アンコンシャスバイアスとは、誰もが無意識のうちに持っている「無意識の偏見」のこと。
職場のアンコンシャスバイアスを放置すると、採用・評価・育成・日常のコミュニケーションなど、あらゆる場面に影響します。
本記事では、職場で実際に起こりやすい15の具体的な事例をもとに、自分自身のバイアスに気づく方法と、組織として取り組む対策のポイントを解説します。
アンコンシャスバイアスとは
アンコンシャスバイアス(Unconscious Bias)とは、日本語で「無意識の偏見」のこと。
自分では気づかないまま、特定の人物・グループ・状況に対して偏った見方や判断をしてしまう心理的傾向を指します。
アンコンシャスバイアスは人間の脳の情報処理上、自然に生じてしまうと言われています。
毎日膨大な量の情報を受け取る中で、脳は効率的に情報処理をするために、過去の経験・記憶・文化的な価値観をもとに素早く判断を下します。
この無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)をもとにした判断が、職場においては採用・評価・育成・登用などの場面で公平性を欠くことにつながるリスクがあります。
アンコンシャスバイアスは、悪意ある差別から生まれるものではなく、誰もが持ち得るものであると理解することが重要です。
アンコンシャスバイアスが注目される背景
近年、アンコンシャスバイアスへの関心が高まっている背景には、職場におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進があります。
2022年の女性活躍推進法改正により、101人以上の企業に対して、女性の活躍に関する情報公表や行動計画の策定が義務づけられました。
またESG投資や人的資本経営の観点から、企業の「人材の多様性」への注目が高まっており、D&Iの取り組みが企業価値向上につながると認識されるようになりつつあります。
多様な人材が活躍できる組織づくりが求められる中で、採用・評価におけるバイアスを取り除く重要性が増しています。
また、近年は企業内のパワハラや、採用・評価の不透明さがSNSで炎上するなど、従業員の社内外に対する振る舞いが企業経営リスクに直結するようになりました。
その中で、ステレオタイプや偏見に基づいた言動・判断を減らし、従業員一人ひとりが公正に扱われる環境を整備することが求められています。
アンコンシャスバイアスの代表的な種類
アンコンシャスバイアスにはさまざまな種類がありますが、ここでは職場において特に影響を及ぼしやすい6つを解説します。
確証バイアス
自分がすでに持っている考えや仮説を裏づける情報ばかりを集め、それに反する情報を見落としたり軽視したりしてしまう傾向です。
例として「この人は仕事が雑だ」と一度思い込んだ上司が、その部下のミスばかりに目がいき、別の業務における丁寧な仕事ぶりは見えなくなってしまうことなどがあります。
「やっぱりこの人はそうだ」という思考パターンが続く場合は、確証バイアスが働いているかもしれません。
ハロー効果
ある一つの特徴(学歴・外見・話し方・資格など)が優れていると、他の特徴もすべて優れているように感じてしまう傾向です。
例えば「第一印象が良かったから、何をやってもうまくいくだろう」といった判断は、典型的なハロー効果です。
ステレオタイプ
性別・年齢・国籍・出身地・職種などの属性に基づいて「○○な人は△△だ」と決めつけてしまう傾向です。
「女性は感情的」「外国人は日本の商習慣を理解できない」といった思い込みが、採用・評価・育成のあらゆる場面で影響します。
親和性バイアス
自分と似た経歴・価値観・趣味・出身地を持つ人に対して、無意識に好意的な評価をしてしまう傾向です。
面接官が自分と同じ大学出身の候補者に共感を覚えたり、同じスポーツが趣味の部下を「気が合う」という理由で高く評価してしまったりするのは、親和性バイアスの典型例です。
正常性バイアス
問題が起きているにもかかわらず「大したことはない」「自分だけは大丈夫」と過小評価してしまう傾向です。
職場では「ちょっと厳しい指導かもしれないけど、昔からこういうものだ」「多少残業が多くても、みんなやっているから問題ない」といった形で現れます。
アンカリング効果
最初に得た情報が基準点(アンカー)となり、その後の判断が影響を受けてしまう傾向です。
例として、「入社時の評価が高かった社員だから、今期も良い結果を出すだろう」と思い込んで実態より高く評価してしまう、「あいさつが元気でない」という最初の印象を最後まで引きずって採用を見送ってしまうなどがあります。
【事例集】職場で起こりやすいアンコンシャスバイアス15選
ここでは、職場で起こりやすいアンコンシャスバイアスの事例を15つ紹介します。
採用・評価の場面や普段のコミュニケーションの中で、自分の職場でも似たようなことが起こっていないか確認しましょう。
採用場面での事例
