新入社員の研修として一般的になっているOJTですが、トレーナー側の従業員がOJTに慣れておらず、うまく新入社員に業務を教えられない、効率が悪いという課題を抱えている企業も多く見られます。
本記事では、そういった課題を自社で抱える経営者や人事担当者の方向けに、OJTで教える側となるトレーナーの研修についてご紹介します。研修で具体的に何を学べるのか、どのような形態で実施するのか、効果を高める進め方までを順を追って整理します。
OJTトレーナー研修とは

OJTトレーナー研修は、新入社員を指導する先輩社員や上司が、効果的な教え方や育成の進め方を体系的に身につけるための研修です。はじめに、OJTそのものの意味と、トレーナーが担う役割を整理しておきましょう。
OJTとは
OJTとは、「On the Job Training」(職場内教育)の略語で、職場内で実際の業務の中で新入社員や部下に必要なスキルの教育を行う訓練のことを指します。
座学やマニュアルだけでは伝わりにくい業務を新入社員に身につけさせること、顧客に実際に関わり実務をこなすことで現場への知識を深めること、そして社内でのコミュニケーションの取り方や人間関係の構築を行うこと。こうした実地でしか得られない学びを補える点が、現場で訓練する理由です。
厚生労働省の令和6年度 能力開発基本調査によると、計画的なOJTを実施した事業所は正社員で61.1%にのぼり、現在も人材育成の中心的な手法として定着しています。
OJTトレーナーの役割
OJTトレーナーとは、新入社員などの実務経験のない育成対象者に業務内容や必要なスキルを指導する人のことを指します。業務についての指導をメインに行うケースが多いため、基本的には育成対象者の配属先候補の部署やチームの先輩、上司がトレーナーの役割を担うことが多くなります。
トレーナーの仕事は、業務を教えることだけにとどまりません。育成計画を立て、日々の進捗を確認し、つまずいた場面では原因を一緒に振り返る。新入社員が職場に慣れるまでの相談役も兼ねるため、指導とフォローの両面を担う存在といえます。
OJTトレーナー研修の目的

なぜトレーナー本人に任せきりにせず、わざわざ研修という形で育成の仕方を学ぶ必要があるのでしょうか。研修が果たす主な狙いを、3つの観点から整理します。
指導スキルの標準化
トレーナーごとに教え方がばらつくと、配属先によって新入社員の育ち方に差が出てしまいます。丁寧に教わった人もいれば、見て覚えろと放任された人もいる、という状況では、定着率にも影響しかねません。
研修で指導の型をそろえておけば、誰がトレーナーになっても一定の質で教えられます。属人的だった育成を、組織として再現できる状態に近づけられるのです。
トレーナーの不安解消
「教えるのは初めてで、何から手をつければいいか分からない」。トレーナーに任命された社員の多くが、こうした戸惑いを抱えています。自分の業務はこなせても、人に教えるとなると勝手が違うためです。
研修で指導の手順やよくあるつまずきを事前に知っておくと、見通しを持って新入社員に向き合えます。不安が和らぐぶん、指導そのものに集中できるようになるでしょう。
早期戦力化の促進
新入社員が一日でも早く現場で活躍できるようになることは、人手不足が続く職場ほど切実なテーマです。指導の質が上がれば、業務を覚えるまでの時間が短くなり、トレーナー自身の負担も結果的に軽くなります。
研修は遠回りのようでいて、新入社員とトレーナーの双方にとって近道になる投資といえるでしょう。
OJTトレーナーに求められるスキル

トレーナーに任命されるのは、たいてい現場で成果を出している社員です。ただし、実務ができることと教えられることは別の能力です。研修で重点的に磨く4つのスキルを取り上げます。
ティーチング(教える技術)
自分が当たり前にこなしている作業ほど、手順を言葉にするのは難しいものです。「これくらい分かるだろう」という前提を一度外すところから、ティーチングは始まります。
研修では、何を・どの順番で・どこまで教えるかを分解する技術を、業務をステップに区切って伝える練習で身につけます。新入社員がつまずきやすい箇所を、先回りして説明できるようになります。
コーチング(引き出す技術)
答えを全て教えてしまうと、新入社員は指示待ちのまま育ちにくくなります。コーチングは、問いかけによって本人に考えさせ、自分で答えにたどり着く力を養う関わり方です。
「どう思う?」「次はどうする?」といった問いの立て方や、相手の話を最後まで聴く姿勢を学びます。指導とコーチングを場面に応じて使い分けられると、新入社員の自立が早まります。
目標設定力
行き当たりばったりで教えていると、半年後にどんな状態を目指すのかが曖昧になりがちです。育成のゴールから逆算して到達イメージを描く力が、指導のぶれを防ぎます。
3か月後・半年後にできていてほしいことを言語化し、そこから逆算して日々の指導項目を決める。この思考の習慣が、計画的なOJTの土台になります。
コミュニケーションと信頼関係づくり
どれほど正しい指導でも、相手が心を開いていなければ届きません。日頃の声かけや、質問しやすい雰囲気づくりが、指導の土台になります。
価値観の多様な若手とは、こちらの常識を押しつけず、相手の考え方を一度受けとめる姿勢が信頼につながります。傾聴やフィードバックの伝え方は、ロールプレイで体に覚えさせるのが効果的です。
OJTトレーナー研修で学べる内容

