終身雇用が衰退し、働き方改革のもと人材の流動化が活発な今、従業員エンゲージメントに注目が集まっています。
今回は、企業にとって従業員エンゲージメントがなぜ必要なのか解説するとともに、従業員エンゲージメントをアップさせる施策や他社事例についてご紹介します。

エンゲージメントとは何か?

「エンゲージメント(engagement)」は、「婚約、誓約、約束、契約」を意味する言葉です。
ここから派生して、人事領域におけるエンゲージメントでは「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」という意味合いで使われています。

参考:https://service.jinjibu.jp/course/industry/engagement_survey/12/

いまさら聞けない!「従業員エンゲージメント」とは?

終⾝雇⽤が衰退し、働き⽅改⾰のもと⼈材の流動化が活発な今、従業員エンゲージメントに注⽬が集まっています。

HR研究所では、従業員エンゲージメントと従業員満足度の違いや、低下の原因とリスク、従業員エンゲージメントの向上がもたらすメリットをはじめ、どうすればエンゲージメントを高めることができるのか、いまさら誰にも聞けない「エンゲージメント」についての基本をまとめました。

下記からダウンロードできますので、エンゲージメント向上施策にぜひお役立てください。

従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い

従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い

従業員エンゲージメントと混同されやすい単語として、従業員満足度が挙げられます。
従業員満足度とは、企業が用意した給与や仕事、福利厚生や働く環境などに対して、従業員がどのくらい満足しているかを示すものです。

従業員エンゲージメントが、企業と従業員がお互い信頼関係にあるのに対して、従業員満足度は、企業から与えられる制度に対して従業員がどれだけ満足しているか、となります。

POINT

・従業員エンゲージメント…企業(または組織)と従業員の結びつき、関係性はどのくらい強いのか?良好なつながりを保てているのかなど、両者の関係性をスコア化して計ること。
・従業員満足度…企業から与えられた給与、待遇、仕事内容、働き方など諸制度に対してどのくらい満足しているか?項目ごとに従業員が評価をおこなう。

従業員満足度が高くても、事業の売上が伸びるとは限りません。
一方、従業員エンゲージメントは、事業売上アップに貢献する点もポイントになります。

従業員エンゲージメントが重要視される理由|エンゲージメントアップがもたらすメリット

従業員エンゲージメントが企業経営で重要視されるようになった理由を、2つの側面からご紹介します。

1. 少子高齢化に伴う、終身雇用の衰退

少子高齢化が進むにつれ、国内の労働力はどんどん減少傾向にあります。
これと同時に終身雇用が衰退し、副業やジョブ型雇用など新たな人事テーマが注目されるよう変化しました。

日本の人口減に耐えるために働き方改革が叫ばれる中、優秀な人材層はリモートワークを取り入れたり、複数企業と自由に契約を結んだり、副業などに意欲的です。
「定年まで安心して働ければいい」というニーズは徐々に減少した今、従業員が企業に求めるものも大きく変化・多様化しています。

この状況に答えつつ、継続的に事業運営を続けていくためには、企業と従業員のつながりであるエンゲージメントを強化することが必要不可欠となったのです。

2. コロナ禍以降の環境の変化

従業員エンゲージメントが注目されるようになった理由として、新型コロナウイルスによる環境変化も挙げられます。
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、適宜リモートワークや休業を取り入れる企業が増えました。
働き方が多様化し、注意していないと状況が見えづらいからこそ、改めて自社の従業員エンゲージメントを可視化すべき時期となっています。

コロナ禍になって、エンゲージメントサーベイ(従業員エンゲージメントの高さを計る調査のこと)を導入した企業もあり、今後もますますエンゲージメントへの注目度は高まるでしょう。

エンゲージメントアップがもたらすメリット

従業員エンゲージメントを高めることで、次のようなメリットが期待できます。

  • 業績の向上
  • 社内コミュニケーションの活性化
  • 離職質の低下 
  • サービスの質が高まり顧客満足度が上昇する など

従業員エンゲージメントが高まれば、従業員の企業への帰属意識も高まり、離職防止にもつながります。
エンゲージメントが高い状態では、従業員が企業の理念やビジョンを深く理解しているため、理念を軸とした質の高いサービス提供ができ、事業の売上アップにも貢献します。

従業員エンゲージメントを高めるための施策とは?

従業員エンゲージメントを高めるための施策

従業員エンゲージメントを高めるための施策例をご紹介します。

1. ミッション・ビジョン・バリューの浸透

従業員エンゲージメントを高めるためには、経営理念をはじめ、ミッション・ビジョン・バリューの浸透は必要不可欠です。
企業の考え方を分かりやすく従業員に伝え、腹落ちさせることで、帰属意識が高まったり企業への信頼が増したりするでしょう。

ミッション・ビジョン・バリューの浸透のためには、一度伝えて終わりではなく、グループワークや社内イベントをとおして複数回伝えることがポイントです。

2. 1on1や評価面談をおこなう

従業員が企業から正しく評価されている実感を持つために、評価面談や1on1は必ず実施することをおすすめします。
定期的に、与えられた目標に対しての振り返りをおこない、従業員の良い面・悪い面を丁寧にフィードバックをしていきます。

従業員と企業が常に同じ方向を向いて働いていけるよう、四半期ごと、1か月ごとなど一定のサイクルで評価をおこなうことが重要です。

3. ワークライフバランスを高める制度を整える

従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員の私生活と仕事の調和がとれるような「働き方」のサポートが重要です。
副業制度の導入、子育て制度の充実化、フレックスや変形労働時間制の導入、有給休暇奨励など、ワークライフバランスのために施策を検討してみましょう。

ただしワークライフバランスと言っても、私生活と仕事の境目があまりない状態でのめり込んで働きたい人や、残業は0時間で土日もきっちり休みたい人、本人の予定に合わせてがっつり働きたい時期とそうでない時期が分かれる人などさまざまいるため注意してください。

他社が取り組んでいる向上施策とは?

