新型コロナウイルスの影響で、急激に注目され多くの企業で実施され始めたテレワーク。
業務効率的などメリットも多くある一方で、コミュニケーションの減少が課題になっていることも事実です。
現在起こっているコミュニケーション課題、今後起こるであろうコミュニケーションの課題とは何なのか?
また、その解決策や今後の組織のあり方について、50件の新規事業の立ち上げを行なってきた経営コンサルタントである守屋 実さんにお話を伺いました。

本当は生まれるはずだった「大切ななにか」が失われないように

コロナ渦での組織にはさまざまな課題があると思います。リモートワークのメリットはなんだと思いますか?

avatar
守屋さん
目的がはっきりしていて、そのための手順が明確に示されている組織の場合、リモートで仕事をするというやり方もフィットし、メリットが感じられると思います。

例えば、印刷物作成の効率化を図る企業であるラクスルの場合、エンジニアがシステムを開発する効率が、リモートワークになり1.3倍に上がりました。

リモートワークのデメリットはなんでしょうか?

avatar
守屋さん
偶発的なアイディアが生まれる機会が減っている点です。

社内で偶然会った同僚との何気ない会話から生まれるアイディアなどもあるじゃないですか。
リモート飲み会や、オンラインのお茶会などを通してある程度、コミュニケーション不足のカバーはできるものの、ふとしたきっかけからアイディアが生まれるというような機会は減ってしまいます。

ただ、その偶発的なコミュニケーションが減ることが、悪い影響だけでなく、良い影響を与える組織もあると思います。
悪い影響としてでてきてしまう場合は、はなにかしらの改善や注意が必要です。

リモートワークが普及し偶発的な会話や、ひらめきがなくなることによって出てくるデメリットを教えてください。

avatar
守屋さん
その日の仕事内容を偶発的な会話やアイディアに頼っている組織は少ないと思うので、すぐに組織や仕事内容に影響はでてこないと思います。ただ、1年後、2年後と長期的にみると、そういったアイディアや会話が生まれなかったことにより、事業や組織の成長の度合いが変わってくる場合も考えられます。
事業に目に見える大きな欠落がでることは少ないかもしれませんが、予想外の発展はなくなるかもしれません。

目標が数値化されていたり、目的がしっかりしていたりすると結果を見て明らかに未達であることがわかりますよね。
しかし、偶発的なことから生まれるものは、目的の範囲外にあり可視化できないことが多いものです。
なにかが足りないけれど、足りないものやその必要さに気づけずに時間が過ぎていく場合も考えられます。

偶発的なコミュニケーションから生まれるアイディがなくなったことが、大きな問題として顔を出すことは少ないでしょうが、本当は生まれるはずだった「大切ななにか」が失われてしまうことは十分にあるでしょうね。

オンラインとオフラインのコミュニケーション、いいところを組み合わせて

オンラインでのコミュニケーションについてはどう思われますか?

avatar
守屋さん
オンラインでのコミュニケーションは、オフラインでのコミュニケーションに比べて、圧倒的に遅く、情報量も少ないと思います。

スピードに関しては、タイムラグがあったり、それによって会話が噛み合わなかったりと、海外の中継みたいになることもありますよね。その時点で、その会話のクリエイティブさは少し失われている気がします。

情報量に関しては、オフラインのほうが音、温度…など感覚で感じ取れる情報が圧倒的に多いです。
PCなどの画面からわかる情報は、そのごく一部。
隣にいる人が、なにか話そうとしたけどやめたのを感じとって「さっきなんて言おうとしたの?」というようなことはオンラインでは難しいですよね。
そこに大事なヒントや課題があるかもしれないのに。
特に、5〜6人でのラフなディスカッションは、オンラインでは実際に会って話しているようにはいかない印象を持っています。

オンラインでのコミュニケーションはデメリットばかりなのでしょうか?

avatar
守屋さん
オンライン上のコミュニケーションが主になることでのメリットもあると思います。
まずあげられるメリットは、手段・手順が決まっているシステム開発などのすり合わせに関しては、大変効率的に行える点です。

2つ目は、コミュニケーションコストが減ること。
目上の人との打ち合わせになればなるほど、丁寧な挨拶が必要になるなど、本題に入るまでのさまざまな手順がかかりますよね。
それらが今まで生産性を落としていたと考えることもできます。

3つ目は、細かく時間を区切って無駄なく打ち合わせができる点。
15分の打ち合わせも成立するようになってきています。
移動時間も考えなくていいですからね。

オンラインとオフラインのコミュニケーションでどちらがいい、悪いということではなく、両方のいい部分を上手に組み合わせられるようになればいいと思います。

いい出会いやひらめきを求めるなら、自分自身を開示することが大切

偶発的なコミュニケーションが減ったコロナ渦での働き方ですが、守屋さん自身が改善されたことはありますか?