事例1:学歴フィルター
書類選考の段階で「有名大学出身者は優秀だろう」という思い込みから、特定の大学出身者を優先的に通過させてしまうケースです。
実際の業務能力や適性とは無関係な「学歴」に引きずられ、本来採用すべき人材を見落とすリスクがあります。
こうした学歴フィルターを元にした判断を避けるには、学歴ではなく「業務に必要なスキル・経験・思考力」という観点で採用基準を設けることが重要です。
事例2:体育会系バイアス
「体育会出身者は根性があって、指示に忠実だ」「上下関係の礼儀をわきまえている」というステレオタイプから、面接でスポーツ経験者を高く評価してしまうケースです。
体育会経験が活きる場面もありますが、それが業務適性に直接つながるわけではありません。
採用職種に求められる能力を基準に、客観的に評価しましょう。
事例3:第一印象への過度な依存
面接の最初の数分間の印象に引きずられ、それ以降の回答や態度を客観的に評価できなくなるケースです。
「最初のあいさつが元気だったから良い人材に違いない」「冒頭の回答が微妙だったから、どうせ以降もダメだろう」といった思考パターンに陥ると、最終的な判断にバイアスがかかってしまいます。
評価場面での事例
事例4:直近の成果への偏重
評価面談の直前に起きた出来事(成功・失敗)に判断が引きずられてしまうケースです。
評価期間全体のパフォーマンスではなく、「先月の大きなミスのせいで、今期の評価は低くなった」「評価期間の終わりにたまたまうまくいったから高評価になった」といった判断が行われている場合は注意が必要です。
このバイアスを防ぐには、評価期間全体を通じて定期的に記録をつける習慣をつけましょう。
事例5:「あの人は優秀」という固定観念
以前に優秀と評価された社員に対して、「きっと今期も頑張っているはず」「何か理由があるはずだ」と、現在の実績が振るわなくても甘い評価をしてしまうケースです。
反対に、一度「問題社員」と見なされた人への評価が、実態以上に低くなってしまう場合も同じメカニズムが働いています。
評価はこれまでのものと切り分け、「今期の具体的な成果・行動」に基づいて行いましょう。
事例6:自分と似た人への高評価
親和性バイアスが働き、評価者が自分と同じ出身地・趣味・出身大学・価値観を持つ部下を、無意識に高く評価してしまうケースです。
「なんとなく話しやすい」「自分に似ている」という感覚をもとに判断すると、客観的には同じくらいの成果をあげている他の社員との間に評価の不公平が生じることがあります。
育成・登用場面での事例
事例7:性別による役割期待
「女性は管理職のプレッシャーに弱いだろう」「男性は残業を断らないだろう」というステレオタイプから、本人の意向を確認せずに機会提供に差をつけてしまうケースです。
「出産・育児の可能性がある女性だから」という理由で重要プロジェクトから外したり、昇進の打診を遠慮したりする行為は、女性活躍推進の観点からも大きな問題となっています。
こうしたバイアスを避けるためにも、まず「本人の希望・意向を聞く」という姿勢が重要です。
事例8:年齢・世代による思い込み
「若手にはまだ任せられない」「ベテランはITに弱いから新しいシステムは難しいだろう」という思い込みで、適切な成長機会が与えられないケースもあります。
特にZ世代(1990年代後半〜2010年代生まれ)の社員に対しては「打たれ弱い」「すぐ辞める」「指示待ちで主体性がない」「プライベート優先で仕事への熱意が低い」といったステレオタイプが根強くあります。
実際には個人差が大きいにもかかわらず、世代で決めつけることは、従業員の適切な育成機会を逃すことになりかねません。
事例9:育児中社員への過度な配慮
「子どもが小さいから、出張や残業は難しいだろう」と本人に確認せず、責任ある仕事や機会から外してしまうケースです。
本人は仕事に積極的な意欲を持っていても、「周囲への配慮」という名目で機会が奪われてしまいます。
善意から来る行動であっても、本人の意志を無視した過度な配慮もバイアスになり得ます。
必ず本人に意向を確認し、働く条件を一緒に考える姿勢を心がけましょう。
会議・コミュニケーション場面での事例
事例10:発言機会の偏り
会議の場で、無意識のうちに声が大きい人・役職が上の人・外向的な性格の人の発言を優先してしまい、そうでない人の意見が取り上げられにくくなるケースです。
「会議でいつも発言しているのは同じ顔ぶれ」という状況は、多様な意見が集まりにくい環境を生み出します。
事例11:アイデアの評価が人によって変わる
まったく同じ提案内容であっても、それが若手から出た場合と管理職から出た場合とで、受け止められ方が変わってしまうケースです。
「若手がそんなこと言っても」「ベテランの意見だから正しいだろう」という思い込みが、アイデアの公正な評価を妨げます。
事例12:非言語情報への偏見
