストレスチェックの実施前に確認しておくと安心できます。
改善施策が労務施策だけに偏る
業務量の調整や人員配置は分かりやすい打ち手で、成果も目に見えやすい領域です。そのぶん、施策がこちら側に集中しがちになります。
ただ、判定図の4つの尺度のうち2つは上司の支援と同僚の支援です。支援の軸が低いまま量だけを減らしても、判定図の半分は動かないままになります。 翌年の数値がほとんど変わらないという結果は、この偏りから生まれていることが少なくありません。
自社の施策一覧を並べて、量・裁量・支援の3つにそれぞれ何本ずつ手が入っているかを数えてみてください。支援の欄が空のままなら、そこが次に伸ばせる余地になります。
5つのパターンは、気づくサインの形にすると自己点検に使えます。ひとつでも当てはまれば、翌年の集計を待たずに手を打てるはずです。
| パターン | 自社で当てはまるサイン |
| レポートを共有して終わる | 前年のレポートを開いた人が、人事以外に思い当たらない |
| 分析単位が粗い | 集団の数が全社で5つ以下しかない |
| 単年度だけで判断 | 前年の数値を並べた資料が手元にない |
| 経年比較が途切れる | 部署名を頼りに前年と突き合わせている |
| 労務施策だけに偏る | 施策一覧に支援の軸の打ち手が1本もない |
従業員10人未満の部署・小規模事業場での集団分析

10人という下限は、小さな組織ほど厳しく効いてきます。ここでは合算の考え方と、2028年の義務化に向けた準備を整理します。
10人未満の部署を合算するときのルールと限界
10人を下回る部署は、単独では集団分析にかけられません。全員の同意を得るか、個人が特定されない方法をとれば実施できますが、少人数の職場で同意を集める行為そのものが実質的な圧力になりかねません。
現実的な選択肢は合算です。近い部署同士をまとめて10人以上の集団を作り、その単位で分析します。ここで安易に「残った小部署を全部ひとまとめ」にすると、性質のばらついた集団ができあがってしまいます。
人数だけを満たした合算は、数値が平均に寄って何も読み取れない集団を作るだけです。 課題の異なる部署を混ぜた結果、どちらの課題も見えなくなるという事態が起こります。
課題が見える形で合算するための集団設計
合算するときの基準は、組織図の近さではなく働き方の近さです。同じ本部でも内勤と外勤では負荷のかかり方が違い、混ぜると打ち消し合います。
使いやすい軸は、職種、勤務形態、拠点の規模、顧客対応の有無あたりでしょう。たとえば離れた3つの小規模な営業所を、いずれも少人数で顧客対応が中心という共通点でまとめれば、出てきた数値をそのまま「小規模営業所の傾向」として読めます。
合算した集団に名前をつけられるかどうかが、設計がうまくいったかの目安になります。 「その他の部署」としか呼びようのない集団は、たいてい読み取れる結果になりません。
合算の基準は年ごとに変えないでください。基準が動くと、経年比較のときに前年の数値と対応しなくなります。
2028年の義務化に向けて小規模事業場が準備すること
2028年4月1日から、従業員50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務になります。準備期間はまだあるように見えて、実施体制を整えるだけでも産業保健総合支援センター(各都道府県に設置され、事業場の産業保健活動を無料で支援する公的機関)や外部機関との調整に時間がかかります。
実施義務の対象になる一方で、集団分析は引き続き努力義務です。とはいえ50人未満の事業場は部署そのものが小さいため、義務化後に集団分析まで手を伸ばそうとすれば、ほぼ確実に10人未満の壁に当たります。実施体制を設計する段階で、どの単位で集計するかまで一緒に決めておくのが現実的です。
厚生労働省は2026年2月に小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルを公表しています。複数の小規模拠点を持つ企業なら、拠点ごとに個別対応するより、本社で共通の集計ルールを作って各拠点に降ろすほうが運用は軽く済みます。
まとめ
集団分析でつまずくのは、判定図が読めないからというより、読んだあとの動かし方が決まっていないからです。集団の切り方を決め、判定図でタイプを見きわめ、共有の順番を設計する。この3つが揃えば、レポートは翌年に持ち越す資料で終わらず、その年の改善計画の材料になります。
量・裁量・支援のどれが弱っているかで、効く手はまったく変わります。自社の判定図がどの軸に寄っているかをまず確認して、そこから施策を選んでみてください。支援の軸に手を入れる打ち手を探している場合は、バヅクリのプログラム一覧(サービス詳細を見る>)もあわせてご覧ください。