avatar
守屋さん
偶発性のあるコミュニケーション量を増やすことを意図的に行なっています。
コロナ渦でそういったコミュニケーションが減ることにより、このままいけば「大切ななにか」が失われるかもしれないと危機感を持ったのがきっかけでした。

例えば、緊急事態宣言がでてオフラインで人と会うことが難しかった時期は、ウェビナーに登壇するなど、出会いの場所に積極的にでるようにしていました。
緊急事態宣言が解除され前よりは人と会いやすくなった現在は、5〜6人で半日程度のプチ合宿などもしています。

その際、いい出会いやアイディアが得られるように気をつけるべき点はなんでしょうか?また、組織としてできることも教えてください。

avatar
守屋さん
偶発的ないい出会いやひらめきを得ることを目的とするのなら、お互いにお互いがどういった人物か認識をして出会うことが大事だと思います。
お互いのことを全く知らない状態での出会いで、それらを求めるのは非効率です。
出会ったとしても、その出会いからなにが次に繋がるか、なにを得られるかわからないので、いい気づきになかなかたどり着けないものです。

また、自分の解像度を上げて自分自身を開示していくことが大切です。あなた自身が「なにを求めているのか」「なにができるのか」を提示することで、周りの人もあなたに反応がしやすくなります。
そうすることで、今後に繋がっていく出会いやひらめきを得られる確率が上がるでしょう。

自分の解像度をあげることの重要性は、リアルで人と会う時でも変わらないことだと思います。
ただ、オンラインでのコミュニケーションだと相手の理解度が薄くなりがちなので、それの必要性がさらに加速している気がします。

組織としても、だれがどのようなことを求めているのか、どのチームがなにを目標にしているのかなど、見える化することが大事です。

コミュニケーションの取り方も変わらなくてはいけないタイミングがきている

これからのコミュニケーションの取り方はどうなっていくと思いますか?

avatar
守屋さん
今までのコミュニケーションの方法を「ローカルコミュニケーション」、これからのコミュニケーションを「リモートコミュニケーション」と言うとしましょう。

ローカルコミュニケーションでは丁寧なやり取りや、行間を察すること、空間を共有すること、団体的な考え方や、非言語が大事でした。
しかし、これからのリモートコミュニケーションでは全て逆と言ってもいいかもしれません。
リモートコミュニケーションでは、結論や根拠を具体的に話し、端的かつクリアに伝えることが求められます。
これからのリモートコミュニケーションの時代では、今まででも嫌われていた、話が長くまとまらない上司はさらに嫌われる時代になるでしょうね(笑)

このように、下手をすれば冷たいと感じられるかもしれない、端的さが求められるコミュニケーションの取り方になると、どれだけ相手と信頼を築けるのかもポイントになってくると思います。
新型コロナウイルスの影響などから働き方が変わり、コミュニケーションの取り方も変わらなくてはいけないタイミングがきていますね。

新しい働き方、コミュニケーション方法が普及していくうえで、バヅクリが貢献できることはなんでしょうか?

avatar
守屋さん
今までのコミュニケーションの取り方や、働き方からいきなり変われと言われても、多くの人はそんなに簡単に変われないものです。しかし、先ほども言ったように、端的さが求められるリモートでのコミュニケーション形態だと、信頼関係を作ることはとても大切。
そこで、「遊び」というラフな場を通し自分の内面・パーソナルな部分を伝えられる機会を作ることは重要になってくるのではないでしょうか。

「遊び」という体験を通し、お互いの普段見えないところを知り、その人のパーソナルな部分に触れらることで、信頼関係は深まり仕事上の機会損失を最小化できる可能性があります。

また、オンラインでの体験のあるべき姿はまだないので、誰かが早くスタンダードを作って広めるべきでしょうね。
就業時間中に行われていた何気ないコミュニケーションの効用が消えてなくなった今、その「損失」を埋めるために、就業時間を使って、何気ないオンラインコミュニケーションを取り入れる必要があると思います。

守屋 実
明治学院大学卒。
1992年、ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社。
新市場開発室で、新規事業の開発に従事。2002年新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを創業、複数の事業の立上げおよび売却を実施。
2010年守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。
自ら、投資を実行、役員に就任、事業責任を負うスタイルを基本とする。
2018年より内閣府 価値デザイン社会実現に資する実質的なオープンイノベーションの実施に関するタスクフォース知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員。