人的資本開示という言葉をご存知でしょうか?
2020年9月に経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表して以降、人的資本の情報開示に注目が集まりました。そして2023年3月期決算より、対象企業において、人的資本の情報開示が義務化されました。
本記事では、そんな人的資本開示に関して実施した、バヅクリHR研究所の独自調査結果についてご紹介します。
目次
人的資本開示とは
人的資本の情報開示とは、自社の人材が持つ能力(人的資本)にまつわる情報をさまざまなデータや指標を用いて示すことです。
人的資本とは、人材を企業の「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す考え方のことです。
人的資本開示における開示項目
日本国内では2022年8月に政府が「人的資本可視化指針」の中で、人的資本の開示項目を示しています。
具体的には下表の「人材育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス」の7分野、19項目です。
出典:内閣官房 非財務情報可視化研究会 『人的資本可視化指針』
世界的には、スイスのジュネーブに本部を置く非営利法人「国際標準化機構(ISO)」が人的資本の情報開示に関する国際的なガイドライン「ISO30414」を発表し、開示に向けた指針をまとめています。
ISO30414では「コンプライアンスと倫理」「コスト」「ダイバーシティ」「リーダーシップ」「組織文化」「健康、安全」「生産性」「採用、異動、離職」「スキルと能力」「後継者計画」「労働力」の11領域で合計58の指標が定義されています。
人的資本開示のメリット
企業が人的資本の情報開示を行うことで得られるメリットには、次の3点が挙げられます。
人材戦略や経営方針の指標となる
人的資本の情報開示に向けたプロセスの中で、自社の人的資本状況について客観的に把握することができます。
結果、自社の強みや弱みを可視化することとなり、他社と比較をすることで、企業の優位性や経営戦略を策定する際に役立てることができます。
既存社員のロイヤルティや、人材採用に良い影響を与える
人的資本の開示によって、企業の人材や組織に関する方針やポリシーを内外に示すことができます。
例えば、「多様性の実現性に力を入れている」「従業員満足度を重視している」などの姿勢や取り組み情報を発信することで、既存社員に対してポジティブな影響を与えることができますし、人材の採用活動にも同様の影響をもたらすことができるでしょう。
株主や投資家とのコミュニケーション材料となる
また、人的資本の情報開示は、株主や投資家など外部のステイクホルダーに対してもアピールの材料となります。
さらには、開示した数値を元に、ステークホルダーの率直な意見や評価、フィードバックを自社の目標や経営方針に取り入れることで、組織課題の改善や強化につながることもあるでしょう。
会社員が重視する人的資本開示項目
上述したように、既存社員のロイヤルティにも良い影響を与えるというメリットがありますが、実際に世の中の会社員は人的資本開示についてどの項目をより重視しているのでしょうか?
バヅクリHR研究所が、人的資本開示項目についての会社員の意識について調査した結果をご紹介します。
調査概要
バヅクリは、国内の会社員331名に対し、自身が所属する組織の人的資本開示項目(人的資本の情報開示に関する国際的なガイドライン「ISO30414」における11項目)についてそれぞれどの程度重視しているかを問いました。
また、それぞれに対して現状の転職意向を問い、人的資本開示項目と転職意向の関係性について明らかにしようと試みました。
調査結果
その結果、転職を検討している人とそうでない人との重視項目の順位にそこまで大きな差は見られませんでしたが、転職を検討している人のほうが、各項目に対して「重視する」と答えた人の割合が高くなりました。
また、転職検討中かどうかに関わらず、双方共に自社の「コンプライアンスと倫理」「組織文化」「健康、安全」について特に重要視していることがわかりました。
ここでいうコンプライアンスと倫理は、「懲戒処分の件数及び種類」や「外部監査からの指摘事項数」など、企業のコンプライアンスと倫理に関する指標を指しています。
また組織文化は、「エンゲージメント」、「従業員満足度」や「従業員定着率」など、企業の組織文化社員の意識と定着率の測定指標を指しており、健康、安全は、「労災の件数」や「労災による死亡者数」など、企業の健康・安全・ウェルビーイングに関する指標を指しています。
人的資源開示に重要なエンゲージメントを低下させないためには
従業員の満足度や組織の課題を把握するためにエンゲージメントサーベイを実施する企業が増えてきましたが、サーベイツールを導入するだけでは社員のエンゲージメントが低下することがアンケートによって明らかになりました。
サーベイの導入が社員の不満につながる理由はどういったものなのでしょうか。
調査結果は下記からダウンロードできますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
投資家が重視する人的資本開示項目
別の調査なので一概には比較できませんが、参考までに投資家に対して類似の調査を行った結果をご紹介します。
リンクアンドモチベーション社が実施した、投資家に対する調査では、「開示が必要だと考える人的資本の項目」はどれかについての質問結果は以下のようになっており、年代によって多少のばらつきはあるものの、「組織文化」「ダイバーシティ」などの項目を重視していることが見て取れます。
バヅクリHR研究所が実施した結果と順位を照らし合わせてみると、会社員も投資家も「組織文化」については重視しているということがわかります。
また、投資家は企業の多様性を重視している一方で会社員はそこまで重視はしていないという差がでました。
逆に、会社員は「健康、安全」を非常に重視する一方で、投資家はあまり重視していないという差も現れています。
この結果より、企業の経営者や人事担当者は、「組織文化」、すなわち、「従業員満足度」や「従業員定着率」といった企業の組織文化の醸成・向上に力を入れることが、内部と外部のステイクホルダー双方にとって有効であると言えるでしょう。
また、投資家は重視していないからといって、組織の「健康、安全」に関する取り組みを軽視してしまうと、自社の従業員満足度が下がり、離職率が高くなり、結果的に組織文化項目も悪化してしまうため注意が必要です。
組織文化やウェルビーイングを高めるならバヅクリ!
研修サービス「バヅクリ」では、ウェルビーイングや心理的安全性など、人的資本開示項目における「組織文化」や「健康、安全」を向上させることができるプログラムが多数用意されています。
研修と社内イベントの中間のような「やらされている感のない研修」、「意義のある社内イベント」という位置づけで、新時代の社内コミュニケーションDXを目指していることが特徴です。
今後、人的資本開示への注目度と重要度がより一層高まるにつれ、開示して終わりではなく、その数値を改善していく必要性が生じるため、こうした研修サービスを取り入れることもオススメです。
まとめ
人的資本開示の義務化はまだまだはじまったばかりですが、今後より重要性が増してくることが予想されます。
また、今後少子高齢化による人材不足、労働力確保の困難に備え、いまから組織の底力を向上させる取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。