「せっかく企業理念を掲げているのに、現場の社員まで浸透していない」
「理念研修をやっても、行動が変わらない」
など、理念浸透に悩む人事担当者・経営者の方も多いのではないでしょうか?
企業理念は、従業員が組織の方向性を理解するための重要な指針です。
しかし、立派な理念を掲げても、社員一人ひとりが「自分ごと」として捉え、実践に結びつかなければ意味がありません。
本記事では、理念浸透が失敗する原因を最新の調査データをもとに分析し、ワークショップ形式が効果的な理由と具体的な進め方を解説します。
目次
企業理念とは?パーパス・MVVとの違い

ここでは企業理念について改めて整理するとともに、よく混同されるパーパスやMVVとの違いを解説します。
企業理念の定義
企業理念とは、企業の存在意義や、大切にする価値観・考え方のこと。
組織における判断基準となる根幹であり、経営方針や事業戦略、人材育成の指針など、あらゆる企業活動の土台となります。
関連する概念との違い
企業理念と似た概念として、下記の用語があります。
| 用語 | 意味 |
| 企業理念 | 企業の根本的な考え方・世界観 |
| パーパス | 社会における存在意義 |
| ミッション | 企業が果たすべき使命・役割 |
| ビジョン | 実現したい将来像・到達点 |
| バリュー | 日々の行動指針・判断基準 |
本記事では「企業理念」の浸透を中心に解説しますが、ここで紹介するワークショップの進め方は、パーパスやMVVの浸透にも応用できる手法です。
自社で掲げている「組織の根幹となる価値観」の浸透施策として、ぜひ参考にしてください。
なお、企業理念の作り方や、パーパス経営の実践方法については、以下の記事でも解説しています。
【参考記事】
理念浸透の重要性

企業理念の浸透は、企業成長に直結する重要な経営課題です。
ここでは、調査データをもとに理念浸透の重要性を3つの観点から解説します。
人的資本経営における理念の位置づけ
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと。
日本では2023年3月期決算より、上場企業約4,000社に対して人的資本開示が義務化されました。
多くの企業が初めての開示に取り組んだ2023年は「人的資本開示元年」と呼ばれましたが、2024年以降は「実践元年」として、経営戦略と結びついた開示情報の「質」が重視されるフェーズに入っています。
その中で、パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」によると、理念・制度の浸透度合いと、業績には相関関係があるという結果が出ています。

そのため投資家も「理念が組織全体に浸透しているか」という指標をもとに、その会社の企業価値を評価するケースが増えているのです。
エンゲージメント向上への影響
米ギャラップ社の調査「State of the Global Workplace:2022 report」によると、日本でエンゲージメントの高い社員の割合はわずか5%で、アメリカの35%、グローバル平均の22%と比較しても低い数値に留まっています。
エンゲージメント向上のためには「なぜこの仕事をしているのか」「この会社で働く意味は何か」という理念への共感が重要です。
理念が浸透することで、従業員は納得感をもって業務に取り組めるようになり、仕事へのモチベーションや生産性・チームワークが高まります。
採用競争力の差別化
理念を明確化することで、「自分たちが何を目指している組織なのか」をわかりやすく説明できるようになり、優秀な人材を獲得しやすくなります。
電通の「Z世代就活生まるわかり調査2022」によると、就活生が就職活動でエントリーする企業を選ぶ際に重視していることとして、「ビジネスが社会に貢献している」が30.4%、「社長や経営層のビジョンや発言に共感できる」が22.5%となりました。
これは社風や業界・会社のネームバリューだけではなく、「その会社の理念」に注目する学生が一定数いることを示しています。

理念に共感した人材を集められれば、入社後のミスマッチも減り、早期離職の防止にもつながります。
採用市場が厳しさを増す中、理念浸透は採用ブランディングの観点からも重要な施策といえるでしょう。
理念が浸透しない3つの原因

理念浸透に取り組んでいるにもかかわらず、なかなか成果が出ないという企業も多いです。
ここでは、パーソル総合研究所やリクルートマネジメントソリューションズの調査データをもとに、理念が浸透しない原因を3つ解説します。
原因1:一方的な伝達で終わっている
パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」では、全国2万人を対象に、自社の企業理念を浸透させるためにどんな施策が取られているのかを調査しています。
その結果、「全体説明会」(24.8%)、「社内イントラ」(24.2%)、「社内報」(22.2%)など、一方通行型のコミュニケーション施策が多いことが明らかになりました。

しかし、こうした一方通行型の施策だけでは理念を「自分ごと」として捉えることは難しいもの。
経営層が一方的に語るだけでは、現場の社員には「トップダウンの押し付け」と受け取られてしまい、むしろ反発を招くこともあります。
理念を浸透させるには、社員自身が理念について考え、対話し、自分なりの解釈を言語化するプロセスが不可欠なのです。
原因2:抽象的で行動に落とし込めない
理念が浸透しない理由の一つに、「理念の抽象度が高すぎる」というものがあります。
同調査では、企業理念の浸透度合いを「理解している」「同意している」「実践している」「習慣になっている」の4段階に分け、それぞれの割合を調査しています。
その結果、「理解」「同意」していると回答した人の割合は4割前後である一方、「実践」「習慣」といった行動レベルでの浸透度合いはそれよりも低いことが分かりました。