先ほどのスキルを、実際の研修ではどのように学ぶのでしょうか。提供会社によって幅はあるものの、共通して扱われる中身を具体的に見ていきます。
トレーナーの役割認識とマインドセット
研修の入り口では、なぜ自分が新入社員を育てるのか、その意義を腹落ちさせるところから始めます。役割を引き受ける覚悟が定まらないまま手順だけ学んでも、現場では続きません。
組織にとって新人育成がどんな意味を持つのかを共有することで、「自分が育てる」という当事者意識が芽生えます。
育成計画の立て方
具体的な研修内容の中心になるのが、育成計画の作成演習です。到達目標を決め、必要な業務項目を洗い出し、いつ何を教えるかをスケジュールに落とし込みます。
目標設定シートなどを使い、自社の状況に合わせて手を動かすのが特徴です。計画どおりに進まないときの軌道修正の仕方まで含めて学ぶのが一般的です。
ケーススタディによる対応力
「指示しても締め切りを守らない」「同じ質問を繰り返す」。現場で実際に起きる困った場面を題材に、どう声をかけ、どう対処するかをグループで考えます。
正解が一つではない状況を擬似体験しておくと、本番であわてずに対応できます。他のトレーナーの考え方に触れられることも、ケーススタディの収穫といえるでしょう。
フィードバックと振り返り面談
教えっぱなしでは、新入社員は自分の成長を実感できません。定期的な振り返りの場を設け、できた点と次の課題を言葉にして伝える練習を行います。
多くの研修ではロールプレイ形式で、ほめ方や指摘の仕方を実際に口に出して練習します。1on1のような短い面談の進め方を扱う研修も増えています。
OJTにおける課題

そもそもOJTには、どのような課題があるのでしょうか。研修を検討する前提として、つまずきやすい3点を押さえておきます。
1. トレーナーの育成
まず最初に挙げられるのが、トレーナーの育成に関する課題です。そもそもトレーナー側の指導スキルが不足しているというケースが非常に多く見られます。
その理由の大部分は、トレーナーとしての育成や訓練を行う機会が少ないことにあります。業務を覚えるための研修は実施しても、トレーナーになるための研修機会は一般的に多くありません。
結果として指導スキルが追いつかず、新入社員に十分な教育が行えない、効率が悪い、場合によっては新入社員の離職を招いてしまう、という事態にもつながります。
2. トレーナーと新入社員のコミュニケーション
続いての課題は、Z世代の流入やテレワークの普及などによる、新入社員とのコミュニケーション問題です。
物心がつく頃からインターネットを通じてさまざまな価値観に触れ、働くことにも幅広い考え方を持つZ世代とは、従来どおりのコミュニケーションではうまくいかないケースもあるでしょう。またテレワークが広がったことで、対面でこまめに見守る指導がしづらい場面も生じています。
3. トレーナーの人員不足
さらには、OJTを行うトレーナー自体の不足という課題もあります。人材不足で普段の業務もギリギリで回っている状態では、新入社員の教育に手が回らないこともあるでしょう。それが原因で業務定着が遅れるという悪循環に陥りかねません。
対策としては、指導の時間をあらかじめ業務として組み込み、トレーナーの担当業務を一時的に減らすなど、現場全体で支える体制づくりが欠かせません。
OJTトレーナー研修を行うメリット