「声が小さいから自信がないに違いない」「目を合わせないから信用できない」「早口だから落ち着きがない」など、非言語情報だけで相手の能力や人柄を判断してしまうケースです。
発言の内容よりも見た目や話し方で評価してしまうことで、本来の実力が伝わりにくくなります。
日常業務での事例
事例13:雑務の偏り
お茶出し・議事録作成・備品管理・来客対応など、いわゆる「雑務」を無意識に女性や若手社員に割り振ってしまうケースです。
「女性がやってくれると丁寧」「若手は何でもやるべき」という思い込みが、特定の人の業務負荷を高め、本来注力すべき仕事の妨げになります。
事例14:外国籍社員への過度な期待・過小評価
「外国人だから英語を使った業務を任せよう」という過度な期待や、「外国人だから日本の商習慣は理解できないだろう」という過小評価など、国籍という属性だけで業務適性を判断してしまうケースです。
語学力や文化的背景は個人によって大きく異なります。
実際のスキル・経験・希望に基づいて業務をアサインすることが重要です。
事例15:リモートワーク社員への評価バイアス
毎日出社している社員の方が「熱心に働いている」「頑張っている」と感じ、リモートワーク中心の社員を実態よりも低く評価してしまうケースです。
「オフィスにいる=仕事をしている」というバイアスは、働き方の多様化が進む現代において特に注意が必要です。
アンコンシャスバイアスがもたらす組織への影響
アンコンシャスバイアスを放置することで、組織にはさまざまな悪影響があります。
ここではその影響として代表的なものを解説します。
採用の質の低下
バイアスが働いた採用では、本来採用すべき優秀な人材を見落としたり、評価者と似た属性の人材ばかりが採用されたりします。
その結果、組織の同質化が進み、多様な視点や発想が生まれにくくなります。
評価の公正性への不信
アンコンシャスバイアスをもとに評価される職場は、「あの人はひいきされている」「どれだけ成果を出しても正当に評価されない」という不満が蓄積します。
その結果、従業員のエンゲージメントが下がり、優秀な人材が離職するリスクも高まります。
ダイバーシティ推進の阻害
女性・外国籍人材・シニア・障害のある人など、多様な人材の活躍機会が制限されがちになり、D&I推進の取り組みが形骸化します。
「ダイバーシティを掲げているのに、現場は何も変わらない」という状況が起こっている背景には、組織にアンコンシャスバイアスが潜んでいることが少なくありません。
ハラスメントリスク
ステレオタイプや思い込みに基づく発言・対応は、意図せずともハラスメントになり得るリスクがあります。
「男のくせに根性がない」「女性には難しいかな」といった何気ない一言が、受け取る側に精神的苦痛を与えるケースもあるため注意が必要です。
イノベーションの停滞
同質的な考え方や価値観に偏ると、新しいアイデアや変革の提案が受け入れられにくくなります。
「それは今まで通りでいい」「前例がない」という風潮が強まると、イノベーションの機会が失われ、市場での競争力が失われてしまうケースもあります。
自分のアンコンシャスバイアスに気づく方法
アンコンシャスバイアスの最大の難点は、「無意識」であること。自分で気づくことが非常に難しいからこそ、意識的なアプローチが必要です。
IAT(潜在連合テスト)を受けてみる
IAT(Implicit Association Test)は、ハーバード大学が開発した、自分の潜在的なバイアスを測定できるオンラインテストです。
人種・性別・年齢など、さまざまなテーマのテストがあり、Web上から無料で受けることができます。
自分では「偏見はない」と思っていた人も、実際に受けてみると思わぬバイアスを持っていることも。
自分が持つバイアスを意識するきっかけとして有効です。
自分の判断を振り返る習慣をつける
採用・評価・業務の指示など、判断を下した際に「なぜそう思ったのか」「その判断の根拠は何か」を言語化する習慣をつけましょう。
「多分この人が良いと思った」「なんとなくこの仕事は向いていない気がする」という直感的な判断の裏には、バイアスが潜んでいる可能性があります。
判断の理由を言語化できないときは、立ち止まって考え直すことが大切です。
多様な人との対話を増やす
自分と異なる年齢・性別・国籍・価値観・バックグラウンドを持つ人と積極的に対話してみましょう。
対話を増やすことで、自分の中のバイアスに気づくきっかけが生まれます。
さらに、多様な人との対話を積み重ねることで、自分の中のステレオタイプが崩れ、偏見が和らいでいきます。
フィードバックを求める
自分の言動についてフィードバックをもらえる環境をつくることも有効です。
「私の発言や行動で、偏りを感じることはあるか」と、信頼できる同僚や部下に率直に聞いてみましょう。
組織としてのアンコンシャスバイアス対策
ここでは組織的に取り組めるアンコンシャスバイアス対策を紹介します。