また、企業理念に対するネガティブな声として「綺麗ごと感が強い」「現場との一貫性が欠如している」などが挙げられており、掲げている理念と日々の業務の間にギャップを感じている人が多いことも分かります。

どれだけ崇高な理念を掲げていても、一人ひとりが日々の業務と結びつけることができなければ、その理念は形骸化してしまいます。
そのため理念浸透を行う際には、抽象的な理念を各社員の具体的な行動レベルに落とし込む工夫が必要です。
原因3:単発イベントで終わってしまう
多くの企業では、理念浸透のための研修を実施しても、その後のフォローがありません。
そのため研修当日は盛り上がっても、日常業務に戻ると忘れられてしまう失敗がよく起こります。
実際に、リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2025」では、新入社員が身につけるべきこととして「会社の理念や価値観に沿った行動」が最下位(0.5%)でした。
この結果は、研修や内定式など単発のイベントだけでは、理念を浸透させるのは難しいことを示しています。

理念を浸透させるためには、継続的に理念に触れる機会を作り、日常業務の中で実践できる仕組みを作ることが重要です。
理念浸透にワークショップが効果的な理由

理念浸透の課題を解決する手段として注目されているのが、ワークショップ形式の研修です。
ここでは、なぜワークショップが理念浸透に効果的なのか、3つの理由を解説します。
理由1:対話を通じて「自分の言葉」で理解できる
パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」によると、企業理念・人事制度ともに浸透にプラスの影響が確認されたのは、「ロールプレイを含む研修」「車座・ワークショップ」などの「双方向型」のメディア・イベントでした。

この調査結果は、社員一人ひとりが自分なりに解釈し、「自分にとってこの理念はこんな意味を持つ」と発見するプロセスが、理念浸透において重要であることを示しています。
さらに、ワークショップを通じて他者の視点も知ることで、理念の多様な捉え方で理解できるようになります。
理由2:従業員の参画が浸透度を高める
同調査の結果、策定・浸透プロセスにおける従業員のインボルブメント(関与・参画・共感)の度合いが、浸透度と正の相関関係にあることが明らかになりました。

また、ワークショップなどの「対話機会」や、意見募集による「意見の吸い上げ」、そして理念が決まるまでの「プロセスの透明性」がインボルブメントを上昇させるとしています。
つまり、ワークショップを通じて、従業員が理念の策定等に参画する機会を作ることで、さらに理念への共感が生まれやすくなるのです。
理由3:体験学習による定着率の高さ
アメリカ国立訓練研究所が提唱する「ラーニングピラミッド理論」では、講義による学習の定着率は5%程度とされる一方、グループ討議では50%、体験学習では75%まで高まるとされています。

ワークショップは、アウトプット中心の学習のため記憶に定着しやすく、また公の場で発言するため、行動変容への心理的コミットメントが生まれやすいというメリットもあります。
理念浸透ワークショップの進め方

ここからは、実際に理念浸透ワークショップを実施する際の具体的な進め方を3つのステップで解説します。
Step1:理念を「自分の言葉」で語り直す
まずは、参加者一人ひとりが企業理念を読み、「自分にとってこの理念はどういう意味を持つか」を考える時間を作ります。
その後、4〜6名程度の小グループで自分なりの解釈を発表し合い、最後に全体で各グループから出た解釈を共有します。
一つの正解を押し付けるのではなく、多様な解釈を知ることで、従業員一人ひとりが「自分なりの意味づけ」をしやすくなり、結果的に理念が自分の中に落とし込まれていきます。
【やること】
- 個人ワーク:理念を読んで自分なりに解釈する(5-10分)
- グループ共有:各自の解釈を発表し合う(20-30分)
- 全体共有:グループで出た多様な解釈を共有
【効果】
- 理念の多様な理解の仕方を知ることができる
- 「正解」を求めるのではなく、自分なりの意味づけができる
Step2:日常業務との接点を見つける
続いて、抽象的な理念を各人の日常業務に結びつけるワークを行います。
「この理念を実践するとは、具体的にどういう行動をすることか?」「自分の業務のどの場面で理念が活かせるか?」を、グループで議論してもらいましょう。
その際、社内で理念を体現している社員のエピソードを共有することで、理念の実践イメージがより具体的になります。
理念が「綺麗ごと」ではなく、日々の業務の中で実践できるものだと実感できれば、実際の行動変容につながりやすくなるでしょう。
【やること】
- グループディスカッション:「この理念は、自分の業務のどの場面で活かせるか?」を具体化
- 事例共有:理念を体現している社員のエピソードを語り合う
- 発表:各グループの議論内容を全体共有
【効果】
- 抽象的な理念を行動レベルに落とし込める
- 他部署の実践例を知ることで、理念の実践イメージが湧く
Step3:明日からのアクションを宣言する
最後に、ワークショップでの学びを実践につなげるためのアクションプランを設定します。
「明日から、理念に基づいてこんな行動をします」と全体の前で宣言することで、実行への意識が高まります。
【やること】
- 個人ワーク:理念に基づいて「明日から何をするか」を決める(5-10分)
- 全体共有:アクションプランを発表(一人1-2分)
- 振り返り:ワークショップ全体の感想共有
【効果】
- 行動変容へのコミットメントが生まれる
- 同僚の前で宣言することで、実行への意識が高まる
ワークショップを成功させる3つのポイント