上記で触れたようなOJTにおける課題を解決する方法の一つが、OJTトレーナー研修です。ここでは、研修がもたらすメリットについてご紹介します。
1. 内部リソースを使わずにトレーナーを育成できる
OJTトレーナー研修の一番のメリットは、内部のリソースをかけずにトレーナーを育成できることです。トレーナー候補が研修を受講することで、指導の効率が向上します。
一度指導方法を学習すれば、その後ずっとトレーナーとして活躍できるため、長い目で見ても効果的といえるでしょう。
2. Z世代との関係性構築
新たな価値観をもつZ世代との関わり方には、ちょっとしたコツが必要です。研修を行うことで、新入社員と円滑なコミュニケーションを取れるようになります。
そのスキルはOJTの期間にとどまらず、配属後の継続的な関係づくりにも活用できます。
3. さらなるキャリアアップが望める
OJTトレーナーとしてのスキル習得は、OJTだけのスキルにとどまりません。育成スキルやコミュニケーションスキルの向上は、マネジメントにも必要な力であり、管理職へのキャリアアップに繋がります。
経営者や人事担当の方にとっては、研修を将来のマネジメント層を育てる過程として捉えることもできるでしょう。
OJTトレーナー研修の進め方と形態

研修と一口にいっても、進め方は一つではありません。自社の状況や人数に合わせて形態を選ぶことで、学習効果が変わってきます。代表的な3つの形態を紹介します。
集合研修(対面)
講師のもとに受講者が集まり、グループワークやロールプレイを交えて学ぶ形式です。その場で疑問を質問でき、他のトレーナーと悩みを共有できる点が利点といえます。
短期間で集中して指導の型を身につけたい場合に向いています。一方で、日程調整の手間や会場費がかかる点は考慮しておきましょう。
eラーニング(オンライン)
パソコンやスマートフォンで、各自の都合に合わせて受講できる形式です。拠点が分散している企業でも、同じ内容を均一に届けられます。
一度教材を用意すれば繰り返し使えるため、新しくトレーナーになった社員へのフォローにも便利です。受講後に理解度チェックを組み合わせると、知識の定着が高まります。
ブレンディッドラーニング(組み合わせ型)
集合研修とeラーニングの長所を生かし、両者を組み合わせる方法です。基礎知識はeラーニングで予習し、対面では実践演習に時間を割く、といった設計が代表例にあたります。
インプットと実践を分けることで、限られた研修時間を有効に使えます。準備の手間はかかるものの、定着のしやすさで選ばれることが増えています。
おすすめのOJTトレーナー研修
研修サービス「バヅクリ」のOJTトレーナー研修は、SL理論「状況対応型リーダ―シップ」に基づいた育成の基本を学ぶと共に、新しい価値観を持つZ世代のモチベーションを保ちつつ組織に貢献できる人材を育成するノウハウを、社員同士の交流を図りながら学べます。
OJT育成担当社員、中堅社員、人事担当者、管理職など、OJTの育成に関わる全ての方にオススメの研修です。
研修の効果を高めるポイント

せっかく研修を実施しても、現場で活かされなければ意味が薄れてしまいます。学んだ内容を定着させ、OJTの質につなげるための工夫を挙げます。
指導の時間を業務として組み込む
研修で意欲が高まっても、現場が忙しすぎると指導は後回しになりがちです。トレーナーの担当業務を調整し、指導の時間をあらかじめスケジュールに確保しておくことが、計画倒れを防ぐ第一歩です。
上司や周囲の協力を得られる体制を整えておくと、トレーナーが一人で抱え込まずに済みます。
フォローアップ研修で振り返る
一度学んだだけでは、現場で直面した悩みまではカバーしきれません。実施から数か月後にフォローアップの場を設け、うまくいった点や行き詰まった点を持ち寄ると、学びが現場の実感とつながります。
トレーナー同士が経験を共有し、互いのやり方からヒントを得られる時間にもなります。
トレーナーを一人にしない
指導がうまくいかないとき、トレーナーは「自分のせいだ」と抱え込みがちです。定期的に相談できる相手や場を用意し、悩みを言葉にできる環境をつくっておくことが、トレーナー自身の離職防止にもつながります。
育てる側を支える仕組みがあるほど、OJT全体の質は安定します。
まとめ
本記事では、OJTトレーナー研修についてご紹介しました。研修を行うことにより、新入社員の即戦力化を早めるだけでなく、トレーナー自身のキャリアアップにも役立てることができます。
指導スキルの標準化から育成計画づくり、研修後のフォローまでを押さえることで、OJTは個人の力量任せから組織の仕組みへと変わります。
この機会に、OJTトレーナー研修の受講を検討されてみてはいかがでしょうか。