他社が取り組んでいる向上施策

従業員エンゲージメントの向上に取りくんでいる他社事例を3つご紹介します。

1. スターバックスコーヒー

アメリカ発祥のスターバックスコーヒーは、従業員をパートナーと呼び合い、サードプレイスの提供に重きを置いてきた企業です。
「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします」などのマニュアル営業をおこなわず、パートナー一人ひとりが自立した自由な接客を強みとしており、従業員エンゲージメントも非常に高い企業として有名です。

スターバックスコーヒーのエンゲージメントアップの一例

・雇用形態問わず、従業員をパートナーと呼ぶ…スターバックスコーヒーでは、正社員とアルバイト・パート社員を分けずにパートナーと呼んでいます。
企業に雇われているのではなく、企業と対等な立場で責任を持ち働く意味合いが含まれており、自発的に働く従業員を育てます。

・GABカードを送り合う…スターバックスコーヒーの行動規範を体現したパートナーに対して、メッセージを送り合う制度です。
自分の行動が店舗にどのように貢献したのか、行動規範に沿ってどのような行動ができたかを、従業員同士で評価し、高めあうことでエンゲージメントアップにつながります。

参考:Business Report FY2011 Starbucks Coffee Japan, Ltd.

2. Sansan株式会社

クラウド型の名刺データ管理アプリを展開するSansan株式会社では、定期的に従業員エンゲージメントを計測し、エンゲージメント向上に努めています。
中でも、働き方面の充実のために、「イエーイ制度」「チャージ休暇制度」を導入。
イエーイ制度は、在宅勤務で集中して仕事をするための制度であり、チャージ制度はリフレッシュのために3日間連続の休暇をとれる制度です。

従業員それぞれがパフォーマンスを高めやすいように、働き方面から環境を整えてエンゲージメントアップを図っています。

参考:ボーグル

3. グリー株式会社

エンゲージメントアップには、適切な評価と、メンバーコミュニケーションが必要不可欠です。
グリー株式会社では、2007年よりMBOによる目標管理を導入し、さらに1on1で定期的な振り返りをおこなうことで、個人の成長と組織目標の達成を実現しています。

ただ1on1をおこなうだけではなく、評価者であるマネージャーに対して「1on1研修」を実施。
評価者スキルを上げることで、1on1の質も高まり、マネージャーとメンバー間の信頼関係の質も高めることができます。

参考:SELECK

従業員エンゲージメントを計測する方法

従業員エンゲージメントを計測する方法

最後に、企業の従業員エンゲージメントが今どのような状態か確認し、継続的にエンゲージメントスコアを可視化していくための手法をご紹介します。

一般的に、従業員エンゲージメントを測定するには、エンゲージメントサーベイというツールを活用し、エンゲージメントスコア(従業員エンゲージメントがどのくらいかスコア化したもの)を可視化します。

モチベーション経営を支援している、リンクアンドモチベーションによると、従業員エンゲージメントの調査では以下のような質問を行うそうです。

  • あなたが勤めている会社を、家族や友人にどのくらい勧めたいですか?
  • 職場で自分の意思や意見が尊重されていると感じる
  • 自分が何を期待されているのかを知っている
  • この1年間で、仕事を通して成長できた
  • 自分の仕事に価値や誇りを見出しているか

引用:リンクアンドモチベーション「従業員エンゲージメントの指標と測定方法」

このような質問をおこないながら、次の指標のスコアを測定します。

①エンゲージメント総合指標…自社を他の人に進めたいか?という観点でeNPS(従業員ネットプロモータースコア)を計測したり、自社に対する総合的な満足度を計る
②エンゲージメントレベル指標…仕事に対して熱意はどのくらいか、活力レベルはどうか、どのくらい没頭しているかなどワークエンゲージメントスコアを計る
③エンゲージメントドライバー指標…組織、職務、個人などそれぞれの側面から従業員の状態をスコア化する

これらの指標をもとに、エンゲージメントサーベイツールやタレントマネジメントシステム、1on1ツールなどを用いてスコアを継続的に計測していきます。

調査するだけではエンゲージメントは低下する

従業員の満足度や組織の課題を把握するためにエンゲージメントサーベイを実施する企業が増えてきましたが、サーベイツールを導入するだけでは社員のエンゲージメントが低下することがアンケートによって明らかになりました。

サーベイの導入が社員の不満につながる理由はどういったものなのでしょうか。

調査結果は下記からダウンロードできますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

まとめ

従業員エンゲージメントの向上は、企業の生産性を高め、従業員を定着させるのに役立ちます。
「終身雇用制度があれば、従業員は企業に忠実に頑張ってくれる」という時代は終わりました。
これからは企業から従業員に働きかけ、エンゲージメント(企業と従業員の強いつながり)を構築することが必要不可欠です。
従業員エンゲージメントを高めるための施策として、経営理念の浸透や人事評価制度の整備だけでなく、社内イベントを取り入れながら社員間交流を活性化させるのもおすすめです。

エンゲージメントを高める社内イベント運営のコツや、オンラインならではのエンゲージメント施策について知りたい方は、下記の記事もあわせて参考にしてみてください。