理念浸透ワークショップの効果を最大化するには、場づくりや継続的なフォローアップも重要です。
ここでは、ワークショップを成功させるために押さえるべき3つのポイントを解説します。
ポイント1:心理的安全性を確保する
ワークショップの冒頭で、「正解探し」ではなく「対話」の場であることを伝えましょう。
参加者が安心して自分の考えを語れる雰囲気を作ることが重要です。
また、可能であれば経営層も一緒に参加し、フラットに意見を交わす機会を作ることで、「理念は押し付けられるものではなく、一緒に作り上げていくものだ」というメッセージが伝わります。
発言を否定せず、多様な解釈を尊重する雰囲気づくりを心がけましょう。
ポイント2:対話の時間を十分に取る
ワークショップでは、インプット3割、対話7割の時間配分を意識しましょう。
説明が長すぎると、参加者は受け身になってしまい、主体的な対話が生まれにくくなってしまいます。
またグループディスカッションも、人数が多すぎると一人ひとりの発言機会が減るため、少人数グループ(4-6名)での議論が効果的です。
ファシリテーターは話しすぎず、参加者の対話を促す役割を全うすることが重要です。
ポイント3:継続的なフォローアップを設計する
ワークショップはあくまでも「きっかけ」であり、一度のワークショップで理念が完全に浸透することはありません。
そのため、現場の中で継続的に理念に触れる機会と、理念の実践を継続できるフォローアップ体制を築くことが重要です。
たとえばワークショップ後の1on1で理念について対話する時間を設けたり、定期的な理念対話会の開催・理念体現行動の表彰制度を実施したりなど、継続的な接点を設計しましょう。
上記の取り組みを続けることで、理念が組織文化として定着していきます。
理念浸透に効果的なワークショップ
理念浸透ワークショップを自社で設計・実施するのが難しい場合は、外部の専門プログラムを活用するのも有効です。
ここでは、バヅクリの対話型実践研修「ムキアイ」から、理念浸透に特化したワークショッププログラムを2つご紹介します。
会社の理念共感ワークショップ
「自社の理念のどこが好きか?」「会社の理念を体現している人は誰?」など、従業員自身が理念について深く考えるプログラムです。
グループディスカッションを通じて、理念を多角的に捉えていきます。
このワークショップでは、理念を「覚えるもの」ではなく「共感するもの」として扱います。
参加者は理念の中で自分が特に共感する部分を見つけ、それを他者と共有することで、理念への愛着を深めることができます。
理念を身近に感じることで、エンゲージメント向上が期待できます。
他者の視点を知ることで、理念への理解が深まり、「この理念のもとで働けることが誇らしい」という感情が芽生えます。
おえかきコミュニケーションワークショップ
自社の理念を絵で表現して参加者と共有するプログラムです。
文章では理解しづらい理念を、直感的な絵で表現することで、社員それぞれの捉え方を理解できます。
絵を描くことで、普段は言語化しにくい理念の解釈を伝えやすくなるとともに、「自分はこの理念をこんなふうに捉えているんだ」という新たな発見にもつながるでしょう。
会社や組織に対するエンゲージメントや帰属意識の向上につながります。
チームビルディングにもなり、楽しみながら理念について考えられるので、まだ浸透の浅い新卒や内定者におすすめです。
また参加者同士の絵を見比べることで、「同じ理念でもこんなに違う捉え方があるんだ」という気づきも生まれるでしょう。
仕事と組織の向き合い方を変える対話型実践研修「ムキアイ」
「研修はやっている。でも現場は変わっていない気がする」「理論は学んだはずなのに、実践ではうまく使えていない」そんなお悩みはありませんか?
バヅクリの対話型実践研修「ムキアイ」は、身につけてほしい力と、現場で本当に使える力を結びつける、理論と実践の“架け橋”となる対話型実践研修です。
職場に“行動の変化”と“関係性の変化”を起こす研修をお探しの方は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ
企業理念の浸透は、人的資本経営やエンゲージメント向上、採用競争力の強化など、企業の持続的成長に直結する重要な経営課題となっています。
しかし、多くの企業では理念研修が形骸化し、社員の行動変容につながっていないのが現状です。
これらの課題を解決する有力な手段が、ワークショップ形式の研修です。
本記事で紹介した内容を参考に、自社に最適な理念浸透施策の設計・改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。