個人で気づく努力を促すだけでなく、組織として対策を行い、バイアスの影響を構造的に減らしましょう。
アンコンシャスバイアス研修の実施
全社員を対象とした研修を実施しましょう。
特に採用担当者・評価者・管理職など、人材の採用・評価・管理に関わる職種において、アンコンシャスバイアスの知識は必須です。
研修を実施する際は「アンコンシャスバイアスは誰もが持っている」という前提で進め、責めるのではなく「気づきを促す」雰囲気をつくることが重要です。
グループディスカッションやワークショップを通じた対話では、自社で起こりやすい具体的な事例を使うことで、より自分ごと化をしやすくなります。
採用プロセスの見直し
採用は、バイアスが最も入り込みやすい場面の一つです。
全候補者に同じ質問をし、同じ評価基準で評価する構造化面接を導入することで、バイアスを避けることができます。
また複数名で評価することを徹底したり、書類選考時に名前・顔写真・学歴などを伏せる「ブラインド採用」を検討したりするのも有効です。
評価制度の見直し
評価プロセスにも、バイアスを減らす仕組みを組み込むことが重要です。
評価基準を見直し、行動・成果で評価する設計にすることで、評価者のバイアスが入り込むのを防ぐことができます。
さらに、評価に関わる人は評価者研修を定期的に実施し、自身のバイアスへの気づきを促すようにします。
また複数の評価者が同席して評価のすり合わせをする「評価調整会議(キャリブレーション)」や、上司だけでなく、同僚や部下からも評価を受ける「360度フィードバック」も、バイアスの是正におすすめです。
日常的な意識づけ
研修以外でも、日常業務の中でバイアスへの意識を高め続けることが大切です。
たとえば会議の場ではファシリテーションを工夫し、全員が発言できる機会を意識的につくったり、業務アサインの偏りがないかを定期的にチェックしたりしましょう。
「それってバイアスかも?」と互いに指摘し合える心理的安全性の高い職場風土を醸成することが、職場でのバイアスを取り払う第一歩になります。
アンコンシャスバイアス研修を効果的に行うポイント
ここでは効果的なアンコンシャスバイアス研修を実施するために必要なポイントを解説します。
「悪者探し」にしない
アンコンシャスバイアスは誰もが持っているものであり、それを「持っていること」自体を責めることはできません。
さらに、研修では「自分自身のバイアスに気づいて、行動を変えていく」ことにフォーカスした、前向きな学びの場にすることが重要です。
「あの発言はバイアスだった」「あの人は差別的だ」と、他者の発言を糾弾する雰囲気を作らないようにしましょう。
自社の具体的な事例を活用する
一般的な定義や身近ではない事例を学ぶだけでは、参加者に「自分ごと」として伝わりにくいです。
自社で起こったり、または起こる可能性がある具体的な事例を取り上げることで、「これはうちの職場でも起きているかもしれない」という気づきを促すことができます。
自社での匿名相談の事例を取り上げたり、社内アンケートの結果を活用したりするのもおすすめです。
対話・ワークショップ形式で実施
一方向の座学形式の研修は、実践につながらず、知識を得るだけで終わってしまいがちです。
グループディスカッションやケーススタディを通じて、参加者同士が対話する場を設けることで、異なる視点に触れ、自分の思い込みに気づくきっかけが生まれます。
受講者に「あの事例はバイアスだと思うか」を問いかけ、参加者が自分の頭で考える時間を意識的につくりましょう。
継続的な取り組みにする
アンコンシャスバイアスは、一度の研修で解消されるものではありません。
定期的なリマインドや振り返りの機会を設け、継続的に意識を高める仕組みをつくりましょう。
研修後に個人のアクションプランを設定し、数か月後にフォローアップを行うのも重要です。
経営層からのコミットメント
「会社として本気で取り組んでいる経営課題」であることを示すことで、受講者もバイアスを取り除く重要性を認識するようになります。
まずは経営層自らが研修に参加し、自分のバイアスと向き合う姿勢を示すことが大切です。
バヅクリのアンコンシャスバイアス研修

バヅクリの「アンコンシャスバイアス研修~無意識の思い込みに気づき、多様性を力に変える~」は、自分の無自覚な思い込みに気づく自己観察ワークを多く盛り込んでいるのが特徴です。
さらにバイアスに対してチームで「どう伝えればいい?」「どんな仕組みが必要?」と対話し、バイアスに対処する行動の選択肢を増やします。
対面・オンライン両方に対応しており、自社の状況に合わせた形で導入できます。
まとめ
アンコンシャスバイアスは、特定の人だけが持つ「偏った人間の欠点」ではなく、人間の脳が効率的に情報処理するために誰もが持っているものです。
だからこそ「自分には関係ない」と思い込まずに、「気づき」を持つことが重要です。
本記事を参考に、組織でアンコンシャスバイアスを減らす工夫に取り組んでみてください。
